8 / 172
「甘い見通し」 ~すべてが思い通りにならぬことくらいは知ってるつもり~
しおりを挟む「さすがにアースガイル。
使節船も立派なものだ。」
砂漠の国“デザリア”で宰相を務める男は星空の下、近づいてくる大型の船を見つめていた。
到着は翌日と思われていたが、返信をした日の内に着くとは、相手も随分と無理をしたらしい。
「急かしたわけではないのだがな。」
問題が起こっている。
どこにも寄らずに王宮に来いと言っておいて急かしてないはない。
使節団の代表がアースガイル国王の愛する第2王子と知った上で、どう動くか試したのだ。
「流石、勤勉と謳われる王子だけある。
愚鈍でないと分かって安心した。」
アースガイルの使節船はデザリアで好まれる派手な装飾でないにしろ、シンプルにも洗礼された美しい船だった。
見事に横付けにされた使節船から帽子の大きな男が降りてきた。
「これはこれは、豪勢なお出迎え痛み入ります。」
男は目の前に立つ老功に軽く頭を下げた。
「無事の到着なによりです。
貴方は・・・。」
宰相がといかけると、男は帽子を脱ぎ胸に当てた。
「ハッ。
私はアースガイル貴族、フィルディナンド・クロス。
伯爵位を賜っております。
この度は使節船の船長という大役を任されておりました。
ディビット・ドゥ・アースガイル第2王子は間も無く参ります。
今暫くお待ちください。」
クロス伯爵と名乗った男に宰相は1つ頷くと静かに浮かぶ船を見上げた。
そこに、1人の若者が現れるとアースガイルの騎士や船員が背筋を伸ばす。
宰相はこの若者こそが第2王子かと、見極めるように見つめた。
若者は軽やかに階段を降りてくるとクロス伯爵の肩にポンと手を置いて微笑んだ。
「楽しい船旅でした。
世話になりました。
帰りも頼みます。」
「ハッ!
光栄であります。
ディビット様をアースガイルにお送りするまでが私の仕事です。
どうぞ、“デザリア”の滞在が実りあるものである事を願います。」
クロス伯爵の通る声にディビットは笑いを堪えながら頷いた。
そして出迎えの先頭にたっていた老功に目をやると、かけていた眼鏡をクィッと上げて微笑んだ。
「待たせてしまいましたか?」
「とんでもない事でございます。
ようこそ“デザリア”までお越しくださいました。
私、宰相を務めますナロ・シウバと申します。
責任をもって王宮までご案内致します。」
老功の挨拶にディビットは優しく頷いた。
「ありがとう。
あの有名なナロ・シウバ殿に会えて嬉しいかぎりです。
『砂漠における革新的防衛の考察』の論文を拝見しました。
興味深い記述が多く、呼んでいて勉強になりました。」
「なんと!
アレは私が20代の折に書いた、およそ傑作とはほど遠いと論ぜられた物ですぞ?
読まれたのですか?」
「えぇ。
我が国は砂漠ではありませんが、通じる物がないとも言い切れないでしょう。
論文とは研究者達の本気の証。
国の統治に関わる者は、どんな考えでも拒まずに知識として頭に入れるべきです。
・・・まぁ、偉そうな事を言いましたが、本当は私が読み物が好きというだけの話ですがね。」
“デザリア”の宰相ナロ・シウバはアースガイルの若き王子との出会いで、国を揺るがす問題が解消されるのではないかと願わずにいられなかった。
使節船も立派なものだ。」
砂漠の国“デザリア”で宰相を務める男は星空の下、近づいてくる大型の船を見つめていた。
到着は翌日と思われていたが、返信をした日の内に着くとは、相手も随分と無理をしたらしい。
「急かしたわけではないのだがな。」
問題が起こっている。
どこにも寄らずに王宮に来いと言っておいて急かしてないはない。
使節団の代表がアースガイル国王の愛する第2王子と知った上で、どう動くか試したのだ。
「流石、勤勉と謳われる王子だけある。
愚鈍でないと分かって安心した。」
アースガイルの使節船はデザリアで好まれる派手な装飾でないにしろ、シンプルにも洗礼された美しい船だった。
見事に横付けにされた使節船から帽子の大きな男が降りてきた。
「これはこれは、豪勢なお出迎え痛み入ります。」
男は目の前に立つ老功に軽く頭を下げた。
「無事の到着なによりです。
貴方は・・・。」
宰相がといかけると、男は帽子を脱ぎ胸に当てた。
「ハッ。
私はアースガイル貴族、フィルディナンド・クロス。
伯爵位を賜っております。
この度は使節船の船長という大役を任されておりました。
ディビット・ドゥ・アースガイル第2王子は間も無く参ります。
今暫くお待ちください。」
クロス伯爵と名乗った男に宰相は1つ頷くと静かに浮かぶ船を見上げた。
そこに、1人の若者が現れるとアースガイルの騎士や船員が背筋を伸ばす。
宰相はこの若者こそが第2王子かと、見極めるように見つめた。
若者は軽やかに階段を降りてくるとクロス伯爵の肩にポンと手を置いて微笑んだ。
「楽しい船旅でした。
世話になりました。
帰りも頼みます。」
「ハッ!
光栄であります。
ディビット様をアースガイルにお送りするまでが私の仕事です。
どうぞ、“デザリア”の滞在が実りあるものである事を願います。」
クロス伯爵の通る声にディビットは笑いを堪えながら頷いた。
そして出迎えの先頭にたっていた老功に目をやると、かけていた眼鏡をクィッと上げて微笑んだ。
「待たせてしまいましたか?」
「とんでもない事でございます。
ようこそ“デザリア”までお越しくださいました。
私、宰相を務めますナロ・シウバと申します。
責任をもって王宮までご案内致します。」
老功の挨拶にディビットは優しく頷いた。
「ありがとう。
あの有名なナロ・シウバ殿に会えて嬉しいかぎりです。
『砂漠における革新的防衛の考察』の論文を拝見しました。
興味深い記述が多く、呼んでいて勉強になりました。」
「なんと!
アレは私が20代の折に書いた、およそ傑作とはほど遠いと論ぜられた物ですぞ?
読まれたのですか?」
「えぇ。
我が国は砂漠ではありませんが、通じる物がないとも言い切れないでしょう。
論文とは研究者達の本気の証。
国の統治に関わる者は、どんな考えでも拒まずに知識として頭に入れるべきです。
・・・まぁ、偉そうな事を言いましたが、本当は私が読み物が好きというだけの話ですがね。」
“デザリア”の宰相ナロ・シウバはアースガイルの若き王子との出会いで、国を揺るがす問題が解消されるのではないかと願わずにいられなかった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

普通に生きられなかった私への鎮魂歌
植田伊織
エッセイ・ノンフィクション
統合失調症の母にアスペ父
そんな私はadhd
不登校、適応障害、癌化する腫瘍を摘出した先には障害児育児が待っていました。
人生、山少な目 谷多めの作者が、自己肯定感を取り戻すために文章を書くことにしました。
日常の事、乗り越えたい事、昔のことなどなど、雑多に書いてゆくことで、無念が昇華できたらいいなぁと思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】初めてアルファポリスのHOTランキング1位になって起きた事
天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのHOTランキング一位になった記念のエッセイです。
なかなか経験できないことだろうし、初めてのことなので新鮮な気持ちを書き残しておこうと思って投稿します。
「イケオジ辺境伯に嫁げた私の素敵な婚約破棄」がHOTランキング一位になった2022/12/16の前日からの気持ちをつらつらと書き残してみます。

帰って来た!B型の、B型による、B型に困っている人の為の説明書!
メカ
エッセイ・ノンフィクション
呼ばれてないけど帰ってきました。第二弾!
今回は、いろんな童話や出来事にB型を当てはめたりしながら
面白可笑しく、B型を説明できればなぁ・・・なんて思ってます!
是非是非、よろしくお願いします!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる