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脳の模型や無機質なコンピューターに囲まれながら、人工知能の研究を行っている。この場所は、最先端の研究施設なのだろう。

「脳科学の研究は長いの?」

「もうずっと続けています。人間の脳は一説には、宇宙と同じだと言われていますから、研究は一生続きます、はい」

「人工知能の研究との関連は?」

 脳全体には、1000億を超える神経細胞がひしめきあっていると聞いたことがある。

「ロボットには心が宿るか、永遠のテーマです。人間の脳神経のシステムをモデルに研究しております。人間の脳の活動をつぶさに観察してみると、人工知能の知能活動は、より人間に近づくと思っています、はい」

 なるほど、と太一は頷いた。

「この分野は今まで遅々として、進まなかったのですが、ここにきて急速に進歩がみられます。いつか、人間と同じような心を持ったヒト型のロボットが誕生するでしょう、はい」

「でも、問題もあるよね?それを悪用する人間もいるでしょう」

「研究者にはいませんよ。それを利用しようとする悪い奴はいつの時代もいるでしょうがね」

脳にしろ、心にしろ、複雑な問題には違いない。科学技術の進歩には表の面もあれば、裏の面もあるということだ。

「もっとも、倫理的な問題の解決は我々にとっても難しいのです。はい」

「倫理的?哲学的な問題のことかな」と太一は言った。

「そうなんです。自律型のヒト型ロボットが完成したときに、そこには社会的な責任が発生します。つまり、主体的に自らの意思で活動するわけですから、もし、事故や事件が起きたらどうなるのか。ロボットに社会的責任を取らせるのか。はい」

「脳科学や人工知能、哲学の問題全てつながっているんだなあ」

 早苗リドルと会話をしていると、太一も、研究者になったような気分がしてきた。

「何か食べますかな?はい」

 そういえば、この世界ではろくに何も口にしていない。

「カレーライスが好きですね。はい」

「よくご存じで」

 早苗リドルは奥に引っ込む。

「とりあえず、飲み物を持ってきました、はい」

 黒い液体だった。炭酸がはじけている。

「コーラ?」

 太一が、ストローに口を近づける。思いっきり、吸い上げると甘みと炭酸の刺激が喉を潤す。

「コカインコーラです」

 太一は思わず吹き出す。

「コカイン!」思わず叫ぶ。

「コーラにもかつて微量ながらコカインが含まれていましたから。大丈夫ですよ。はい」

 太一はグラスを眺める。味はたぶん普通のコーラだ。
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