上 下
17 / 18

おまけ 彼へ

しおりを挟む

気が付いたら、私は自分を見下ろしていた。

その前の事なんて、何にも覚えていなかった。

ただ一人になったこと、淋しいと悲しんでいたこと。それだけは心に残っていて。

でも、後悔はすぐに浮かんできた。自分の死を認識するより先に。

みっ君との約束を。言えなかったお別れを。

結局何も返せないまま。言いたいことも言えないままで。

また会えた時に、話せるように練習もしてきたのに。隠し事何一つ無しに、話をしたかったのに。

……みっ君。ねえ、みっ君……私、

ーー私、死んじゃった……

唇は開くけど、どうやったって声が出るはずもなくて。

もう、会えないんだ……みっ君には二度と……

考えるではなく、ただ単純にそう思った。

……ーー彼を想う。何度も思い描いた。また会える日を想って。

でもそんな日が来ることは無かった。

死ぬ痛みよりも生きていた時の苦しみの方が、ずっと辛かった気がする。

それでも生きたいと思っていた。自ら死のうだなんて考えもしなかった。

みっ君たちのおかげだね。今思い返してみても、楽しかったあの頃の方が真っ先に思い浮かぶんだもん。

私、ちゃんと幸せだったって言えるんだ。嘘偽りのない、素直な気持ちで。

だけど心残りがあるとすれば、やっぱりお別れが言えなかったことかな。

ママやパパにさえ言えなかったのに。私も、同じように置いていってしまう。

みっ君、知ったら泣いてくれるかな?怒っちゃうかな。

淋しい思いさせてごめんねって。さよならだけど元気でねって。

言えないね。もう会うこともできないね。
ママたちもきっとこんな気持ちだったんだろうな。

想いはここにあるのに、伝えることができない。

……なんだか淋しくなってきちゃった。

あっちに行ったら、ママたちに会えるかな?……そうだったらいいな。


ーーなあ、雫。何で死んだんだよ……

……?

なんだろう?
みっ君の声が聞こえる。少し低くなったけれど、心地よくて、くすぐったく感じるあの声が。

ーー何でお前まで、俺を置いていったんだよ……

悲しそうな声。辛そうな声。あんな声、聞いたことがない。

ーー……みっ君………

ふわふわとね。気づいたら浮いてて、少しだけ近づいたら、みっ君が見えた。

自然に出た声に自分でびっくりして、思わず口元を押さえちゃった。
練習の時は出なかったのに、みっ君の名前は、こんなにもすんなりと呼ぶことが出来たんだね。


風が吹いたみたいだった。あの白がね、鳥みたいに落ちてきて、みっ君がはっきりと見えたんだ。

だから手を伸ばして、みっ君を助けなきゃって。


それから、、ーーそれから?


みっ君が見てた。知ってもらいたかったもの全部。それで苦しんでた。苦しんでくれていた。

ごめんね……ごめん。みっ君があんなにも私を想ってくれてたこと、分かってたのに。それを利用するように、苦しみを知ってほしいだなんて。

でも、それでも。みっ君は知ろうとしてくれるんだ。優しいね。だからいつも甘えてしまう。みっ君に寄りかかりすぎてしまう。みっ君の抱えるものさえ、私にはわからないのに。

私ね。もっと、みっ君のこえが聞きたかった。私が話せないから、電話も出来なかったけど。それでもね、一方的でもいいから君のこえが聞きたかったの。

……ーーだから、、

……さいごが来て。

みっ君が、私に好きって。

……ねぇ、みっ君。そんなこと言われたら、未練なんて、何一つなくなっちゃうよ……?

私も好き。大好き。大好きだよ、みっ君。今までも、ずっと、これからだってーー

だから言うね。さよならって。ちゃんと、お別れの言葉を。

言いたかったこと全部ーー


ーーありがとう


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

少年少女たちの日々

原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。 世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。 しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。 世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。 戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。 大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。 その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...