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第1部 第9話
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5人がグラウンドに到着すると、怪物はすでにグラウンドを出て校舎の方に向かっていた。
「作戦通りよろしく頼む!2人とも!」
「わかった!」
そう言ってツバサはチヒロに出してもらったインカムを付け、更にさすまたのようなものを持って怪物の方へと飛んでいった。もう1人の方のヒイロはインカムを付けてさすまたのようなものを持ったまま動かなかった。チヒロは恐怖で動けないのではないかと心配になり「大丈夫、ソラくん?」と聞くとヒイロは意を決したように「ヤハギさん!」と口を開いた。
「ヤハギさん、もしかしたらこうして話せるのは最後になるかもしれないから言うけど、食べたから。」
「えっ食べたって何を?」
「ヤハギさんにもらったエナジーバーちゃんと食べたから!どうしてもこれだけは直接言っておきたくて。」
そう言うとヒイロはスッキリした表情で怪物の方へ飛んでいった。
発言の意味が分からず、ポカンとしていたチヒロに対してショウが「ごめんね、ヤハギさん、説明が足りなくて。ヒイロの奴、ずっと気にしていたんだって。先週の土曜日にヤハギさんからもらったエナジーバーを食べていなかったこと。それを今日学校に来る前に食べたからそれを伝えたかったみたい。今日ヤハギさんとぶつかった時に俺が『まだいてくれて良かった。』って言ったでしょ。あれはヒイロがエナジーバーを食べたことを直接伝えておきたいって言ってたからなんだ。」と補足説明した。
「あっそうだったんだ。すっかり忘れてたよ。」
チヒロはヒイロの発言の意味が理解できてスッキリした表情をしました。
「お互いにスッキリしたところで頼むぞ、ヒイロ!」
「わかってるよ!」
インカムからショウがチヒロに自分の発言の意味を説明しているのを聞いていたヒイロは、ばつが悪そうに答えた。
「まずは怪物をグラウンドに誘導するんだ!ただしサッカー部のグラウンドには倒れている生徒がいるから、隣の陸上部のグラウンドにね!」
「「わかった。」」
怪物をグラウンドに誘導するためにツバサが怪物の周り(怪物がツバサを捕まえようとしてもギリギリ届かない距離)を飛んで注意を引き、ヒイロが後ろからさすまたのようなものでグラウンドの方に押していった。もちろんそんなことをすれば怪物はヒイロに襲い掛かろうとしたが、そうなったらツバサとヒイロの役割を交代してヒイロが怪物の周りを飛んで注意を引き、ツバサが後ろから怪物を押した。それを繰り返して何とか怪物を陸上部のグラウンドまで連れてくることができた。
「よしっ!ここまで来たら後は作戦通りに。」
ショウが作戦通りに事が進んでいくので安心しきっていたら、怪物が急にヒイロたちを捕まえようとするのをやめてしゃがみ込んだ。
「あれっ怪物の奴しゃがんじゃったけどどうしよう、ショウ?」
そう言いながらツバサが高度を下げて怪物に近づいていくと「う~ん。とりあえずさすまた…。」
「ダメ!今すぐ離れて!」
ショウが指示を出そうとしたら急にトモが割り込んできた。ツバサがそれを聞いて怪物に近づくのをやめた瞬間、怪物が地面をけってツバサ目掛けてジャンプしてきた。突然のことでツバサは動けずにいると「ツバサ~!」ヒイロがさすまたのようなもので怪物の横腹を押してツバサから怪物を遠ざけた。怪物は急に体勢を崩されたにもかかわらずきれいに着地した。
「危なかった~!ありがとう!ヒイロ!イヌヤマさん!すごいよ、よくわかったね!」
「怪物がジャンプすればツバサくんを捕まえられるって考えているのが聞こえただけだよ。すごいのは私よりソラくんの方だよ!」
「俺もただ無我夢中だっただけだよ。それよりどうする、ショウ?怪物の奴またしゃがんだけど。」
「むしろまたジャンプさせればいいよ。ジャンプして着地するまでは無防備だからそこを狙えばいいよ。」
「「分かった。」」
ショウの指示にヒイロとツバサが返事をした瞬間、怪物がまたツバサ目掛けてジャンプしてきた。ツバサはさっきよりも高い所を飛んでいたのにもかかわらず、怪物は悠々とツバサの飛んでいる位置までジャンプしてきて、ツバサを捕まえようとしました。しかし今度はツバサも来るのが分かっていたので高度をさらに上げて怪物をかわした。そしてツバサを捕まえられずに落ちていく怪物をヒイロが羽交い締めにした。
「よしっ!そのまま行け~!ヒイロ~!」
ショウの叫び声を合図にヒイロは怪物と一緒に上空へとロケットのように高速で飛んでいった。
「あれっ?そういえば怪物をソラくんが捕まえる所までしか作戦を聞いていなかったんだけど、この後ってどうするの?私はてっきりヒデオさんみたいな人が来るまで捕まえとくものだと思っていたんだけど。」
チヒロが今までなおざりにしてきた疑問をショウにぶつけた。
「ううん。違うよ。ヒイロには怪物を遠くに連れて行ってもらうんだよ。」
「えっ!でも連れて行った先で暴れられたら、そこにいる人たちに迷惑がかかるんじゃない?大丈夫?」
「大丈夫だよ!人なんていないから!あっいや、少しはいるかな。国際宇宙ステーションとかに何人かは。」
「もしかしてヒイロくんの行き先って…。」
「宇宙だよ!」
「「え~!」」
ショウの発言に質問していたチヒロだけでなく、それを聞いていたトモまで驚きの声を上げました。
「宇宙まで飛べるの、ソラくんって?」
「たぶん飛べる。ヒイロの本当の能力なら。」
「ソラくんの能力って『空を飛べる』ってだけじゃなかったの?」
「違うよ。ヒイロが本当に願ったのは『UFOのように飛べるようになりたい!』だから。UFOなら宇宙まで行けても不思議はないでしょ。」
「確かに。でも宇宙のことあまり知らない私でも知ってるけど宇宙って酸素ないんでしょ?ソラくんは宇宙に行っても大丈夫なの?」
「それはもう賭けだね。大丈夫なことを祈るしかないよ。」
そう言ってショウはヒイロが飛んで行って見えなくなった先を見つめていた。
ゴーッというロケットのような推進剤を燃やしたガスを噴出することもなく、どちらかと言うとスーッという感じでヒイロは怪物を羽交い締めにしたまま宇宙を目指して飛んでいた。
ショウに言われて出来るような気がして怪物を連れて飛び立ったのはいいものの、数分もすれば不安感の方が強くなってきていました。一応ショウに言われた通り、ロケットと同じく東向きに飛び続けていたが、いつまで経っても宇宙に近づいている感じがしなかった。なぜならヒイロの知識でも宇宙には酸素がなくて気温もマイナス何十度以下にもなるということは知っていたので、いつまで経っても息苦しくなることもなく寒く感じることもなかったため、宇宙どころかエベレストの高さにも達していないように思えたからだった。それにたとえ宇宙に行けたとしても、そんな環境でヒイロ自身が無事でいられるかという疑問もあった。
ですが宇宙に到達したか止まって確認する勇気はヒイロにはなかった。確認して宇宙に全然届いていなかった場合、今、羽交い締めにしている怪物をどうやって倒すか考え直さなくてはいけなかったからだった。それだったら宇宙に行けなくともこのままずっと飛んで、全国で出現した怪物を倒し終わるまで時間を稼いでヒデオみたいな怪物を倒す力を持った人にこの怪物を倒してもらおうとヒイロは考えていた。
ヒイロは不安感と恐怖から飛び立った時からずっと目を閉じていましたが、ショウに「ロケットなら10分くらいで宇宙に到達するよ。」と聞いていたので、10分つまり600秒を数えたら怖いけど一度目を開けてみようと思っていた。
「…598、599、600。」とヒイロが600秒を数え終わり恐る恐る目を開けてみると、目に飛び込んできたのは空の青さではなくてほぼ真っ暗な世界だった。ヒイロは飛ぶのを止めて下を見てみると、地球をかなり上空から俯瞰した光景が見えた。今まで映像でしか見たことがない光景だった。
「(ショウの予想が正しければ、これが上空100キロから見える景色か。)」
ヒイロが感慨深げにしていると大事なことに気付いた。
「(そうだ!もう宇宙なのに全然息苦しくないし、全然寒くない。「UFOのように飛べる」って能力は宇宙に行けるだけじゃなくて、ショウが予想した通り宇宙空間でも平気でいられるみたいだな。)」
生きて宇宙に来られたことでヒイロは怪物のことをすっかり忘れていました。
「(そうだ!怪物は?)」とヒイロがやっと怪物に注目すると、体の水分が蒸発してミイラのようになっていた。ヒイロは羽交い締めをやめて手で怪物の体をコンコンと叩いてみましたが、怪物は完全にミイラになっていたのでピクリとも動きませんでした。
「(良かった~!これもショウが予想した通りだ。後はこの怪物が地球から遠く離れる様にしてやればいいんだよな。)」
ヒイロは怪物の体を両手で力いっぱい押した。すると怪物の体はスーッと動いてヒイロから離れていった。ヒイロはしばらく怪物が自分から離れていくのを眺めていたが、怪物が動き出すこともなく遠くに行ったことを確認すると、来た時とは逆に地球の方へ飛んでいった。
「ねぇ、ホントに大丈夫だよね?」
ヒイロが怪物を羽交い締めにして上空へと飛んで行って30分以上経ち、ヒイロの安否を気にしたチヒロがショウに尋ねた。
「たぶん大丈夫だよ。」
ショウがあっけらかんと答えるのでチヒロはますます不安になった。
「たぶんじゃ困るんだよ!たぶんじゃ!ていうか遅すぎない?アカシくんの話じゃ10分くらいで宇宙に行けるんでしょ?そこでミイラになった怪物を放してきて戻ってくるだけなのに時間かかり過ぎじゃない?」
「確かにロケットなら10分で宇宙に行けるって言ったけど、ヒイロはロケットじゃないからもっと時間がかかっているのかもしれないし。それに怪物を放した後また動き出さないか見ているのかもしれないよ。」
ショウの言っていることも一理あるのでチヒロはそれ以上騒ぐのを止めた。
「今は何か地球に下りてくるものはないか、空を見上げているしかないよ。」
「分かった!みんなもお願いね!」
チヒロは周りの生徒たちに依頼した。ショウ、ツバサ、チヒロ、トモ以外の生徒たちは逃げ遅れて、ヒイロが怪物を連れて宇宙へと飛んで行ったのをたまたま見ていて、「何が起こったんだ?」とショウたちのいるグラウンドに集まってきた生徒たちだった。
「あ、あれは何だ?」
空を見上げていた生徒の一人が何か空から下りてくるものを見つけて指差した。
「ホントだ。何だろう?」
「なんかこっちの方に来てない?」
それを見た生徒たちが騒ぎ始めた。
「どこどこ?」
「ほら、あそこ。」
チヒロが落ちてくるものを見ようと生徒が指差す方を見上げた。確かに指差す方を見ると、ゴマと同じくらいの小ささですが何かが下りて来るのが見えた。よく見ようとチヒロは双眼鏡で覗いた。
「あ、ソラくんだ!ソラくんが帰って来た!」
「え!ホントに?」
「ホントだよ!ソラくんが帰って来た!」
チヒロの発言でワーッと歓声が起こった。ヒイロはショウたちがいるグラウンド目掛けて下りてきているらしく、段々と肉眼でも確認できるようになった。そしてショウたちがいるところから少し離れた所に着地した。ショウたちは一斉にヒイロの元へ駆け寄った。
「ヒイロ、怪物はどうなった?」
ショウはヒイロの元へ駆け寄ると誰よりも先に口を開きました。
「ショウ、お前が言った通り、宇宙へ行ったら怪物の奴、ミイラになってたんだよ!だから二度と地球に来ないように力いっぱい押してやったら、スーッと離れて行ったよ!あと宇宙へ行っても俺は息苦しくなかったし、全く寒くなかった!これもショウが予想した通りだった!もしかしてチカラが俺のこと羨ましいと思っているのって、俺が宇宙へ行ける能力があるって知ってたからじゃないの?ショウ、俺の能力をチカラにしゃべっただろ?」
「いや、しゃべってないよ。だから違うと思う。」
「そっか~。違うのか。じゃあ、何でだろう?あれ、みんなどうしたの?」
ヒイロが帰って来た時は周りで騒いでいた生徒たちが段々と静かになったので、ヒイロは不思議に思った。しかも女子の多くが目線をそらしているように感じられた。するとチヒロがエプロンのポケットから取り出せる大きさで一番大きいサイズのタオルを取り出してヒイロに差し出した。
ヒイロが訳も分からずに受け取ると、ショウが「ヒイロ、お前今まっぱだかなんだよ。たぶんお前の体は大丈夫でも、お前が着ていた服は宇宙から戻ってくる時に燃え尽きたみたいだな。ほら、早くタオルを巻きなよ。ヤハギさんはお前が裸をみんなに見られるのが恥ずかしいだろうと思っているんだよ。」と教えてくれた。
それを聞いたヒーローはひどく赤面した。
「作戦通りよろしく頼む!2人とも!」
「わかった!」
そう言ってツバサはチヒロに出してもらったインカムを付け、更にさすまたのようなものを持って怪物の方へと飛んでいった。もう1人の方のヒイロはインカムを付けてさすまたのようなものを持ったまま動かなかった。チヒロは恐怖で動けないのではないかと心配になり「大丈夫、ソラくん?」と聞くとヒイロは意を決したように「ヤハギさん!」と口を開いた。
「ヤハギさん、もしかしたらこうして話せるのは最後になるかもしれないから言うけど、食べたから。」
「えっ食べたって何を?」
「ヤハギさんにもらったエナジーバーちゃんと食べたから!どうしてもこれだけは直接言っておきたくて。」
そう言うとヒイロはスッキリした表情で怪物の方へ飛んでいった。
発言の意味が分からず、ポカンとしていたチヒロに対してショウが「ごめんね、ヤハギさん、説明が足りなくて。ヒイロの奴、ずっと気にしていたんだって。先週の土曜日にヤハギさんからもらったエナジーバーを食べていなかったこと。それを今日学校に来る前に食べたからそれを伝えたかったみたい。今日ヤハギさんとぶつかった時に俺が『まだいてくれて良かった。』って言ったでしょ。あれはヒイロがエナジーバーを食べたことを直接伝えておきたいって言ってたからなんだ。」と補足説明した。
「あっそうだったんだ。すっかり忘れてたよ。」
チヒロはヒイロの発言の意味が理解できてスッキリした表情をしました。
「お互いにスッキリしたところで頼むぞ、ヒイロ!」
「わかってるよ!」
インカムからショウがチヒロに自分の発言の意味を説明しているのを聞いていたヒイロは、ばつが悪そうに答えた。
「まずは怪物をグラウンドに誘導するんだ!ただしサッカー部のグラウンドには倒れている生徒がいるから、隣の陸上部のグラウンドにね!」
「「わかった。」」
怪物をグラウンドに誘導するためにツバサが怪物の周り(怪物がツバサを捕まえようとしてもギリギリ届かない距離)を飛んで注意を引き、ヒイロが後ろからさすまたのようなものでグラウンドの方に押していった。もちろんそんなことをすれば怪物はヒイロに襲い掛かろうとしたが、そうなったらツバサとヒイロの役割を交代してヒイロが怪物の周りを飛んで注意を引き、ツバサが後ろから怪物を押した。それを繰り返して何とか怪物を陸上部のグラウンドまで連れてくることができた。
「よしっ!ここまで来たら後は作戦通りに。」
ショウが作戦通りに事が進んでいくので安心しきっていたら、怪物が急にヒイロたちを捕まえようとするのをやめてしゃがみ込んだ。
「あれっ怪物の奴しゃがんじゃったけどどうしよう、ショウ?」
そう言いながらツバサが高度を下げて怪物に近づいていくと「う~ん。とりあえずさすまた…。」
「ダメ!今すぐ離れて!」
ショウが指示を出そうとしたら急にトモが割り込んできた。ツバサがそれを聞いて怪物に近づくのをやめた瞬間、怪物が地面をけってツバサ目掛けてジャンプしてきた。突然のことでツバサは動けずにいると「ツバサ~!」ヒイロがさすまたのようなもので怪物の横腹を押してツバサから怪物を遠ざけた。怪物は急に体勢を崩されたにもかかわらずきれいに着地した。
「危なかった~!ありがとう!ヒイロ!イヌヤマさん!すごいよ、よくわかったね!」
「怪物がジャンプすればツバサくんを捕まえられるって考えているのが聞こえただけだよ。すごいのは私よりソラくんの方だよ!」
「俺もただ無我夢中だっただけだよ。それよりどうする、ショウ?怪物の奴またしゃがんだけど。」
「むしろまたジャンプさせればいいよ。ジャンプして着地するまでは無防備だからそこを狙えばいいよ。」
「「分かった。」」
ショウの指示にヒイロとツバサが返事をした瞬間、怪物がまたツバサ目掛けてジャンプしてきた。ツバサはさっきよりも高い所を飛んでいたのにもかかわらず、怪物は悠々とツバサの飛んでいる位置までジャンプしてきて、ツバサを捕まえようとしました。しかし今度はツバサも来るのが分かっていたので高度をさらに上げて怪物をかわした。そしてツバサを捕まえられずに落ちていく怪物をヒイロが羽交い締めにした。
「よしっ!そのまま行け~!ヒイロ~!」
ショウの叫び声を合図にヒイロは怪物と一緒に上空へとロケットのように高速で飛んでいった。
「あれっ?そういえば怪物をソラくんが捕まえる所までしか作戦を聞いていなかったんだけど、この後ってどうするの?私はてっきりヒデオさんみたいな人が来るまで捕まえとくものだと思っていたんだけど。」
チヒロが今までなおざりにしてきた疑問をショウにぶつけた。
「ううん。違うよ。ヒイロには怪物を遠くに連れて行ってもらうんだよ。」
「えっ!でも連れて行った先で暴れられたら、そこにいる人たちに迷惑がかかるんじゃない?大丈夫?」
「大丈夫だよ!人なんていないから!あっいや、少しはいるかな。国際宇宙ステーションとかに何人かは。」
「もしかしてヒイロくんの行き先って…。」
「宇宙だよ!」
「「え~!」」
ショウの発言に質問していたチヒロだけでなく、それを聞いていたトモまで驚きの声を上げました。
「宇宙まで飛べるの、ソラくんって?」
「たぶん飛べる。ヒイロの本当の能力なら。」
「ソラくんの能力って『空を飛べる』ってだけじゃなかったの?」
「違うよ。ヒイロが本当に願ったのは『UFOのように飛べるようになりたい!』だから。UFOなら宇宙まで行けても不思議はないでしょ。」
「確かに。でも宇宙のことあまり知らない私でも知ってるけど宇宙って酸素ないんでしょ?ソラくんは宇宙に行っても大丈夫なの?」
「それはもう賭けだね。大丈夫なことを祈るしかないよ。」
そう言ってショウはヒイロが飛んで行って見えなくなった先を見つめていた。
ゴーッというロケットのような推進剤を燃やしたガスを噴出することもなく、どちらかと言うとスーッという感じでヒイロは怪物を羽交い締めにしたまま宇宙を目指して飛んでいた。
ショウに言われて出来るような気がして怪物を連れて飛び立ったのはいいものの、数分もすれば不安感の方が強くなってきていました。一応ショウに言われた通り、ロケットと同じく東向きに飛び続けていたが、いつまで経っても宇宙に近づいている感じがしなかった。なぜならヒイロの知識でも宇宙には酸素がなくて気温もマイナス何十度以下にもなるということは知っていたので、いつまで経っても息苦しくなることもなく寒く感じることもなかったため、宇宙どころかエベレストの高さにも達していないように思えたからだった。それにたとえ宇宙に行けたとしても、そんな環境でヒイロ自身が無事でいられるかという疑問もあった。
ですが宇宙に到達したか止まって確認する勇気はヒイロにはなかった。確認して宇宙に全然届いていなかった場合、今、羽交い締めにしている怪物をどうやって倒すか考え直さなくてはいけなかったからだった。それだったら宇宙に行けなくともこのままずっと飛んで、全国で出現した怪物を倒し終わるまで時間を稼いでヒデオみたいな怪物を倒す力を持った人にこの怪物を倒してもらおうとヒイロは考えていた。
ヒイロは不安感と恐怖から飛び立った時からずっと目を閉じていましたが、ショウに「ロケットなら10分くらいで宇宙に到達するよ。」と聞いていたので、10分つまり600秒を数えたら怖いけど一度目を開けてみようと思っていた。
「…598、599、600。」とヒイロが600秒を数え終わり恐る恐る目を開けてみると、目に飛び込んできたのは空の青さではなくてほぼ真っ暗な世界だった。ヒイロは飛ぶのを止めて下を見てみると、地球をかなり上空から俯瞰した光景が見えた。今まで映像でしか見たことがない光景だった。
「(ショウの予想が正しければ、これが上空100キロから見える景色か。)」
ヒイロが感慨深げにしていると大事なことに気付いた。
「(そうだ!もう宇宙なのに全然息苦しくないし、全然寒くない。「UFOのように飛べる」って能力は宇宙に行けるだけじゃなくて、ショウが予想した通り宇宙空間でも平気でいられるみたいだな。)」
生きて宇宙に来られたことでヒイロは怪物のことをすっかり忘れていました。
「(そうだ!怪物は?)」とヒイロがやっと怪物に注目すると、体の水分が蒸発してミイラのようになっていた。ヒイロは羽交い締めをやめて手で怪物の体をコンコンと叩いてみましたが、怪物は完全にミイラになっていたのでピクリとも動きませんでした。
「(良かった~!これもショウが予想した通りだ。後はこの怪物が地球から遠く離れる様にしてやればいいんだよな。)」
ヒイロは怪物の体を両手で力いっぱい押した。すると怪物の体はスーッと動いてヒイロから離れていった。ヒイロはしばらく怪物が自分から離れていくのを眺めていたが、怪物が動き出すこともなく遠くに行ったことを確認すると、来た時とは逆に地球の方へ飛んでいった。
「ねぇ、ホントに大丈夫だよね?」
ヒイロが怪物を羽交い締めにして上空へと飛んで行って30分以上経ち、ヒイロの安否を気にしたチヒロがショウに尋ねた。
「たぶん大丈夫だよ。」
ショウがあっけらかんと答えるのでチヒロはますます不安になった。
「たぶんじゃ困るんだよ!たぶんじゃ!ていうか遅すぎない?アカシくんの話じゃ10分くらいで宇宙に行けるんでしょ?そこでミイラになった怪物を放してきて戻ってくるだけなのに時間かかり過ぎじゃない?」
「確かにロケットなら10分で宇宙に行けるって言ったけど、ヒイロはロケットじゃないからもっと時間がかかっているのかもしれないし。それに怪物を放した後また動き出さないか見ているのかもしれないよ。」
ショウの言っていることも一理あるのでチヒロはそれ以上騒ぐのを止めた。
「今は何か地球に下りてくるものはないか、空を見上げているしかないよ。」
「分かった!みんなもお願いね!」
チヒロは周りの生徒たちに依頼した。ショウ、ツバサ、チヒロ、トモ以外の生徒たちは逃げ遅れて、ヒイロが怪物を連れて宇宙へと飛んで行ったのをたまたま見ていて、「何が起こったんだ?」とショウたちのいるグラウンドに集まってきた生徒たちだった。
「あ、あれは何だ?」
空を見上げていた生徒の一人が何か空から下りてくるものを見つけて指差した。
「ホントだ。何だろう?」
「なんかこっちの方に来てない?」
それを見た生徒たちが騒ぎ始めた。
「どこどこ?」
「ほら、あそこ。」
チヒロが落ちてくるものを見ようと生徒が指差す方を見上げた。確かに指差す方を見ると、ゴマと同じくらいの小ささですが何かが下りて来るのが見えた。よく見ようとチヒロは双眼鏡で覗いた。
「あ、ソラくんだ!ソラくんが帰って来た!」
「え!ホントに?」
「ホントだよ!ソラくんが帰って来た!」
チヒロの発言でワーッと歓声が起こった。ヒイロはショウたちがいるグラウンド目掛けて下りてきているらしく、段々と肉眼でも確認できるようになった。そしてショウたちがいるところから少し離れた所に着地した。ショウたちは一斉にヒイロの元へ駆け寄った。
「ヒイロ、怪物はどうなった?」
ショウはヒイロの元へ駆け寄ると誰よりも先に口を開きました。
「ショウ、お前が言った通り、宇宙へ行ったら怪物の奴、ミイラになってたんだよ!だから二度と地球に来ないように力いっぱい押してやったら、スーッと離れて行ったよ!あと宇宙へ行っても俺は息苦しくなかったし、全く寒くなかった!これもショウが予想した通りだった!もしかしてチカラが俺のこと羨ましいと思っているのって、俺が宇宙へ行ける能力があるって知ってたからじゃないの?ショウ、俺の能力をチカラにしゃべっただろ?」
「いや、しゃべってないよ。だから違うと思う。」
「そっか~。違うのか。じゃあ、何でだろう?あれ、みんなどうしたの?」
ヒイロが帰って来た時は周りで騒いでいた生徒たちが段々と静かになったので、ヒイロは不思議に思った。しかも女子の多くが目線をそらしているように感じられた。するとチヒロがエプロンのポケットから取り出せる大きさで一番大きいサイズのタオルを取り出してヒイロに差し出した。
ヒイロが訳も分からずに受け取ると、ショウが「ヒイロ、お前今まっぱだかなんだよ。たぶんお前の体は大丈夫でも、お前が着ていた服は宇宙から戻ってくる時に燃え尽きたみたいだな。ほら、早くタオルを巻きなよ。ヤハギさんはお前が裸をみんなに見られるのが恥ずかしいだろうと思っているんだよ。」と教えてくれた。
それを聞いたヒーローはひどく赤面した。
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そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~
朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
長きに渡る日本奪還の戦いも、いよいよこれで最終章。
圧倒的な力を誇る邪神軍団に、鶴と誠はどのように立ち向かうのか!?
この物語、とうとう日本を守りました!
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