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第3話

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 「そう良かった。でも長袖の体操着を着ただけで結構暗くなるんですね?」

彼女が腕を出さなくなった分暗くなったと思ったが、それだけではなかった。顔や首など露出している部分の光も弱くなってきていた。

「あはは。ここにパ〇ーがいたら私が発している光が消える前にランプに火をつけてくれるのにね。」

「もしかしてラ〇ュタのことを言ってますか?」

「そうラ〇ュタ!ジ〇リだったら知ってるかなと思って言ってみたんだけど。良かった!知ってたみたいだね。」

「まあ、ジ〇リは一通り見てるから。あれですよね?坑道に落ちていった時に光っていた飛行石の光が消えそうになるシーンですよね?」

「そうそう!」

「でも本当にそうですよね?ランプでもなければ、セキネさんの光が消えたら大変ですよね?セキネさんには申し訳ないですけど、セキネさんがこのまま光っていてくれれば誰かが捜しに来てくれた時にすぐ見つけてもらえるかなと思ってました。」

「あはは。ごめんね。役に立たなくて。」

申し訳なさそうにしているセキネさんを見て心が痛んだ。

「大丈夫ですよ!いや、そんな簡単に大丈夫とは言えないですけど、大丈夫です!光がなくたってきっと僕たちを捜してくれている人たちも、僕たちに気付いてもらおうと何かしら音を出すか声で呼びかけてくれていると思うので、その音か声が聞こえた時に大声で呼びかければいいんですよ!」

「あはは。そうだよね!大丈夫だよね!」

セキネさんが明るさを取り戻しホッとしたのも束の間、セキネさんが発していた光が消えた。
また暗い闇の世界に戻った。だが今度は少し安心感がある。なぜならセキネさんが近くにいるからだ。一人じゃないってこんなに安心するんだなと思った。

木々が生い茂る山の中だけど微かに見える月や星の光のおかげで暗闇に目が慣れてくると、セキネさんのことをうっすら視認することができた。しかしどんな表情かまでは分からなかったが、おそらくこんな暗い山の中、頼りない男子(最悪、熊などの危険な野生動物が出た時に囮にしか使えないような頼りない男子)と二人で遭難していると思ったら、希望を見出せず暗い表情をしているだろうと思った。

だから何か話しかけて少しでも気を紛らわせなくちゃいけない!え~と、何を話せばいいだろう?「助かったら何がしたいですか?」いや、これだとセキネさんが助からないと不安に思っていたら、「はぁ何言ってんの?助かったらじゃなくて、助かるためにできることはないか考えられないの?」って言われそうだ。助かるためにできることを話した方がいいだろう。「大声で叫んで助けを呼びます?」いや、これもさっき自分で言った通り先生か誰かによる救助が来てくれた時にした方がいいだろう。いざという時に助けを呼べなくなってしまうかもしれない。
じゃあ、どうすればいいんだ?などと考えていたら、セキネさんが「ねぇ、ラ〇ュタで飛行石を光らせる呪文って覚えてる?」と聞いてきた。

「えっ呪文ですか?」

「そう、呪文!あれ確か『我を助けよ。光よよみがえれ』って意味だったじゃん?だからそれを唱えれば私の体が光って、私たちを捜してくれている人たちが見つけてくれるかなと思って!」

それを聞いて俺はそんな都合のいいことがあるだろうかと思ってしまった。なぜならセキネさんは自分で光はコントロールできないと言っていたのに、そんな呪文を唱えたぐらいで発光するのなら、なぜ今まで試さなかったのかと疑問に思ってしまったからだ。

しかしセキネさんは俺を少しでも安心させるために試せるものは何でも試そうと思ったのかもしれない。そう思うと、初めから無理だと考えるのは失礼かもしれない。よしっ!セキネさんに協力しよう!何せ俺は覚えているからな。その呪文。

「え~と、確かリー〇・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリールだったと思います。」

「すご~い!覚えてるんだね!根倉くん記憶力いいね!」

「いや、ただ単に何回も見ているだけですよ!すごくないです。」

「そうかな~?私はすごいと思うけど。じゃあ試してみるね!」

そう言ってセキネさんは深く息を吸い込んだ。

「リー〇・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリール!」

シー〇が呟いて言ったのと比べると、かなり大声ではっきりとセキネさんは叫んだ。暗い闇の中その声は随分と大きく聞こえた。でもというかやっぱりセキネさんの体は光らなかった。

セキネさんは少し恥ずかしそうに、「あはは。やっぱり駄目だったね。」と言った。
俺は掛ける言葉を捜したが、励ましの言葉も責める言葉も今言うのは違うような気がして、全く思いつかず黙ってしまった。でも何も言わないでいるのはもっと違うような気がして何も思いつかないのに、「あのっ。」と話しかけた瞬間、セキネさんの体がピカーッと光り出した。

その光はラ〇ュタの飛行石が光るシーンに比べたら激しくないが、俺がセキネさんと会った時の光よりも眩しく感じるくらいの明るさだった。

「うわっ!ホントに光ったよ!言ってみるもんだね。」

「そうですね。すごい光だ!これなら近くに人がいたら絶対見つけてくれるよ!」

二人ではしゃいでいると、「お~い!そこにいるのか、赤根~!」とセキネさんを呼ぶ声が聞こえてきた。その瞬間セキネさんと目を合わせると、「「ここで~す!ここにいま~す!」」と二人で叫び始めた。すると暗闇の中から二つの丸い光が見えてきて、それが懐中電灯の光だと気づいた時には茂みから人影があらわれた。よく見ると担任の先生と体育教師だった。

「なんだ、根倉もいたのか!ちょうど良かった!捜したぞ、二人とも~!」

俺も捜してくれていたということは、俺と同じ班の人たちは俺がいないことに気付いてくれていたのかと思ったが、班がゴールした時の確認で気づいた場合もあるなと思い、自分が勝手に想像したことで嬉しさとがっかりさがない交ぜになった気持ちになった。

「いや~、根倉も赤根の光を見つけたのか?あまり言っちゃいけないことかもしれないが、その光る体が役に立ったよ!赤根!」

「あはは。そうですね!こんな時だけでも役に立ってくれて嬉しいです!」

セキネさんは笑って言っているように聞こえたが、顔も光っているため本当に笑っていたかはよく分からなかった。

「だけどな二人とも、やっぱり班の人とはぐれたらその場から動かない方が良かったな!そうすれば次の班の人が通ったんだからな!ねっ、石橋先生⁈」

「そうですね。そのことについては後で話があるからな、二人とも!」

二人の先生が説教モードに入っていたが、これで助かったと思うと全然苦にならなかった。

「なんだ?赤根が着ているのは根暗のジャージじゃないか⁈何かあったのか?」

「ちょっと沢に突っ込んじゃって、着ていた体操着を濡らしちゃったので根倉くんが貸してくれたんです。」

「なにっ!それじゃあすぐに戻らないとな!二人ともついてきなさい!」

そう言って歩き始めた先生について行く中、「助かって良かったですね。」とか「もうキャンプファイヤー終わってますかね?」とか色々とセキネさんに話しかけたかったが、反省しているところを見せなければという思いもあり黙って歩いた。セキネさんも全く話しかけてこなかった。

先生は「いや~、実は今晩中には見つからないんじゃないかと思っていたんだ。」とか「お前らが二人でいてくれて良かったよ。」とか言っていた。戻る途中でセキネさんの体の光は消えてしまっていた。

しばらく歩くと肝試しのコース入口に戻ってきた。広場になっている所でキャンプファイヤーの燃え残りらしき物から火がくすぶっていた。その周りにはまだ何人かの生徒が残っていた。俺たちが近づいていくとその中の女子三人が近づいてきた。

「アカリ~!良かった無事で!心配したんだから!」

「ごめんね、アカリ!アカリがいないのに気づいて周りを捜したんだけど見つからなくて。あたしたちじゃどうしようもなくて、アカリには悪いけどまず先生に伝えに行こうって話になって。」

「本当にごめんね、アカリ!私たちまで迷子になったら大変だからって。ヒック…本当は…ヒッ…すぐに見つけて…ヒッ…あげたかったんだけど…。」

「大丈夫!全然気にしてないよ!私の方こそごめんね。心配かけて!泣かないで、ヒナ!本当に気にしてないから!」

セキネさんは心配させないようにしているのだろう、笑いながらヒナと呼んだ女子をなだめていた。

「アカリ~!」

三人はセキネさんに抱きつきながら何度も謝っていた。班はくじで決まったのにこの四人はすごく仲がいい人たちだったんだなと思った。そういえばセキネさんが同じ班の友達と言ってた気がする。俺の班の人たちはこの場にいなかった。迷惑を掛けたから謝らなくてはいけないなと思っていたが、先生に戻ってから説教すると聞かされていたので、俺の班の三人もまだ待たされているとしたらさらに迷惑を掛けてしまい許してもらえるか不安だったが、先に部屋に戻っているみたいで少しホッとした。

「お~い!お前ら心配なのは分かるが部屋に行ってろと言ったろ!全くしょうがないな!ほらキャンプファイヤーの片づけの邪魔になるから続きは明日にしろ!あっ!根倉と赤根への説教は明日にするから、もう部屋に行って寝ろ!」

「はい。」

俺は返事をして今日泊まる部屋に行こうとした。本当はもう少しセキネさんと助かった喜びを分かち合ったり、話をしたりしたかったなと思いながら歩いていると、「根倉く~ん!」と俺を呼ぶ声がした。振り返ってみると、さっきまで四人で抱き合っていたセキネさんが俺の名前を呼びながら近づいてきていた。

「根倉くん、今日はお互い大変だったね!体操着貸してくれてありがとう!ちゃんと洗って返すから!」

予期せず話しかけられて何て言えばいいのかすぐには思いつかなかったが、体操着のことを言っているのだと気づき、気にしないでほしい、返すのはいつでもいいからという旨を伝えようと思い、「別に気にしないで…。」と言ったところで、「アカリ~何してるの?早く行こう!」さっきセキネさんがヒナと呼んだ女子がセキネさんに呼び掛けてきた。

「うん!じゃあ、根倉くん本当にありがとう!おやすみ。」と言って、セキネさんは三人の方に行ってしまった。もう少し時間があれば全部言えたのにと思いながら、呆然とセキネさんたち四人が部屋に行くのをしばらく見ていた。セキネさんが三人の下に戻った時、三人がチラッと俺を見たような気がした。その後四人で話しながら部屋に行くのが見えたが、三人が「誰、アイツ?」「あんなヤツいたっけ?」「アカリ、アイツと一緒にいて変なことされなかった?」などとセキネさんに言っているような気がして気が気でなかった。

なんとか心を落ち着かせながら部屋に来たが、もうすでに消灯時間をすぎていたので電気を点けずにベッドに潜り込んだ。山の中に比べたら木々に囲まれていない分、月や星の明かりが窓から差し込み随分明るかったのでベッドに潜り込むのはそれほど難しくなかった。

ベッドの中で、「明日は肝試しで同じ班だった人たちに謝らなくちゃいけないな。明日説教される時はセキネさんにまた会えるかな?そういえばセキネさんの病気はどんな病気なんだろう?ネットで調べれば分かるかな?駄目だったら父さんに聞けばいいか。一応医者だからな。」などと考えているうちにいつの間にか眠りに落ちていた。
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