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特別な
しおりを挟む新幹線は目の前で勢いを付けて雫を運んで行った。過去の俺はそこで永遠の別れを突き付けられる。
そんな彼を置いて、俺は雫と祖母の家へと行った。そこには病床に伏せた曾祖母もいた。
祖母は優しかった。一人にならないように、ずっと雫の傍にいた。彼女が無理して笑えば、強がらなくてもいいと言って一緒に泣いてあげていた。
無力な俺と違って、大切なものを失ったもの同士、互いに助け合っているように見えた。
どうして自殺なんてしたのか。
尚更、納得してしまった。
俺がいなくても、あの優しい祖母がいれば今も生きていたんだろうかと、その光景を見て思ってしまった。
責任転嫁。俺はここに来ても、自分じゃない誰かのせいにしようとしている。
雫は隣町の小学校に通うことになった。一時間以上かかるほどの結構な距離があったが、バスも出ていたため通うことにはそこまで苦労しそうではなかった。
今までよりは遠くなったけれど、それでも彼女は遅刻することは無かった。
迷惑をかけないように。そんな彼女の心の声が今にも聞こえてきそうなほど、努力を惜しまない姿がそこにあった。
雫は俺が思うよりずっと強い。安心した。彼女は泣いてばかりじゃなかった。
でも、思っていたよりも、彼女に味方はいなかった。
雫は俺とは真逆の学校生活を課せられていた。
言葉を話さない、祖母と暮らしている、彼女の事情を聞いた先生が無駄に特別扱いするから、雫は同級生にいじめられる格好の対象となってしまった。
彼女は祖母に何も言わなかった。先生にも、いじめっ子たちにさえ、彼女は泣き言を言わなかった。
だけど彼女を追ったこの記憶は、必死に隠してきた彼女の悲痛な心も映した。
俺は目のあたりにしてしまう。
放課後逃げるように帰って、雫はあの場所に行く。
雫が亡くなった場所、飛び降りた橋の上。
夕方のこの時間に人通りはほとんどどころか全くない。その橋の上で、雫は一人泣いていた。
声にならない叫びを絞り出して。呻いて。それでも、思いっきり吐き出した声は喉から漏れるようにしか出てこない。
ーーぅ、ぁぁ……
少し離れた場所にいる俺にも、かすかに風が木々を揺らす穏やかな音の隙間に、泣き声が届く。
胸が締め付けられた。表現ではなく、本当にそう感じた。苦しくなった。
どこまで、雫は隠していたんだろう。
一人で、耐えていたんだろう。
想像ですらこんなに苦しいのに、雫は、これを一人でずっと感じていたのか。
…………なんで、そこまで隠してたんだよ……
大切な人に心配をかけたくなかったら、自分だけ抱え込めばいいだなんて。そんなことないはずなのに……
歯痒く過去を見るしかない。終わった時間は取り戻せない。
分かっていても、冷静さなんて保てるはずがなかった。
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