もし君が笑ったら

桜月心愛

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第一章 夜の里

サト

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里は暗い、夜の場所だった。ずっと暗闇で植物も育たない。足下はいつも砂埃で、歩いてはまた暗闇をより見えにくくする。

夜空にはいつも星だけが、優しく見下ろしていた。

そんなふうな、世界から追い出されたようにひっそりとした場所。

それは里の者たちの認識としてだけでなく、国も町もそんな風に思っていても不思議ではないくらい淋しい場所だった。

二本の川と海に囲まれ、漁をするための小屋が堤防に守られるようにある。
それなりに家々も広くしっかりとしているし、生活に支障をきたすような造りはしていない。


ただ問題があるとすれば、やはり食料だろう。海しかないこの場所は、雨で荒れた時に食料を確保する術が何一つなくなる。

一番に里と国の関係はここにあった。

一日中太陽が照る国から木や食料をお裾分けしてもらい、海で捕った魚をお礼として渡す。国が上ってことではないけど、量を考えれば自然と頭が下がってしまうのは致し方ないことではあった。

そのため木は貴重な資源で、明かりを無駄に点けることもできない。暗闇に慣れた瞳で過ごすのが当たり前。
その上、里の者は皆物静かで会話もほとんどない。傍から見たら不気味なのも頷ける。

それが町との複雑な関係の一つでもあった。常にイライラした彼らにとって、国に勝てない憤りをぶつけるのには格好の的であり、それでいて不気味なのだから攻撃を仕掛けたくもなるだろう。

3つしかなかった世界の関係はそんな歪なもので、すぐにでも崩れてしまいそうなほど曖昧なものだ。そうなった時、明らかに困難になるのは里だろう。

国から援助が貰えなくなったら、それこそ里の終わりだ。町からの援助なんて考えられない。


「ーー……崩れる以前に、今までだって町の人たちは里の者の命を何回も蔑ろにして、それで亡くなった人だっている。私たちは静かに暮らすしかない。哀しむことくらいしか出来ない」

「きみの両親も?マチの人に殺されたの?」

単刀直入に言われてドキッとした。哀しみがぶり返してくる。

「……違う。海の事故と病気で。妹も同じ」

「妹?きみには妹もいたのかい?」

「……顔も見たことない。ちっちゃいまま生まれて、死んじゃった」

あの時は本当に哀しかった。思い出して、また涙が溢れてきた。

「……みんな、海に沈んでいった。だから、、」

死のうとした。その事も彼に話すべきなのだろうか。会ったばかりの彼に。

「どうしたんだい?その水は……」

「……」

…言えない。哀しみを知らないとしても、これだけは、知って欲しくない。

「……?ねえ……。……」

彼が近付いて来ているのに気付いたけど、顔を上げることはできなかった。海ではごまかせた。だけど、彼の目の前で溢れたものに言い訳なんて効かない。

「……え…………」

突然温もりに包まれる。身体が別の意味で火照るのを感じた。

涙も忘れて見上げると、少し大きな彼の顔が間近に見える。

「……とっても喜ばしい時、ぼくたちはこうするんだ。ぼくはカナシイを知らないからどうすればいいのか分からないけど。こうしてる時が、一番好きで嬉しいから」

お母さんたちとは同じで違う、慰め方。思い出してまた哀しくなった。

「今日はありがとう。もう寝ようか」

彼はそう言って、また目を細めて優しい顔をした。
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