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第38話

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 試験最終日、帰りのホームルームが終わると俺とキョウヘイとカジワラとハタケは漫画の話ではなく、試験の手応えについて話していた。

「イチノミヤくんのおかげで今回もいい点数取れそうだよ。ね?ミーちゃん?」

「うん。私の場合はトツカくんのおかげでもあるけどね。ありがとね。イチノミヤくん。トツカくん。」

「俺が教えられたのはキョウヘイから教わっているところだけだったからたいしたことないよ。」

「そんなことないよ!十分助かったよ!」

「そうか?じゃあそういうことにしておくか。」

「イチノミヤくん、ずっと時計を見てるけど、どうしたの?」

「悪い悪い。ちょっとこのあと用事があるから、すぐに帰らなくちゃいけないんだ。ホントはもっとみんなと話してたかったんだけど。ごめん。」

「そうなんだ?レーちゃん、トツカくん、どうする?私たちも帰る?」

「私はどっちでもいいよ。トツカくんが決めてよ。」

「うーん?それじゃあ、帰ろっか?」

「「え?」」

「『え?』って何だよ?俺、そんなおかしなこと言ったか?」

キョウヘイとハタケが驚きの声を上げたので、俺は自分の発言のどこがおかしいか尋ねた。

「いや、セイはカジワラと一緒にいることができる選択をすると思ったからさ。」

「そうそう。トツカくん、ホントにいいの?」

「ああ、いいよ。俺もしたいことがあるからさ。」

「そうなんだ?それじゃあ、今日は解散ってことでいいね?ミーちゃん帰ろ。」

「う、うん。」

俺がカジワラと一緒にいれる時間をあっさりとふいにしたのをキョウヘイとハタケは訝しんでいたが、これもカジワラと一緒にいるための選択だった。

というのもナツキとデートで行く場所を考えようと思っていたからだ。ナツキとデートすればカジワラとデートできるので、結局はカジワラと一緒にいる時間、しかも2人きりでいられる時間が増えることになる。この日は解散したあとまっすぐ家に帰った。


 家に着くと自分の部屋で高校生がデートで行くおすすめの場所をスマホで検索した。あまり経費が掛からないデートコースを検索していた。というのも、俺の小遣いは他の家庭と比べるとそこそこもらっている方だと思うが、コミックを買ったり、学校の帰りに飲み物やお菓子を買ったりするとそれほど残らないので、最悪、虎の子のお年玉を貯金していたものを崩すしかなくなる。それも時々、手を付けていたのでたいした金額は残っていない。だからあまり経費が掛からないデートコースを考えていた。

俺が検索に熱中していると、急にラインのメッセージが来た。

「なんだ?ナツキからか。どれどれ?」

ナツキからのメッセージを見てみると、「今度の日曜日、顧問の相川先生が練習に来れないから部活休みになったんだ。」とあった。

お!それならデートできるじゃん!

さっそく俺はナツキに、今度の日曜日デートしよう。とメッセージを送ろうとしたが、あることが気になって途中で指を止めた。

顧問が休むくらいで部活って休みになるんだっけか?うーん?中学生の時しか部活に所属してなかった俺には分からないな。でも教員の仕事って結構ブラックだっていうし、顧問が時々見に来なくちゃ部活出来ないのかもな。

俺はそれ以上深く考えるのをやめて、ナツキにメッセージを送ってしまった。すると数十秒後に「OK」という意味のスタンプが送られてきた。

よーしっ!それじゃあ、ちゃんとデートコース考えなくちゃな!

俺は試験勉強と漫画を読む以外で初めて日付が変わるまで夜更かしした。


 土曜日、この日は1日中、明日ナツキと行くデートコースのことを考えていた。

見たい映画もあるから映画がいいかな?それとも少し駅から距離は離れているがイルカショーもしている水族館があるので水族館がいいかな?ショッピングデートするためにショッピングモールに行くのはどうだろう?実際に買わなくても楽しめるからな。

うーん?迷うな~。でも、もうナツキにどこがいいか聞くことはできないし、もちろんカジワラにも聞くことはできないし、どうすればいいんだ~!

授業内容なんて全く頭に入らなかった。

誰かに相談したい!でも、こんな悩みを相談できる友だちなんて、ナツキとカジワラを除いたらキョウヘイとハタケぐらいだけど、キョウヘイは俺と同じで恋愛経験がないから当てにならないし、今ほしいのは女子の意見だ。

あとはハタケだが、ハタケは……ん?ハタケ?ハタケは恋愛経験があるかどうかは分からないが女子だった!しかも、俺がナツキよりも一緒にデートしたいカジワラと仲がいいから、カジワラの好みに詳しいので今相談するのに一番の適任だった!

そういえば、こんなことを前も悩んだな?その時もハタケに尋ねた気がする。そんなにお世話になっているのに俺にとってハタケが影の薄い存在なことを申し訳なく感じた。いつもカジワラと一緒にいるから、俺の目がカジワラの方を向いてるためにカジワラの陰にハタケが隠れてしまってるのかもしれない。しかし、どんな理由があろうとほぼ毎日話している友だちのことを影が薄いから何か頼む時だけ思い出すなんて失礼過ぎる!気を付けないといけない!でも、今回は申し訳ないけど頼るしかない。よし!ハタケがカジワラと離れたところを狙って質問しよう!

それからはハタケが1人にならないかと休み時間になるたびに目の端で追っていたが、ハタケは常にカジワラと一緒にいて1人になることがなかった。ハタケは俺たち3人以外の人とはあまり話してるところを見たことがないし、いつもカジワラと一緒にいるところしか見たことがなかったから、これも当然っちゃ当然か。と納得していたが、俺にとってはまずい事態だということに気が付いた。

どうしよう?放課後もキョウヘイとカジワラがいて1人にならないし、下校するときもカジワラが一緒だから、このあともずっと1人にならないな。うわっ。マジでどうしよう?……そうだ!帰宅したくらいの時間に音声通話をすればいいんだ!それならハタケが1人の時に話すことができるな。よし!そうしよう!

簡単な解決法を思いついたので、そのあとは放課後4人で漫画を話してる時も解散の挨拶をして1人で下校した時も焦ることなく穏やかな気持ちでいることができた。


 帰宅して晩ご飯を食べてお風呂に入ってベッドに倒れ込んでスマホの画面を見るとちょうど午後7時半だった。今ならハタケも家に帰ってるだろう。と思い、ラインで、「ちょっと音声通話してもいい?」とメッセージを送った。

送ってからもしかしたらお風呂に入ってるかもしれないよな。大丈夫かな?と不安になることが頭をよぎった。俺が心配しながらスマホの画面を見ていると俺のメッセージが既読になり、数秒後には、「大丈夫だよ。」とメッセージが送られてきた。

俺がホッとしながら音声通話をすると、「トツカくん?こんばんは。どうしたの急に?」とハタケの声が聞こえてきた。

「ごめんな。こんな時間に。ちょっと相談したいことがあってさ。」

「そうなんだ?私に答えられればいいけど。どんなこと?」

俺はナツキとのデートで行く場所を悩んでいることを話し、どこに行けばいいか尋ねた。
すると、ハタケは、「そうだなぁ?水族館がいいと思うよ。」とすぐに答えてくれた。

「水族館か。分かった。ありがとう。」

「うん。相談はもう終わり?」

「うん。相談に乗ってくれてありがとな。それじゃ、また来週学校で。」

「うん。また学校で。」

ハタケとの音声通話を終えると、すぐにナツキに「明日は水族館に行こう。8時半にナツキの家に行くから、それまでに準備しておいてくれ。」とラインのメッセージを送った。数分後ナツキから2件返信が来た。

「了解。」
「全然連絡がないから忘れているのかと思った。」

ナツキからのメッセージを見てスマホで今の時刻を確認すると、もう午後8時近くになっていた。

こんな時間まで連絡しなかったら、そりゃ約束を忘れてるかもしれないと思うよな。

ナツキをやきもきさせたことを申し訳なく感じた俺は、「こんな時間まで連絡しないでごめんな。」とナツキへ謝罪のメッセージを送った。すると、すぐにナツキから、「許す」という意味のスタンプが送られてきた。

「それじゃあ、明日はよろしく。」

「うん。楽しみにしてる。」

そこまでやり取りして俺はスマホを充電ケーブルに接続して、またベッドに横になった。心労でどっと疲れが出たのか、いつの間にかそのまま眠ってしまった。
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