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7.兄と姉
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「坊主にしたん?結構似合ちょるやん。これで実家も継げるやないの」
ゴールデンウィークの最終日に姉が弾丸で東京に飛んできた。
「わざわざ来なくてもいいんに」
電話では話したけど、どうしても直接会って話したいらしい。
「大丈夫?……ではなさそうだね」
私は首が右に曲がった状態で出迎える。首を真横に向けながら、目だけ姉さんに視線を送る。
「お兄ちゃんも心配しちょるよ。副住職も板についてきたんよ。これ預かってきたよ。お見舞い」
地元の銘菓とお見舞い金、もう一つは古びた木箱だ。
「治療の成果は?」
ぼちぼちかな、と応えながら、私はキッチンに向かう。お茶なら私が出すわよ、という姉さんの申し出を断り、コーヒーを出す。人間の感覚は本当に優れていると思う。当初は、家の中でさえも、あちらこちらにぶつかっていた。今は何となく距離感が掴めるようになっていた。
「社会復帰に向けて、できることはなるべく自分でやらんといけんから。母さんには会った?母さんも年だからさ。何かこの前、一週間も世話してもらったけん。疲れちょらんかな」
「大丈夫みたいよ」
私は少し安心した。病人が大変なのは、一番自分がわかっているのだが、それを看病する回りも同じように大変だと思っている。
「なら、良かった。文恵さんのことも心配でさ。彼女もフルタイムで働いて、家のこともやって、家には病人がいるから世話もあるし。季節の変わり目なんか、風邪気味っぽいし」
「体調悪そうなら、病院に行かせなさいよ。病人のあんたに病院に行かせないってのも、変な話なんだけど」
姉さんが笑い、私も思わず笑う。
「あ、歩が笑った」
私が不思議がると、姉さんは「東京行ってから、歩があまり笑わなくなった」と母さんが漏らしていたと教えてくれた。
「姉さんも気をつけてね。みんなによろしく。治ったらまた実家帰るけん」
「ここでいいよ」
玄関口で別れを告げる。ドアが閉まり、私は慌てて、もう一度ドアを開ける。
エレベーターに向かう姉さんが振り返り、微笑む。
何か言わなければと思った。私は言いたかった言葉が素直に言えずに、ただ手を振り見送ることしかできなかった。
リビングに戻り、テーブルに残されたコーヒーカップを片付ける。首が疲れたので、ソファにもたれるが、兄さんがくれたお見舞いの中にあった木箱が気になった。古めかしい木箱を開けると、中には見覚えのあるものが入っていた。今の私にとっては最高の贈り物だった。
「お前が左を向けるように」
兄さんの達筆な字で一言だけ書かれていたメモが同封されていた。
ゴールデンウィークの最終日に姉が弾丸で東京に飛んできた。
「わざわざ来なくてもいいんに」
電話では話したけど、どうしても直接会って話したいらしい。
「大丈夫?……ではなさそうだね」
私は首が右に曲がった状態で出迎える。首を真横に向けながら、目だけ姉さんに視線を送る。
「お兄ちゃんも心配しちょるよ。副住職も板についてきたんよ。これ預かってきたよ。お見舞い」
地元の銘菓とお見舞い金、もう一つは古びた木箱だ。
「治療の成果は?」
ぼちぼちかな、と応えながら、私はキッチンに向かう。お茶なら私が出すわよ、という姉さんの申し出を断り、コーヒーを出す。人間の感覚は本当に優れていると思う。当初は、家の中でさえも、あちらこちらにぶつかっていた。今は何となく距離感が掴めるようになっていた。
「社会復帰に向けて、できることはなるべく自分でやらんといけんから。母さんには会った?母さんも年だからさ。何かこの前、一週間も世話してもらったけん。疲れちょらんかな」
「大丈夫みたいよ」
私は少し安心した。病人が大変なのは、一番自分がわかっているのだが、それを看病する回りも同じように大変だと思っている。
「なら、良かった。文恵さんのことも心配でさ。彼女もフルタイムで働いて、家のこともやって、家には病人がいるから世話もあるし。季節の変わり目なんか、風邪気味っぽいし」
「体調悪そうなら、病院に行かせなさいよ。病人のあんたに病院に行かせないってのも、変な話なんだけど」
姉さんが笑い、私も思わず笑う。
「あ、歩が笑った」
私が不思議がると、姉さんは「東京行ってから、歩があまり笑わなくなった」と母さんが漏らしていたと教えてくれた。
「姉さんも気をつけてね。みんなによろしく。治ったらまた実家帰るけん」
「ここでいいよ」
玄関口で別れを告げる。ドアが閉まり、私は慌てて、もう一度ドアを開ける。
エレベーターに向かう姉さんが振り返り、微笑む。
何か言わなければと思った。私は言いたかった言葉が素直に言えずに、ただ手を振り見送ることしかできなかった。
リビングに戻り、テーブルに残されたコーヒーカップを片付ける。首が疲れたので、ソファにもたれるが、兄さんがくれたお見舞いの中にあった木箱が気になった。古めかしい木箱を開けると、中には見覚えのあるものが入っていた。今の私にとっては最高の贈り物だった。
「お前が左を向けるように」
兄さんの達筆な字で一言だけ書かれていたメモが同封されていた。
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