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15.父からの連絡
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ベルモント公園は、足立区と西オーストラリア州ベルモント市との友好親善のシンボルとして作られた公園だ。美しい花壇、赤レンガの陳列館には、オーストラリアの工芸品・日用品などを展示している。ユーカリの木・ブラシノキ・アカシアなどのオーストラリア原産の植物、ヒツジのモニュメントなどが、異国的な雰囲気をつくり出していた。
以前は、西オーストラリアの州鳥である黒鳥が園内にいたが、今は剥製として展示されている。
その昔、オーストラリア大陸が発見されるまでは、白鳥といえば、その名のとおり白いものしかいないと思われていた。黒い白鳥が発見されたとき、人々はどう思ったのだろうか。
一人では、出歩くことができないが、二人なら散歩ができる。感謝しなければならない。昨日のことが嘘のように、仲睦まじい様子で公園内を歩く。春の陽光に満たされていく。
帰宅すると、文恵さんが珍しく「たまには一緒に昼寝でもする?」と言ってきた。
狭いベッドに、二人で仲良く横になった。
病気になる前も、睡眠だけは良くとれていたが、薬の効果なのか、さらに熟睡できるようになっていた。ただ、睡眠時間が長いので明け方に、夢を見ることが多くなった。
昨夜も夢を見た。空を飛んでいる夢だ。必死に自らの翼を動かし、大空高く飛んでいる。強い風が吹いて、視界を遮り、行く手を阻もうとする。それでも、私はもがきながら羽を動かそうとする。空高く飛ぶために、何度も何度も諦めなかった。
夢であることは、何となく認識しながら夢を見ていた。非現実な世界を感じながら、夢から覚める。半覚半睡の頭の中で、自由に創造の翼を広げるくらいしか楽しみはない。
今日は文恵さんの仕事が休みの日だ。朝から張り切って掃除機をかけている。風呂場やトイレも入念に掃除をしているようだ。
何か私も手伝おうか迷っているうちに、珍しい人から電話だ。
父さんだ。
「母さんや香から病状は色々と聞いちょるよ。文恵さんは仕事?」
「いや、休み。図書館は月曜日休館日多いけん」
心配して電話を寄越してくれたのは嬉しいが、昔から父さんとは話が続かない。父さんも話の接ぎ穂を探しているのがわかる。
「仕事の方は大丈夫なんか?」
「とりあえず、三月の途中から休職させてもらっちょる」
「父さんもちょっと病気について調べてみたんやけど、鍼灸なんかもいいらしい。原因もよくわからん病気やから、西洋医学では対処療法しかないんやろ?少し東洋医学も試してみればいいかもしれん」
「そっか。ありがとう。父さんも若くないんやけん、体調に気をつけてな」
電話を切ると、掃除を済ませた文恵さんが戻ってきた。
「父さんから電話があった」
「お義父さんから?珍しいわね。やっぱり息子のことは心配なんだね」
父さんは私が東京の大学を受験したいと言ったとき、猛反対した。兄さんがいるとはいえ、寺の手伝いもあるし、お金もかかる。地元の国立大学を出て国語の教員になればいいと言われた。最後は兄さんが説得してくれた。
「お義父さんも元気そうだった?まだ、現役で働かれてるのよね?」
大学には定年があるが、坊さんの仕事にはない。土日は法事やお葬式でなかなか休みがないと思う。
「この病気になるにしても、急にではなくじわじわ襲ってきたわけだから、治すのも根気が必要になるかもしれない」って言われた。
数日後、埼玉での治療の効果を少しずつ感じ始めてきた。下を向きながら、左に頭を向けることができるのだ。朝、起きると、ベッドに仰向けになる。右に引っ張られる力が弱くなっていることが実感できる。
勝田先生には「なるべく、悪い癖がつかないように、正面を向く努力をしてください」と言われていたので、リハビリのように毎日実践している。
入浴前には、必ず三面鏡の中の自分に話しかけながら、まずは真正面を向く。真正面を向けたところで、目を開ける。手に汗が滲む。もう一度、目を閉じて、今度は真正面から左側に首を回そうと試みる。少しでも、油断するとあっという間に首が逆向きに半回転しそうな気配がする。恐る恐る左側に首を回すことを意識する。少しだけ、首が左に回る。それも束の間、誰かが思い切り右に頭を引っ張るかのように、首は一気に右に回転する。その作用は首をどこまでも捻ろうとしている。まだまだ私の意志では、どうしようもできない部分はある。手で頭を押さえ込むしかないけれど、悪化はしていない。将棋の歩のように、一歩一歩、歩みは遅くとも前進をしている。
無意識に行う呼吸を意識的にもう一度行う。単に酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すだけだ。呼吸法の正しいやり方など、よくわからないが、ゆっくり鼻から息を吸い、口から細く息を吐き出す。
以前は、西オーストラリアの州鳥である黒鳥が園内にいたが、今は剥製として展示されている。
その昔、オーストラリア大陸が発見されるまでは、白鳥といえば、その名のとおり白いものしかいないと思われていた。黒い白鳥が発見されたとき、人々はどう思ったのだろうか。
一人では、出歩くことができないが、二人なら散歩ができる。感謝しなければならない。昨日のことが嘘のように、仲睦まじい様子で公園内を歩く。春の陽光に満たされていく。
帰宅すると、文恵さんが珍しく「たまには一緒に昼寝でもする?」と言ってきた。
狭いベッドに、二人で仲良く横になった。
病気になる前も、睡眠だけは良くとれていたが、薬の効果なのか、さらに熟睡できるようになっていた。ただ、睡眠時間が長いので明け方に、夢を見ることが多くなった。
昨夜も夢を見た。空を飛んでいる夢だ。必死に自らの翼を動かし、大空高く飛んでいる。強い風が吹いて、視界を遮り、行く手を阻もうとする。それでも、私はもがきながら羽を動かそうとする。空高く飛ぶために、何度も何度も諦めなかった。
夢であることは、何となく認識しながら夢を見ていた。非現実な世界を感じながら、夢から覚める。半覚半睡の頭の中で、自由に創造の翼を広げるくらいしか楽しみはない。
今日は文恵さんの仕事が休みの日だ。朝から張り切って掃除機をかけている。風呂場やトイレも入念に掃除をしているようだ。
何か私も手伝おうか迷っているうちに、珍しい人から電話だ。
父さんだ。
「母さんや香から病状は色々と聞いちょるよ。文恵さんは仕事?」
「いや、休み。図書館は月曜日休館日多いけん」
心配して電話を寄越してくれたのは嬉しいが、昔から父さんとは話が続かない。父さんも話の接ぎ穂を探しているのがわかる。
「仕事の方は大丈夫なんか?」
「とりあえず、三月の途中から休職させてもらっちょる」
「父さんもちょっと病気について調べてみたんやけど、鍼灸なんかもいいらしい。原因もよくわからん病気やから、西洋医学では対処療法しかないんやろ?少し東洋医学も試してみればいいかもしれん」
「そっか。ありがとう。父さんも若くないんやけん、体調に気をつけてな」
電話を切ると、掃除を済ませた文恵さんが戻ってきた。
「父さんから電話があった」
「お義父さんから?珍しいわね。やっぱり息子のことは心配なんだね」
父さんは私が東京の大学を受験したいと言ったとき、猛反対した。兄さんがいるとはいえ、寺の手伝いもあるし、お金もかかる。地元の国立大学を出て国語の教員になればいいと言われた。最後は兄さんが説得してくれた。
「お義父さんも元気そうだった?まだ、現役で働かれてるのよね?」
大学には定年があるが、坊さんの仕事にはない。土日は法事やお葬式でなかなか休みがないと思う。
「この病気になるにしても、急にではなくじわじわ襲ってきたわけだから、治すのも根気が必要になるかもしれない」って言われた。
数日後、埼玉での治療の効果を少しずつ感じ始めてきた。下を向きながら、左に頭を向けることができるのだ。朝、起きると、ベッドに仰向けになる。右に引っ張られる力が弱くなっていることが実感できる。
勝田先生には「なるべく、悪い癖がつかないように、正面を向く努力をしてください」と言われていたので、リハビリのように毎日実践している。
入浴前には、必ず三面鏡の中の自分に話しかけながら、まずは真正面を向く。真正面を向けたところで、目を開ける。手に汗が滲む。もう一度、目を閉じて、今度は真正面から左側に首を回そうと試みる。少しでも、油断するとあっという間に首が逆向きに半回転しそうな気配がする。恐る恐る左側に首を回すことを意識する。少しだけ、首が左に回る。それも束の間、誰かが思い切り右に頭を引っ張るかのように、首は一気に右に回転する。その作用は首をどこまでも捻ろうとしている。まだまだ私の意志では、どうしようもできない部分はある。手で頭を押さえ込むしかないけれど、悪化はしていない。将棋の歩のように、一歩一歩、歩みは遅くとも前進をしている。
無意識に行う呼吸を意識的にもう一度行う。単に酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すだけだ。呼吸法の正しいやり方など、よくわからないが、ゆっくり鼻から息を吸い、口から細く息を吐き出す。
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