上 下
8 / 18

特別な

しおりを挟む

 新幹線は目の前で勢いを付けて雫を運んで行った。過去の俺はそこで永遠の別れを突き付けられる。

 そんな彼を置いて、俺は雫と祖母の家へと行った。そこには病床に伏せた曾祖母もいた。

 祖母は優しかった。一人にならないように、ずっと雫の傍にいた。彼女が無理して笑えば、強がらなくてもいいと言って一緒に泣いてあげていた。

 無力な俺と違って、大切なものを失ったもの同士、互いに助け合っているように見えた。


 どうして自殺なんてしたのか。


 尚更、納得してしまった。

 俺がいなくても、あの優しい祖母がいれば今も生きていたんだろうかと、その光景を見て思ってしまった。


 責任転嫁。俺はここに来ても、自分じゃない誰かのせいにしようとしている。


 雫は隣町の小学校に通うことになった。一時間以上かかるほどの結構な距離があったが、バスも出ていたため通うことにはそこまで苦労しそうではなかった。

 今までよりは遠くなったけれど、それでも彼女は遅刻することは無かった。

 迷惑をかけないように。そんな彼女の心の声が今にも聞こえてきそうなほど、努力を惜しまない姿がそこにあった。

 雫は俺が思うよりずっと強い。安心した。彼女は泣いてばかりじゃなかった。


 でも、思っていたよりも、彼女に味方はいなかった。

 雫は俺とは真逆の学校生活を課せられていた。

 言葉を話さない、祖母と暮らしている、彼女の事情を聞いた先生が無駄に特別扱いするから、雫は同級生にいじめられる格好の対象となってしまった。

 彼女は祖母に何も言わなかった。先生にも、いじめっ子たちにさえ、彼女は泣き言を言わなかった。


 だけど彼女を追ったこの記憶は、必死に隠してきた彼女の悲痛な心も映した。

 俺は目のあたりにしてしまう。
 放課後逃げるように帰って、雫はあの場所に行く。

 雫が亡くなった場所、飛び降りた橋の上。

 夕方のこの時間に人通りはほとんどどころか全くない。その橋の上で、雫は一人泣いていた。

 声にならない叫びを絞り出して。呻いて。それでも、思いっきり吐き出した声は喉から漏れるようにしか出てこない。

 ーーぅ、ぁぁ……

 少し離れた場所にいる俺にも、かすかに風が木々を揺らす穏やかな音の隙間に、泣き声が届く。

 胸が締め付けられた。表現ではなく、本当にそう感じた。苦しくなった。

 どこまで、雫は隠していたんだろう。
 一人で、耐えていたんだろう。

 想像ですらこんなに苦しいのに、雫は、これを一人でずっと感じていたのか。

 …………なんで、そこまで隠してたんだよ……

 大切な人に心配をかけたくなかったら、自分だけ抱え込めばいいだなんて。そんなことないはずなのに……

 歯痒く過去を見るしかない。終わった時間は取り戻せない。

 分かっていても、冷静さなんて保てるはずがなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子様な彼

nonnbirihimawari
ライト文芸
小学校のときからの腐れ縁、成瀬隆太郎。 ――みおはおれのお姫さまだ。彼が言ったこの言葉がこの関係の始まり。 さてさて、王子様とお姫様の関係は?

棚から美少女

浅雪ささめ
ライト文芸
美少女と同棲してみたくはないですか? もしかしたら君の買ったぼた餅も美少女になるかも!

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

ひとりごと

栗須帳(くりす・とばり)
ライト文芸
名士の家に嫁いだ母さんは、お世辞にも幸せだったとは言えない人生だった。でも母さんは言った。「これが私の選択だから」と。こんな人生私は嫌だ、そう言って家を出た姉さんと私。それぞれの道を選んだ私たちの人生は、母さんの死によって再び交差した。 表紙、Irisさんのイラストから生まれた物語です。 全4話です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ゆずちゃんと博多人形

とかげのしっぽ
ライト文芸
駅をきっかけに始まった、魔法みたいな伝統人形の物語。 ゆずちゃんと博多人形職人のおじいさんが何気ない出会いをしたり、おしゃべりをしたりします。 昔書いた、短めの連載作品。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

魔法道具発明家ジュナチ・サイダルカ

楓花
ファンタジー
【世界最強の魔女✕ネガティブ発明家✕冒険】 自然を操る魔法がある世界に、魔法が使えない人種「ナシノビト」がいた。 非力なナシノビトは「サイダルカ」という一族が発明した「魔法道具」のおかげで、魔法に似た力を使える。 その一族の末裔の少女・ジュナチは、この物語の主人公である。 才能がない彼女は、魔法道具を作ることを諦めていた。 発明をやめ、伝説の魔女を助けることだけを夢見ていた。 その魔女の名前は「ゴールドリップ」。 輝く唇を持つといわれている。 様々な事情で命を狙われていると噂があり、ジュナチは彼女を探していた。 ある日、ジュナチは見知らぬ少年・ルチアーナと出会う。 その少年の唇は、金色だった―――。 表紙と毎話の挿絵:ぽなQ(@Monya_PonaQ) ※この小説は毎月第1金曜日に更新予定です。

処理中です...