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おまけ 彼へ
しおりを挟む気が付いたら、私は自分を見下ろしていた。
その前の事なんて、何にも覚えていなかった。
ただ一人になったこと、淋しいと悲しんでいたこと。それだけは心に残っていて。
でも、後悔はすぐに浮かんできた。自分の死を認識するより先に。
みっ君との約束を。言えなかったお別れを。
結局何も返せないまま。言いたいことも言えないままで。
また会えた時に、話せるように練習もしてきたのに。隠し事何一つ無しに、話をしたかったのに。
……みっ君。ねえ、みっ君……私、
ーー私、死んじゃった……
唇は開くけど、どうやったって声が出るはずもなくて。
もう、会えないんだ……みっ君には二度と……
考えるではなく、ただ単純にそう思った。
……ーー彼を想う。何度も思い描いた。また会える日を想って。
でもそんな日が来ることは無かった。
死ぬ痛みよりも生きていた時の苦しみの方が、ずっと辛かった気がする。
それでも生きたいと思っていた。自ら死のうだなんて考えもしなかった。
みっ君たちのおかげだね。今思い返してみても、楽しかったあの頃の方が真っ先に思い浮かぶんだもん。
私、ちゃんと幸せだったって言えるんだ。嘘偽りのない、素直な気持ちで。
だけど心残りがあるとすれば、やっぱりお別れが言えなかったことかな。
ママやパパにさえ言えなかったのに。私も、同じように置いていってしまう。
みっ君、知ったら泣いてくれるかな?怒っちゃうかな。
淋しい思いさせてごめんねって。さよならだけど元気でねって。
言えないね。もう会うこともできないね。
ママたちもきっとこんな気持ちだったんだろうな。
想いはここにあるのに、伝えることができない。
……なんだか淋しくなってきちゃった。
あっちに行ったら、ママたちに会えるかな?……そうだったらいいな。
ーーなあ、雫。何で死んだんだよ……
……?
なんだろう?
みっ君の声が聞こえる。少し低くなったけれど、心地よくて、くすぐったく感じるあの声が。
ーー何でお前まで、俺を置いていったんだよ……
悲しそうな声。辛そうな声。あんな声、聞いたことがない。
ーー……みっ君………
ふわふわとね。気づいたら浮いてて、少しだけ近づいたら、みっ君が見えた。
自然に出た声に自分でびっくりして、思わず口元を押さえちゃった。
練習の時は出なかったのに、みっ君の名前は、こんなにもすんなりと呼ぶことが出来たんだね。
風が吹いたみたいだった。あの白がね、鳥みたいに落ちてきて、みっ君がはっきりと見えたんだ。
だから手を伸ばして、みっ君を助けなきゃって。
それから、、ーーそれから?
みっ君が見てた。知ってもらいたかったもの全部。それで苦しんでた。苦しんでくれていた。
ごめんね……ごめん。みっ君があんなにも私を想ってくれてたこと、分かってたのに。それを利用するように、苦しみを知ってほしいだなんて。
でも、それでも。みっ君は知ろうとしてくれるんだ。優しいね。だからいつも甘えてしまう。みっ君に寄りかかりすぎてしまう。みっ君の抱えるものさえ、私にはわからないのに。
私ね。もっと、みっ君のこえが聞きたかった。私が話せないから、電話も出来なかったけど。それでもね、一方的でもいいから君のこえが聞きたかったの。
……ーーだから、、
……さいごが来て。
みっ君が、私に好きって。
……ねぇ、みっ君。そんなこと言われたら、未練なんて、何一つなくなっちゃうよ……?
私も好き。大好き。大好きだよ、みっ君。今までも、ずっと、これからだってーー
だから言うね。さよならって。ちゃんと、お別れの言葉を。
言いたかったこと全部ーー
ーーありがとう
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