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第1部 第7話
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「ありがとうございます。家に上げてもらった上にテレビまで見せてもらって。」
「いいのよ。私もニュースが見たかったから。」
ヒイロの家に上がる前に自分たちの学校に怪物が出たことを知ったショウとツバサは、家に上げてもらうとすぐに、ヒイロの母親に頼んでテレビのニュースを見せてもらっていた。
「なんかすごいことになってるね。47都道府県全てに1体以上の怪物が現れるなんて。」
「ああ。しかもこの状況じゃ俺たちの学校にユウキヒデオみたいな怪物を倒せる能力を持った人が来るのは遅くなるだろうな。」
「えっ!どうして?」
「考えてみろよ。世間一般では俺たちが通う学校には怪物を倒せる能力を持った生徒がいっぱいいると思われている。そんな場所をユウキヒデオが他の被害を受けてる場所より優先して守ったら、その要請を出した国や自治体が世間からバッシングを受けると思わないか?」
「つまり、僕たちの学校は僕たちで守るしかないってこと?」
「そういうこと。しかも最悪なことに最近怪物が頻繁に現れているから、国がチカラを始めとした怪物を倒せる能力を持った人たちに怪物のパトロールを要請している。だから怪物を倒せる人がほとんど出払ってる可能性が高いな。残った人たちで現れた怪物を倒せるかどうか。」
「それじゃあ、だれが怪物を倒すの?」
「大丈夫。それには当てがある。だからどうしてもヒイロに出てきてもらわなきゃいけないんだ。」
.「えっ!その当てってもしかして?」
「そう。ヒイロだよ。おばさん!これからヒイロと話をしようと思いますが、いいんですよね?」
「ええ。大丈夫よ。」
「よし!じゃあ行こうか!ショウ!」
「あっ!ツバサはここで待っててくれないか?まず俺とヒイロの二人で話がしたいから。」
「えっ!なんで?僕がいると邪魔?」
「邪魔というか、俺がかなり恥ずかしいかな。」
ショウは少し照れくさそうに言った。それを見てツバサは、「(これ以上聞いたらショウに悪いな。)」とショウの気持ちを察して「わかった。僕はここで待っているよ。」とショウの意見を聞いてあげることにした。
「ありがとう。じゃあ行ってくる。」
そう言ってショウはヒイロの部屋に向かった。
階段を上ってヒイロの部屋のドアの前まで来ると、ショウはヒイロに向かって話しかけ始めた。
「ヒイロ、久しぶり。こうして直接話すのは4日ぶりだな。お前は気が付いているか分からないけど、一応今日までに何十件もメッセージを送ってるんだぜ。なあヒイロ、お前がひきこもるようになったのは、日曜日に起こったことが原因だろ?ネットの書き込みなんか気にするなよ!ネットにそういうこと書き込んでいるやつらは別に叩ければ誰だっていいんだから。それが少しの間ヒイロが標的になっただけだよ。実際ヒイロに対する書き込みは減ってきているよ。どうしてかと言うと世間がもっと重大な危機に直面しているからなんだ。ヒイロ、お前は知らないかもしれないけど、今、日本全国に怪物が現れているんだ。そのうち1体は俺たちの学校に現れたらしい。しかもチカラみたいな怪物を倒せる能力を持った人たちは出払っていて、残った人たちで対処しなくちゃいけないんだ。だからどうしてもヒイロの力が必要なんだ。頼む!一緒に学校に行って力を貸してくれ!」
ショウはヒイロの力が今の状況で必要だと訴えて、ヒイロに部屋から出てきてもらおうとした。だけどショウの訴えもむなしく「帰ってくれ!なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだ!」とヒイロは怒りを込めた声で返答してきた。
だがショウは、「(俺の話を聞いてくれたんだ!それならまだ説得出来るチャンスはあるはず!)」と思い、ヒイロが返答してくれたことを喜んだ。
「大体学校の奴らだって俺のことを馬鹿にしていたのかもしれないのに、なんで俺が助けるのを手伝わなきゃいけないんだよ!」
「確かにヒイロの言う通り、ヒイロのことを馬鹿にしている奴もいるみたいだけど、全員ってわけじゃない!その証拠に『ネットの書き込みなんか気にしないで!』ってヤハギさんが心配してたぞ!」
「ほら…俺のことを心配してくれる人なんてそんなにいないんだ。その証拠に声を掛けてくれたのはヤハギさんだけなんだろ?それにヤハギさんだって本当に心配してるかどうか…分からないよ。」
それまでの怒りが込められた声ではなく、悲しみを感じる声でヒイロは答えた。
「そんなことない!本当に心配していたよ!俺にはわかる!」
「どうしてわかるんだよ?」
「それが俺の…俺があの日もらった能力だから。」
「えっ!どういうことだ?」
ヒイロはショウの発言に驚きの声を上げた。するとショウは1度深呼吸をしてから意を決して話し始めた。
「俺のもらった能力は『対象者が事実と違うことを言った場合、それを見抜く能力』なんだ。この能力が警察に信頼されて時々容疑者のウソを見抜いていた。だから学校を休むことが多かったんだよ。今まで黙っててごめん。でも黙っていたのには理由があるんだ。
8年前、俺の母親が父親が嘘をついて浮気しているんじゃないかと疑っていて、それが原因で夫婦喧嘩が絶えなかったから、俺が父親は嘘をついていないとわかれば、それを伝えることで母親も安心して、喧嘩も無くなるんじゃないかと思って、この能力を叶えてもらったんだ。実際この能力のおかげで父親は嘘をついてないとわかって、夫婦喧嘩も無くなったんだ。まあ俺が嘘を見抜く能力があることを理解してもらうのが大変だったけど。それから俺は嘘を見抜く能力をもっと世の中の役に立てようと思っていた時に事件は起こったんだ。
小学5年生の時の放課後、明るく人気者で友達も多かったササキが同じ委員会の女子に『塾に行かなきゃいけないから委員会には行けない。』と言って、女子を納得させて帰ろうとしていたんだけど、俺にはそれがウソだってわかっていた。ササキはただ単に早く友達と遊びに行きたいから帰ろうとしていたんだ。
その時の俺は、よせばいいのに正義感みたいなものからササキに言っちゃったんだよ。『ウソをついて委員会をサボるのはやめろ!』って。そしたらササキの奴がこう言ってきたんだ。『ウソじゃない!本当に塾が行くんだ!アカシこそウソをつくのをやめろ!』って。
向こうの方が友達が多いだけじゃなくて人気者だから、一気に俺は四面楚歌。助けてあげようとした女子すらも俺のことを非難してきたんだ。俺は自分の能力を説明したとしても信じてもらえないだろうと思って諦めかけたその時、別のクラスのヒイロがやってきたんだ。
『あ~いたいた!ササキくん!…どうしたのこの状況?』って。ササキの奴はもうウソがばれる心配がないと思っていたのか堂々と『俺が塾に行くから委員会には行けないって言ったら、アカシがウソをつくのはやめろって言ってきたんだ。ひどいと思うだろ?』って俺がウソをついているって説明したんだ。
それを聞いたヒイロは『ふ~ん。』ってたいして興味なさそうな感じだったんだけど、ササキが『ところでソラは俺に何の用?』って聞いたら、『そうだった!ササキくん、ヨシダくんが早く遊びに行こうって昇降口で待ってるよ!』って答えたんだ。
そのおかげで場の空気が一気にササキがウソをついているという空気になって、今度はササキが非難され始めた。そして俺は残りの小学校での生活をウソつきというレッテルを貼られたまま過ごさずに済んだんだ。でもそれからはこの能力でウソを見抜いても黙っていることが増えていった。ヒイロ!お前は覚えていないかもしれないけど、あの時からヒイロは俺のヒーローなんだ!」
ショウが話し終わっても、ヒイロは黙っていましたがしばらくすると「そんなことぐらいでヒーローなんて大袈裟だよ。よく覚えてないけど、その時の俺はショウと同じでちょっとした正義感から言っただけだと思うよ。それに今の俺を見てもヒーローなんて言えるのか?よく知りもしない相手から『無能だ。』『役立たずだ。』と言われて、見返してやろうと思うどころか自室に引きこもってんだぜ。それだけじゃない、俺たちの学校に怪物が出たと言われても、俺は自分の身の安全の方が大事でみんなを助けたいなんて気が全然起こらないんだ。これでもショウは俺をヒーローだって言うのか?」
ボソボソとまるで自分を蔑んでほしいかのようにヒイロは語り出した。ですがショウはヒイロの話した内容にウソが混ざっているのを見抜いていた。
「ヒイロ。確かに今のヒイロはヒーローとは言いがたいかもしれない。でもヒーローだって人間だ。たまには落ち込む時だってあると思う。むしろ周りの批判を全く気にしない方がヒーローとは言えないと俺は思う。それとさっきヒイロは『学校のみんなを助けたいと思わない。』って言ってたけど、それはウソだ!ヒイロは本当は助けられるなら助けたいと思っている。」
「違う!俺は本当に学校の奴らなんてどうでもいいんだ!」
「ウソだ!俺にはわかるって言っただろ!なぁヒイロ、俺はなにもヒイロをネットで馬鹿にしているかもしれない連中全員を助けろと言うつもりはないんだ。ただヒイロが助けたいと思える奴らだけでも助けてほしいだけなんだ。」
「…たとえそうだとしても、俺に何ができるって言うんだ?ただ空を飛べるだけだよ。」
ヒイロが少しショウの説得に応じ始めたので、ショウはもうひと押しだなと思い、奥の手を出すことにした。
「ヒイロ、お前のことをヒーローだと思っているのは、俺だけじゃないんだ!たぶんヒイロが先週の土曜日に救助した人を含めた、これまで助けてきた人たちがSNSに『ヒイロは俺のヒーローだ!』って投稿しているんだよ!ウソだと思うなら自分で確認してみろ!」
ショウの発言の真偽を確かめるため、ヒイロは今まで自分への書き込みを一切見ないようにするために切っていたスマホの電源を入れて、ネットの自分への書き込みを見てみた。そこには悪意のある書き込みがほとんどでしたが、少ないながらもショウの言う通りヒイロのことを擁護する書き込みもあった。たぶんサトウさんが投稿しただろう「彼は俺の命の恩人だ!彼は俺のヒーローだ!よく知りもしないくせに俺のヒーローを侮辱するな!」という書き込みもあった。
それらを見たヒイロは「俺なんかヒーローじゃないんだ!でも俺のことをヒーローだって言ってくれる人がいる。その声を裏切らない存在でいたいんだ。なぁショウ、なれるかなぁ俺もヒーローに?」とショウに問いかけた。
「大丈夫、なれるさ!俺に秘策がある。ヒイロが俺の言う通りに動いてくれれば、きっと怪物を倒せる!ヒデオさんが言ってたみたいに適材適所だから安心してくれ!」
「そんなことヒデオさん言ってたっけ?」
「覚えてないのか?『人には適材適所があって、キミにできて僕にできないこともきっとある。だから無理して怪物退治しようなんて考えずに自分の能力で活躍できる場所を探せばいいんだよ。』って言ってたじゃん。」
「ちょっと待ってよ!ヒデオさんは怪物退治なんて無理してしなくていいって言ってるのに、ショウは怪物を倒すのを手伝ってくれって言ってるの何かおかしくない?」
ヒイロはショウの発言の疑問点をショウに尋ねた。
「全然おかしくないよ。だってそれを言われた時のヒイロにできなかった怪物退治の能力が、今のヒイロにあれば問題ないわけじゃん。」
「確かにそれはそうだけど、そんな能力簡単には手に入らないだろ!」
「大丈夫。俺に秘策があるって言ったじゃん。ヒイロ、お前が本当の願いごとを思い出して、本当の能力を手に入れればいいんだ!」
「本当の願いごと?そんなの思い出せたとしても、『空を飛べる能力』に+αがあるだけだろ?そんなんじゃ怪物は倒せないよ。それにどうやって思い出せばいいんだよ?俺は今まで何度も思い出そうとしてきたけど思い出せなかったんだぞ!」
ヒイロの声に怒りとあきらめの気持ちが出てきたが、ショウは全く気にすることなく話を続けた。
「だから大丈夫だって、俺が知ってるから、ヒイロの本当の願いごと。知ってるから本当の能力を手に入れたら怪物を倒せるって言ってるんだよ。」
「えっ!ちょっと待ってくれ!なんでショウが俺の本当の願いごとを知ってるんだよ?」
「それは俺の能力のおかげだよ。そうだな…例えば猫を飼ってるAさんがBさんに『僕は犬を飼っているんだ。』と言ったとする。Aさんから飼っているのは犬だと聞かされたBさんが俺に『Aさんは犬を飼っているんだ。』とありのままに話しても、俺は『Aさんが犬ではなく猫を飼っている。』という真実を見抜くことが出来るんだ。」
「そうなんだ。ショウの能力は理解したけど、その能力でどうやって俺の能力がわかるんだ?」
「ヒイロがいつも『俺は空を飛ぶ能力しかない。』って言ってたからだよ。ヒイロは本気で言っていたんだろうけど、それが真実ではないから俺にはヒイロの本当の能力が見抜けたってわけ。」
「それならなんでもっと早く教えてくれなかったんだよ⁈」
「それは俺としてはヒイロに自分で気づいてほしかったんだよ。ヒーローにはヒーローらしくあってほしいじゃん。だから愚痴ってるヒイロに俺から本当の能力を教えるなんてかっこ悪いことはしたくなかったんだ。でも今はそんなことを言ってる場合じゃないからな。」
「俺としてはかっこ悪くても早く教えてほしかったけどな。でも今は言い争ってる場合じゃないよな。ショウ、教えてくれ!俺の本当の能力って何なんだ?」
「ヒイロの本当の能力は…。」
「いいのよ。私もニュースが見たかったから。」
ヒイロの家に上がる前に自分たちの学校に怪物が出たことを知ったショウとツバサは、家に上げてもらうとすぐに、ヒイロの母親に頼んでテレビのニュースを見せてもらっていた。
「なんかすごいことになってるね。47都道府県全てに1体以上の怪物が現れるなんて。」
「ああ。しかもこの状況じゃ俺たちの学校にユウキヒデオみたいな怪物を倒せる能力を持った人が来るのは遅くなるだろうな。」
「えっ!どうして?」
「考えてみろよ。世間一般では俺たちが通う学校には怪物を倒せる能力を持った生徒がいっぱいいると思われている。そんな場所をユウキヒデオが他の被害を受けてる場所より優先して守ったら、その要請を出した国や自治体が世間からバッシングを受けると思わないか?」
「つまり、僕たちの学校は僕たちで守るしかないってこと?」
「そういうこと。しかも最悪なことに最近怪物が頻繁に現れているから、国がチカラを始めとした怪物を倒せる能力を持った人たちに怪物のパトロールを要請している。だから怪物を倒せる人がほとんど出払ってる可能性が高いな。残った人たちで現れた怪物を倒せるかどうか。」
「それじゃあ、だれが怪物を倒すの?」
「大丈夫。それには当てがある。だからどうしてもヒイロに出てきてもらわなきゃいけないんだ。」
.「えっ!その当てってもしかして?」
「そう。ヒイロだよ。おばさん!これからヒイロと話をしようと思いますが、いいんですよね?」
「ええ。大丈夫よ。」
「よし!じゃあ行こうか!ショウ!」
「あっ!ツバサはここで待っててくれないか?まず俺とヒイロの二人で話がしたいから。」
「えっ!なんで?僕がいると邪魔?」
「邪魔というか、俺がかなり恥ずかしいかな。」
ショウは少し照れくさそうに言った。それを見てツバサは、「(これ以上聞いたらショウに悪いな。)」とショウの気持ちを察して「わかった。僕はここで待っているよ。」とショウの意見を聞いてあげることにした。
「ありがとう。じゃあ行ってくる。」
そう言ってショウはヒイロの部屋に向かった。
階段を上ってヒイロの部屋のドアの前まで来ると、ショウはヒイロに向かって話しかけ始めた。
「ヒイロ、久しぶり。こうして直接話すのは4日ぶりだな。お前は気が付いているか分からないけど、一応今日までに何十件もメッセージを送ってるんだぜ。なあヒイロ、お前がひきこもるようになったのは、日曜日に起こったことが原因だろ?ネットの書き込みなんか気にするなよ!ネットにそういうこと書き込んでいるやつらは別に叩ければ誰だっていいんだから。それが少しの間ヒイロが標的になっただけだよ。実際ヒイロに対する書き込みは減ってきているよ。どうしてかと言うと世間がもっと重大な危機に直面しているからなんだ。ヒイロ、お前は知らないかもしれないけど、今、日本全国に怪物が現れているんだ。そのうち1体は俺たちの学校に現れたらしい。しかもチカラみたいな怪物を倒せる能力を持った人たちは出払っていて、残った人たちで対処しなくちゃいけないんだ。だからどうしてもヒイロの力が必要なんだ。頼む!一緒に学校に行って力を貸してくれ!」
ショウはヒイロの力が今の状況で必要だと訴えて、ヒイロに部屋から出てきてもらおうとした。だけどショウの訴えもむなしく「帰ってくれ!なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだ!」とヒイロは怒りを込めた声で返答してきた。
だがショウは、「(俺の話を聞いてくれたんだ!それならまだ説得出来るチャンスはあるはず!)」と思い、ヒイロが返答してくれたことを喜んだ。
「大体学校の奴らだって俺のことを馬鹿にしていたのかもしれないのに、なんで俺が助けるのを手伝わなきゃいけないんだよ!」
「確かにヒイロの言う通り、ヒイロのことを馬鹿にしている奴もいるみたいだけど、全員ってわけじゃない!その証拠に『ネットの書き込みなんか気にしないで!』ってヤハギさんが心配してたぞ!」
「ほら…俺のことを心配してくれる人なんてそんなにいないんだ。その証拠に声を掛けてくれたのはヤハギさんだけなんだろ?それにヤハギさんだって本当に心配してるかどうか…分からないよ。」
それまでの怒りが込められた声ではなく、悲しみを感じる声でヒイロは答えた。
「そんなことない!本当に心配していたよ!俺にはわかる!」
「どうしてわかるんだよ?」
「それが俺の…俺があの日もらった能力だから。」
「えっ!どういうことだ?」
ヒイロはショウの発言に驚きの声を上げた。するとショウは1度深呼吸をしてから意を決して話し始めた。
「俺のもらった能力は『対象者が事実と違うことを言った場合、それを見抜く能力』なんだ。この能力が警察に信頼されて時々容疑者のウソを見抜いていた。だから学校を休むことが多かったんだよ。今まで黙っててごめん。でも黙っていたのには理由があるんだ。
8年前、俺の母親が父親が嘘をついて浮気しているんじゃないかと疑っていて、それが原因で夫婦喧嘩が絶えなかったから、俺が父親は嘘をついていないとわかれば、それを伝えることで母親も安心して、喧嘩も無くなるんじゃないかと思って、この能力を叶えてもらったんだ。実際この能力のおかげで父親は嘘をついてないとわかって、夫婦喧嘩も無くなったんだ。まあ俺が嘘を見抜く能力があることを理解してもらうのが大変だったけど。それから俺は嘘を見抜く能力をもっと世の中の役に立てようと思っていた時に事件は起こったんだ。
小学5年生の時の放課後、明るく人気者で友達も多かったササキが同じ委員会の女子に『塾に行かなきゃいけないから委員会には行けない。』と言って、女子を納得させて帰ろうとしていたんだけど、俺にはそれがウソだってわかっていた。ササキはただ単に早く友達と遊びに行きたいから帰ろうとしていたんだ。
その時の俺は、よせばいいのに正義感みたいなものからササキに言っちゃったんだよ。『ウソをついて委員会をサボるのはやめろ!』って。そしたらササキの奴がこう言ってきたんだ。『ウソじゃない!本当に塾が行くんだ!アカシこそウソをつくのをやめろ!』って。
向こうの方が友達が多いだけじゃなくて人気者だから、一気に俺は四面楚歌。助けてあげようとした女子すらも俺のことを非難してきたんだ。俺は自分の能力を説明したとしても信じてもらえないだろうと思って諦めかけたその時、別のクラスのヒイロがやってきたんだ。
『あ~いたいた!ササキくん!…どうしたのこの状況?』って。ササキの奴はもうウソがばれる心配がないと思っていたのか堂々と『俺が塾に行くから委員会には行けないって言ったら、アカシがウソをつくのはやめろって言ってきたんだ。ひどいと思うだろ?』って俺がウソをついているって説明したんだ。
それを聞いたヒイロは『ふ~ん。』ってたいして興味なさそうな感じだったんだけど、ササキが『ところでソラは俺に何の用?』って聞いたら、『そうだった!ササキくん、ヨシダくんが早く遊びに行こうって昇降口で待ってるよ!』って答えたんだ。
そのおかげで場の空気が一気にササキがウソをついているという空気になって、今度はササキが非難され始めた。そして俺は残りの小学校での生活をウソつきというレッテルを貼られたまま過ごさずに済んだんだ。でもそれからはこの能力でウソを見抜いても黙っていることが増えていった。ヒイロ!お前は覚えていないかもしれないけど、あの時からヒイロは俺のヒーローなんだ!」
ショウが話し終わっても、ヒイロは黙っていましたがしばらくすると「そんなことぐらいでヒーローなんて大袈裟だよ。よく覚えてないけど、その時の俺はショウと同じでちょっとした正義感から言っただけだと思うよ。それに今の俺を見てもヒーローなんて言えるのか?よく知りもしない相手から『無能だ。』『役立たずだ。』と言われて、見返してやろうと思うどころか自室に引きこもってんだぜ。それだけじゃない、俺たちの学校に怪物が出たと言われても、俺は自分の身の安全の方が大事でみんなを助けたいなんて気が全然起こらないんだ。これでもショウは俺をヒーローだって言うのか?」
ボソボソとまるで自分を蔑んでほしいかのようにヒイロは語り出した。ですがショウはヒイロの話した内容にウソが混ざっているのを見抜いていた。
「ヒイロ。確かに今のヒイロはヒーローとは言いがたいかもしれない。でもヒーローだって人間だ。たまには落ち込む時だってあると思う。むしろ周りの批判を全く気にしない方がヒーローとは言えないと俺は思う。それとさっきヒイロは『学校のみんなを助けたいと思わない。』って言ってたけど、それはウソだ!ヒイロは本当は助けられるなら助けたいと思っている。」
「違う!俺は本当に学校の奴らなんてどうでもいいんだ!」
「ウソだ!俺にはわかるって言っただろ!なぁヒイロ、俺はなにもヒイロをネットで馬鹿にしているかもしれない連中全員を助けろと言うつもりはないんだ。ただヒイロが助けたいと思える奴らだけでも助けてほしいだけなんだ。」
「…たとえそうだとしても、俺に何ができるって言うんだ?ただ空を飛べるだけだよ。」
ヒイロが少しショウの説得に応じ始めたので、ショウはもうひと押しだなと思い、奥の手を出すことにした。
「ヒイロ、お前のことをヒーローだと思っているのは、俺だけじゃないんだ!たぶんヒイロが先週の土曜日に救助した人を含めた、これまで助けてきた人たちがSNSに『ヒイロは俺のヒーローだ!』って投稿しているんだよ!ウソだと思うなら自分で確認してみろ!」
ショウの発言の真偽を確かめるため、ヒイロは今まで自分への書き込みを一切見ないようにするために切っていたスマホの電源を入れて、ネットの自分への書き込みを見てみた。そこには悪意のある書き込みがほとんどでしたが、少ないながらもショウの言う通りヒイロのことを擁護する書き込みもあった。たぶんサトウさんが投稿しただろう「彼は俺の命の恩人だ!彼は俺のヒーローだ!よく知りもしないくせに俺のヒーローを侮辱するな!」という書き込みもあった。
それらを見たヒイロは「俺なんかヒーローじゃないんだ!でも俺のことをヒーローだって言ってくれる人がいる。その声を裏切らない存在でいたいんだ。なぁショウ、なれるかなぁ俺もヒーローに?」とショウに問いかけた。
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「ちょっと待ってよ!ヒデオさんは怪物退治なんて無理してしなくていいって言ってるのに、ショウは怪物を倒すのを手伝ってくれって言ってるの何かおかしくない?」
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「全然おかしくないよ。だってそれを言われた時のヒイロにできなかった怪物退治の能力が、今のヒイロにあれば問題ないわけじゃん。」
「確かにそれはそうだけど、そんな能力簡単には手に入らないだろ!」
「大丈夫。俺に秘策があるって言ったじゃん。ヒイロ、お前が本当の願いごとを思い出して、本当の能力を手に入れればいいんだ!」
「本当の願いごと?そんなの思い出せたとしても、『空を飛べる能力』に+αがあるだけだろ?そんなんじゃ怪物は倒せないよ。それにどうやって思い出せばいいんだよ?俺は今まで何度も思い出そうとしてきたけど思い出せなかったんだぞ!」
ヒイロの声に怒りとあきらめの気持ちが出てきたが、ショウは全く気にすることなく話を続けた。
「だから大丈夫だって、俺が知ってるから、ヒイロの本当の願いごと。知ってるから本当の能力を手に入れたら怪物を倒せるって言ってるんだよ。」
「えっ!ちょっと待ってくれ!なんでショウが俺の本当の願いごとを知ってるんだよ?」
「それは俺の能力のおかげだよ。そうだな…例えば猫を飼ってるAさんがBさんに『僕は犬を飼っているんだ。』と言ったとする。Aさんから飼っているのは犬だと聞かされたBさんが俺に『Aさんは犬を飼っているんだ。』とありのままに話しても、俺は『Aさんが犬ではなく猫を飼っている。』という真実を見抜くことが出来るんだ。」
「そうなんだ。ショウの能力は理解したけど、その能力でどうやって俺の能力がわかるんだ?」
「ヒイロがいつも『俺は空を飛ぶ能力しかない。』って言ってたからだよ。ヒイロは本気で言っていたんだろうけど、それが真実ではないから俺にはヒイロの本当の能力が見抜けたってわけ。」
「それならなんでもっと早く教えてくれなかったんだよ⁈」
「それは俺としてはヒイロに自分で気づいてほしかったんだよ。ヒーローにはヒーローらしくあってほしいじゃん。だから愚痴ってるヒイロに俺から本当の能力を教えるなんてかっこ悪いことはしたくなかったんだ。でも今はそんなことを言ってる場合じゃないからな。」
「俺としてはかっこ悪くても早く教えてほしかったけどな。でも今は言い争ってる場合じゃないよな。ショウ、教えてくれ!俺の本当の能力って何なんだ?」
「ヒイロの本当の能力は…。」
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