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12.悪化
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その日は、薬の効果もあったのか、簡単に夕食を済ませると、すぐに眠たくなった。いつもなら食器まで片付けるが、その日はテレビを見ながら横になっていた。
「ただいま」文恵さんが仕事から帰ってきた。「歩、疲れちゃった?眠たそうじゃない、今日はもう寝ていいよ」と言われながら、既に私は微睡んでいた。
翌朝も電車に乗り、大学の図書館に向かった。昨日飲んだ薬の効き目なのか、何となく落ち着いて、勉強に集中できた気がする。
帰りにスーパーに寄って、夕飯の具材を買う。レジでお金を払おうとしたとき、財布からお金を取り出すのに苦労する。何だか下が向き辛い。手探りで千円札を出す。「ポイントカードはよろしいですか?」店員に言われ、カードを出そうとするが、なぜか出せない。出したいと思うが、首が下を向けない。下を向けないというよりも、首に違和感がある。「ポイントカード大丈夫です」と応えながら、私はそそくさとスーパーを出る。この首の違和感は何だろうか。首がおかしい。首が右に固まっているというよりは、首が右に傾こうとすると形容した方が正しいかもしれない。私は慌てて自宅に戻り、また薬を飲む。自律神経の乱れが、どんどん身体を蝕んだいるのだろうか。あるいは、首自体に何か問題があるのかもしれない。私は近所の整形外科を受診することに決めた。
平日の整形外科は年齢層が高かった。一様に、肩や膝が悪そうな面々が集まっている。
整形外科では、レントゲンを撮ったが、異常は見られなかった。私は別の病院でメンタルヘルスを診てもらっていることも伝えた。
「首自体に問題はなさそうだね。精神的なものだろうね。メンタルはどこの病院?」
病院名を告げると、医者は「街医者じゃだめだよ。総合病院で診てもらいなさい」と言って、大きな大学病院を教えてくれた。
「あそこの精神科ならしっかりと診てくれるから。一応、首の牽引しておきますか?」
医者に促され、私は首の牽引を初めて経験した。
研究室で試験の採点をしていると、首が痛んできた。今思えば、首が右に向こうとしていたためで、無意識に真正面に戻そうと力が入っていたのだとわかる。
教務部に出向き、試験担当の職員に声をかけた。採点表の提出を記載する台帳にサインを済ませると、首が前を向けなくなった。職員の顔をまともに見られないので、急いで採点表を引き渡し研究室に戻った。
急に不安になってくる。机の引き出しから薬を取り出す。側にあったコーラで流し込む。私は大丈夫なのか?不安が増殖する。今日はもう試験もない。急いでかかりつけのメンタルヘルス科に電話をする。
名前を告げ「今から診てもらいたいんです」と慌てて話す。
「何時に来られますか?」
「今、市ヶ谷なんで、十二時前には行けます」と言い電話を切った。
首を押さえながら、何とか電車に飛び乗り、病院に向かった。
逆算して、十二時前には病院に到着するはずだったが、腕時計の針は十二時を過ぎた。走って受付まで行くと、「次からは気をつけてくださいね」と諭されながらも、診てもらえることになった。
「急いできたんですけど」と言い訳がましく、私が言う。
午前の診察は十二時までだか、待合室のソファには、まだ二人待っている。
結局、駆け込んで急いできた割に、十分以上待たされてから、診察室に入った。
「松坂さん、急にどうされました?」
「あれから薬飲んでるんですが、全くよくなりません。むしろ、酷くなってるような気がしまして」
院長は落ち着いて話を訊いている。
「少し薬を増やしてみましょう。この薬は一日利きますから。頓服じゃなくて、寝る前に飲んでください」
私は釈然としない感じを抱きながら、病院をあとにした。
「ただいま」文恵さんが仕事から帰ってきた。「歩、疲れちゃった?眠たそうじゃない、今日はもう寝ていいよ」と言われながら、既に私は微睡んでいた。
翌朝も電車に乗り、大学の図書館に向かった。昨日飲んだ薬の効き目なのか、何となく落ち着いて、勉強に集中できた気がする。
帰りにスーパーに寄って、夕飯の具材を買う。レジでお金を払おうとしたとき、財布からお金を取り出すのに苦労する。何だか下が向き辛い。手探りで千円札を出す。「ポイントカードはよろしいですか?」店員に言われ、カードを出そうとするが、なぜか出せない。出したいと思うが、首が下を向けない。下を向けないというよりも、首に違和感がある。「ポイントカード大丈夫です」と応えながら、私はそそくさとスーパーを出る。この首の違和感は何だろうか。首がおかしい。首が右に固まっているというよりは、首が右に傾こうとすると形容した方が正しいかもしれない。私は慌てて自宅に戻り、また薬を飲む。自律神経の乱れが、どんどん身体を蝕んだいるのだろうか。あるいは、首自体に何か問題があるのかもしれない。私は近所の整形外科を受診することに決めた。
平日の整形外科は年齢層が高かった。一様に、肩や膝が悪そうな面々が集まっている。
整形外科では、レントゲンを撮ったが、異常は見られなかった。私は別の病院でメンタルヘルスを診てもらっていることも伝えた。
「首自体に問題はなさそうだね。精神的なものだろうね。メンタルはどこの病院?」
病院名を告げると、医者は「街医者じゃだめだよ。総合病院で診てもらいなさい」と言って、大きな大学病院を教えてくれた。
「あそこの精神科ならしっかりと診てくれるから。一応、首の牽引しておきますか?」
医者に促され、私は首の牽引を初めて経験した。
研究室で試験の採点をしていると、首が痛んできた。今思えば、首が右に向こうとしていたためで、無意識に真正面に戻そうと力が入っていたのだとわかる。
教務部に出向き、試験担当の職員に声をかけた。採点表の提出を記載する台帳にサインを済ませると、首が前を向けなくなった。職員の顔をまともに見られないので、急いで採点表を引き渡し研究室に戻った。
急に不安になってくる。机の引き出しから薬を取り出す。側にあったコーラで流し込む。私は大丈夫なのか?不安が増殖する。今日はもう試験もない。急いでかかりつけのメンタルヘルス科に電話をする。
名前を告げ「今から診てもらいたいんです」と慌てて話す。
「何時に来られますか?」
「今、市ヶ谷なんで、十二時前には行けます」と言い電話を切った。
首を押さえながら、何とか電車に飛び乗り、病院に向かった。
逆算して、十二時前には病院に到着するはずだったが、腕時計の針は十二時を過ぎた。走って受付まで行くと、「次からは気をつけてくださいね」と諭されながらも、診てもらえることになった。
「急いできたんですけど」と言い訳がましく、私が言う。
午前の診察は十二時までだか、待合室のソファには、まだ二人待っている。
結局、駆け込んで急いできた割に、十分以上待たされてから、診察室に入った。
「松坂さん、急にどうされました?」
「あれから薬飲んでるんですが、全くよくなりません。むしろ、酷くなってるような気がしまして」
院長は落ち着いて話を訊いている。
「少し薬を増やしてみましょう。この薬は一日利きますから。頓服じゃなくて、寝る前に飲んでください」
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