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太一少しずつ気づき始めた。この混沌とした世界にだ。変わらぬ自分の世界は私の中にあるのだと思った。困難に直面しても、再構築できるのは人間の特権なのだ。動物にそれができるだろうか?いや、できない。

「心は脳が作るのかな?」

「難しい問題ですね。デカルト以来、言われてきた難問ですから。心脳問題は。脳は実体がありますが、心にはありません。古今東西の哲学者や脳科学者、心理学者が挑んできた研究です。まぁそれが解決すれば、私の夢も実現します、はい」

久しぶりに十分な休息をした気がする。頭がすっきりして、体調も悪くない。

「そろそろ行くよ」

困難だから、やろうとしないのではない。やろうとしないから、困難なのだ、と誰かが言っていた。

「私たちは普通、目の前に理想的な道が現れることを待ちのぞんでいます。しかし、道は待つのではなく、歩くことによってできるのです。はい」

 最後にもう一杯、コカインコーラを飲み、太一は外に出た。

 岩山を駆け上がると、登山道が見えてきた。右側は舗装されている。左側はハイキングトレイルのような道だった。どちらから目指そう。太一は、左から行くことにした。単純な理由だ。太一は左利きだからだ。

 しばらくは水平移動のように進んでいくので、楽に歩ける。とにかく、頂上を目指そう。何かきっとあるはずだ。段々、浮石だ目立ち始めてきた。斜面も急になってきた。

 息を切らしながら、ずんずん進むと、山小屋が見えてきた。

 何合目だろうか?

 山小屋はいくつかあった。太一は、山小屋があるところまで、駆けていった。

 どの山小屋に入ろうか迷う。一番手前に入ることにした。

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