上 下
3 / 60

第3話

しおりを挟む
 昇降口へ向かう間、カジワラとハタケは俺とキョウヘイの前を歩きながら楽しそうに漫画の話をしていた。俺はそんなカジワラの様子を見て、ますますカジワラの心理状態が理解できずにいた。そんな俺の肩をポンポンとキョウヘイが叩いてきたので「なんだよ。」と尋ねた。

するとキョウヘイは右手の人差し指を立てて自分の口に当て「シーッ。」と言ってきた。よく分からないがあまり大きな声を出してほしくないみたいなので、俺は小声で「どうしたんだ?」と尋ねた。キョウヘイは小声で「一緒に帰れないか?」と聞いてきた。

「大丈夫だけど、何かあったのか?」

「あとで話すよ。」

そう言うとキョウヘイはそれ以上何も言ってこなかった。

昇降口で靴に履き替えて校門まで行くとキョウヘイを迎えに来ていた黒塗りの高級車が止まっていた。キョウヘイは使用人の方が開けたドアから車に乗り込むと「それじゃ、3人ともまた明日。」と言って、そのまま帰宅してしまった。

あれ?キョウヘイの奴すぐ帰っちゃったけど、何か俺に話があるんじゃなかったっけ?まあ、あとで電話で話せばいいと思ったのかな?と自分なりに納得する理由を考えると俺はカジワラとハタケの2人と一緒に家路に着いた。

俺は徒歩で帰るがカジワラとハタケは同じ駅で電車に乗って帰るので、その駅までいつも一緒に帰っていた。カジワラと2人きりだったら気まずかったが(そもそも2人きりで一緒に帰るかどうかも怪しいが)ハタケも一緒だったので何とかなった。

というのもほとんどカジワラとハタケの2人が話をしていて、俺は時々「ね?トツカくん?」や「トツカくんはどう?」と言われて、「ああ、そうだな。」と相槌を打ったり、「俺はこう思うよ。」と答えたりすれば良かったからだ。

何事もなく駅に着くと「また明日ね。トツカくん。」と言ってカジワラとハタケは改札口を通って行った。正直な話をすると俺の家にまっすぐ帰るなら、駅に寄らない方が早く帰れるのだが、カジワラとハタケと話すのが楽しかったのでいつも一緒に帰っていた。

ただ昨日のことがあるのでこれからどうしようか悩む。でも急に一緒に帰らなくなったら、ハタケに勘繰られるかもしれない。そう思うと、このままカジワラの俺への接し方が変わらない限り俺も接し方を変えない方がいいと思ってしまう。はぁ~。どうしよう。それでも踏ん切りがつかない俺がため息をついていると、俺の目の前にどこかで見たことがある黒塗りの高級車が止まった。

あれ?この車って?

すると黒塗りの高級車の後部座席の窓が開いて、キョウヘイが「よぉ!」と手を挙げて声を掛けてきた。

「キョウヘイ!お前帰ったんじゃなかったっけ?」

「何言ってんだよ?あとで話があるって言ったじゃん。でもカジワラとハタケに知られたくなかったから、2人とセイが離れる時を待ってたんだよ。さぁ、早く乗れよ!」

「おっ!送ってくれるのか?サンキュー。」

そう返事をしてキョウヘイの送り迎えをしてくれる黒塗りの高級車に乗り込んだ。
俺が乗り込むと車はすぐに発進した。

「で、俺に話って何だ?別に家に帰ってから電話で話すこともできたのに。」

「直接話したくってさ。それで話っていうのは、俺気付いたんだよ。カジワラをお前に惚れさせる方法。」

「え!マジで?どんな方法だよ?」

今日の昼休みに話をしてからまだ5時間くらいしか経っていないのに、もうカジワラを俺に惚れさせる方法を思いついたとキョウヘイが言ってきたので、驚きと嬉しさから大きな声を出してしまった。

「まぁ、待て待て。焦るなよ。いいか?まずカジワラはお前の外見と性格は知っていて、その点については文句がないって言ってたんだよな?」

「ああ、そう言ってたよ!で、方法は?」

俺はすぐにでも方法を聞きたいので、キョウヘイの話をさっさと進めようとキョウヘイを急かしたが、キョウヘイは慌てることなく自分のペースで話を進めた。

「だから、あとはセイがカッコよく輝いてるところをカジワラに見せるしかないと思うんだよ。そして同じ学校の学生という立場でセイが輝いているところをカジワラに見せるとしたら勉強面か部活面のどちらかってことだ。でも部活面は運動部に入っても今から活躍できるほどセイにスポーツの才能はないと思うし、文化部にしても何かしらの成果を残すのは残りの高校生活では難しいと思う。」

「うんうん。それはそうだよな。それでどうしたらいいんだ?」

「だけど運動という点なら部活じゃなくても活躍しているところを見せられるよな?何だか分かるか?」

こんな時にいちいちクイズを入れないでほしい。でも口に出すと余計に時間が掛かりそうだな。ここは素直にクイズに参加しておくか。

「え~と?運動で活躍だろ?……分かった!球技大会だろ!うちの高校は所属している部活と同じ球技には参加できないからな!」

「そう!球技大会でカジワラにカッコいいところを見せて、『付き合ってあげてもいいかな。』ぐらいに考えを変えさせればいいんだよ!だから特訓するぞ!セイ!」

「分かった!……ところでこの車どこに向かってるんだ?俺の家じゃなさそうだけど?」

キョウヘイは俺の発言の意味が理解できないという表情をして、「セイ、お前何言ってるんだよ?特訓するって言ったじゃないか。」と返答してきた。

今度は俺がキョウヘイの発言の意味が理解できないという表情をして、「言ったけど、どこで特訓するんだよ?確か、男子の球技大会での種目はバスケとバレーと卓球じゃなかったっけ?どれも設備がなければ特訓できそうにないけど……。」と問い返した。

するとキョウヘイはニヤリと笑いながら、「大丈夫。設備がある場所に向かってるから。ほら!もうすぐ着くぞ!」と視線を車の進行方向に向けて返答してきた。

俺がキョウヘイの視線の方向へ顔を向けると、何度か見たことがある門が見えてきた。

「なぁ、もしかして特訓する場所って?」

「そう。俺の家だよ。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...