1 / 11
憧憬1
しおりを挟む
──なんで、どうして?
沈みゆく意識のなか、俺は────
「あ、目ぇ覚めました?……おはよ。美波さん」
ゆっくりとまぶたを開けると、その先には。
「藤……咲……?」
見慣れた男が覗き込んでて。
藤咲昌也(ふじさきまさや)。
俺の一年後輩で、デキる社員と噂の一人。
何故か俺に懐いていて、でも頼りになるから俺もつい彼に甘えてしまっているところがあって。
本人に自覚はないが、女性社員にとても人気が高く。それでも人の波をかき分けてでも俺のところへやって来るのがちょっと犬っぽくて可愛いと思う。
俺は寝床?に寝かされていて。
「今ご飯持ってくるから、ちょっと待っててね」
見知った男は俺が目覚めた事を確認すると。フッと微笑んで、俺から離れて食事の用意とやらをしに行った。
頭が……ズシリと重い。なんだか気持ち悪い感覚。
「急に起きない方がいいですよ。まだ薬が効いてるだろうから身体だるいし気持ち悪いでしょ?」
たしかに妙な気だるさがあって。
なんで彼は俺の状態にこんなにも詳しいんだろう?
「ねぇ、藤咲。俺さ……」
寝床から起きあがろうと手をつこうとすると、急に手首がガクンと引き寄せられたかのような違和感を得る。なんだこれ。
引き寄せられたんじゃない、頭の上で手首が紐?で固定されている。
──え。……なんで??
「ああ、美波さん今動けないから。しばらく安静にしててくださいね?」
「えっ……?」
さもこの状況が当然であるかのように、藤咲の口調は穏やかで。
なんで。俺……こうなってんの??
頭がぐるぐるしてる間に、この謎を解いてくれそうな光である藤咲昌也がコンビニ袋を持ってこちらに向かって歩いてくる。
「俺料理出来ねえからコンビニで買ってきた菓子パンだけど。あとお茶です」
「ねえ藤咲、なんで俺……捕まってんの?」
一瞬だけ。
藤咲の表情が濁った気がした。
「だって俺が捕まえたから」
「え?」
意味がわからない。
「だからぁ」
ベッドに腰掛けて目線を合わせられて。
「俺が、美波八雲(みなみやくも)さんを。捕まえたの」
俺の目を見てまるで子供に諭すように、ゆっくりと噛み砕いて同じ事を繰り返した。
美波八雲。俺の名前。
「何言って──」
「ビールに風邪薬って結構効き早いんすね。信憑性低かったけど美波さんすぐに気ぃ失ったから。漫画で得た知識だったけどやってみるもんですねぇ」
なんか恐ろしい事を聞いてる気がする……。
ちょっと悪寒を覚えつつ。
「ねえ、これさ。外してよ。動けないんだけど」
「そりゃ動けないようにするためですから」
今日の藤咲はいつもと違って反りが合わない。
なんだかイライラする。
「ねえ、真面目に聞いてる?」
イラついた目線を向けようとすれば。
「……聞いてますよ」
逆に真面目な目線が返ってきて、ちょっとドギマギしてしまう自分がいて。
少しだけ薄茶色の前髪が、彼の眼差しを隠すようにサラサラと揺れる。
「なら早く──!」
「そしたら美波さん逃げちゃうでしょ?」
「??…どういう意味……?」
「この状況でおとなしく居てくれるんならいいんだけどさ」
言ってる意味が分からない。
というか。
さっきから藤咲の言ってることが何一つ理解できなくて。
俺が変なのか?
そんな訳ないか。
それよりここは何処……?
「俺んち」
俺の目線を察した藤咲が解答する。
「あれから美波さんは、何処にも行ってませんよ」
「え……っ?」
あれから?
どこから?
頭がぐるぐるする。
まるで思い出してはいけないコトのように。
「だからさ」
そして。
それが当前かのように、藤咲が身を乗り出して俺に覆い被さってくる。
「俺とこのまま。一緒にいて?」
「なに言っ──……」
気が付けば。
俺の唇は、藤咲の唇と重なっていて。
俺の頭は。
──おかげでさらにグルグルと渦巻くことになっていた。
沈みゆく意識のなか、俺は────
「あ、目ぇ覚めました?……おはよ。美波さん」
ゆっくりとまぶたを開けると、その先には。
「藤……咲……?」
見慣れた男が覗き込んでて。
藤咲昌也(ふじさきまさや)。
俺の一年後輩で、デキる社員と噂の一人。
何故か俺に懐いていて、でも頼りになるから俺もつい彼に甘えてしまっているところがあって。
本人に自覚はないが、女性社員にとても人気が高く。それでも人の波をかき分けてでも俺のところへやって来るのがちょっと犬っぽくて可愛いと思う。
俺は寝床?に寝かされていて。
「今ご飯持ってくるから、ちょっと待っててね」
見知った男は俺が目覚めた事を確認すると。フッと微笑んで、俺から離れて食事の用意とやらをしに行った。
頭が……ズシリと重い。なんだか気持ち悪い感覚。
「急に起きない方がいいですよ。まだ薬が効いてるだろうから身体だるいし気持ち悪いでしょ?」
たしかに妙な気だるさがあって。
なんで彼は俺の状態にこんなにも詳しいんだろう?
「ねぇ、藤咲。俺さ……」
寝床から起きあがろうと手をつこうとすると、急に手首がガクンと引き寄せられたかのような違和感を得る。なんだこれ。
引き寄せられたんじゃない、頭の上で手首が紐?で固定されている。
──え。……なんで??
「ああ、美波さん今動けないから。しばらく安静にしててくださいね?」
「えっ……?」
さもこの状況が当然であるかのように、藤咲の口調は穏やかで。
なんで。俺……こうなってんの??
頭がぐるぐるしてる間に、この謎を解いてくれそうな光である藤咲昌也がコンビニ袋を持ってこちらに向かって歩いてくる。
「俺料理出来ねえからコンビニで買ってきた菓子パンだけど。あとお茶です」
「ねえ藤咲、なんで俺……捕まってんの?」
一瞬だけ。
藤咲の表情が濁った気がした。
「だって俺が捕まえたから」
「え?」
意味がわからない。
「だからぁ」
ベッドに腰掛けて目線を合わせられて。
「俺が、美波八雲(みなみやくも)さんを。捕まえたの」
俺の目を見てまるで子供に諭すように、ゆっくりと噛み砕いて同じ事を繰り返した。
美波八雲。俺の名前。
「何言って──」
「ビールに風邪薬って結構効き早いんすね。信憑性低かったけど美波さんすぐに気ぃ失ったから。漫画で得た知識だったけどやってみるもんですねぇ」
なんか恐ろしい事を聞いてる気がする……。
ちょっと悪寒を覚えつつ。
「ねえ、これさ。外してよ。動けないんだけど」
「そりゃ動けないようにするためですから」
今日の藤咲はいつもと違って反りが合わない。
なんだかイライラする。
「ねえ、真面目に聞いてる?」
イラついた目線を向けようとすれば。
「……聞いてますよ」
逆に真面目な目線が返ってきて、ちょっとドギマギしてしまう自分がいて。
少しだけ薄茶色の前髪が、彼の眼差しを隠すようにサラサラと揺れる。
「なら早く──!」
「そしたら美波さん逃げちゃうでしょ?」
「??…どういう意味……?」
「この状況でおとなしく居てくれるんならいいんだけどさ」
言ってる意味が分からない。
というか。
さっきから藤咲の言ってることが何一つ理解できなくて。
俺が変なのか?
そんな訳ないか。
それよりここは何処……?
「俺んち」
俺の目線を察した藤咲が解答する。
「あれから美波さんは、何処にも行ってませんよ」
「え……っ?」
あれから?
どこから?
頭がぐるぐるする。
まるで思い出してはいけないコトのように。
「だからさ」
そして。
それが当前かのように、藤咲が身を乗り出して俺に覆い被さってくる。
「俺とこのまま。一緒にいて?」
「なに言っ──……」
気が付けば。
俺の唇は、藤咲の唇と重なっていて。
俺の頭は。
──おかげでさらにグルグルと渦巻くことになっていた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい
かぎのえみずる
BL
主人公の陽炎は望まれない子供としてこの世に生を受けた。
産まれたときに親に捨てられ、人買いに拾われた。
奴隷としての生活は過酷なものだった。
主人の寵愛を得て、自分だけが境遇から抜けださんとする奴隷同士の裏切り、嫉妬、欺瞞。
陽炎は親のことを恨んではいない。
――ただ、諦めていた。
あるとき、陽炎は奉公先の客人に見初められる。
客人が大枚を払うというと、元の主人は快く陽炎を譲り渡した。
客人の肉奴隷になる直前の日に、不思議な妖術の道具を拾う。
道具は、自分の受けた怪我の体験によって星座の名を持つ人間を生み出す不思議な道具で、陽炎の傷から最初に産まれたのは鴉座の男だった。
星座には、愛属性と忠実属性があり――鴉座は愛属性だった。
星座だけは裏切らない、星座だけは無条件に愛してくれる。
陽炎は、人間を信じる気などなかったが、柘榴という少年が現れ――……。
これは、夜空を愛する孤独な青年が、仲間が出来ていくまでの不器用な話。
大長編の第一部。
※某所にも載せてあります。一部残酷・暴力表現が出てきます。基本的に総受け設定です。
女性キャラも出てくる回がありますので苦手な方はお気をつけください。
※流行病っぽい描写が第二部にて出ますが、これは現実と一切関係ないストーリー上だとキャラの戦略の手法のうち後にどうしてそうなったかも判明するものです。現実の例の病とは一切関係ないことを明記しておきます。不安を煽りたいわけではなく、数年前の作品にそういう表現が偶々あっただけです。この作品は数年前の物です。
※タイトル改題しました。元「ベルベットプラネタリウム」
おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話
こじらせた処女
BL
網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。
ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
淫雨は愛に晴れ渡る
鳫葉あん
BL
架空中世時代の架空国家で奴隷に落とされた元王子(平凡)が鬼畜皇帝攻めに性的にいびられた末に溺愛されて結婚するハッピーアホエロストーリーです。
※暴力的かつ残酷な描写(モブ7割・受け3割)・淫語・おねだり・快楽堕ち・女装(ウエディングドレスとランジェリー)・乳首ピアスなどの要素があります。
※中盤以降はラブラブしてます。
※pixivとムーンライトにも公開しています。pixiv版は♡ありです。
https://magipla.booth.pm/
にて現代日本に転生した二人の後日編を収録した同人誌販売中です
ほんのちょっと言語チート、くっださーいな!
香月ミツほ
BL
土砂崩れでトンネルに閉じ込められて、脱出しようとして辿り着いたところは異世界だった。しかも言葉が通じない!! まぁ、その内喋れるようになるだろう。第1章 2019.1.13完結。
第2章「おお!っと王都で驚いた」2019.4.30スタート!ここからはそれほど視点入れ替わりません。
魔法は生活が便利になる程度で、なくても生活できます。主人公は幼くなったりしっかりしたり、相手によって変わります。攻めは残念イケメンです。(私の趣味で)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる