ガーデン【加筆修正版】

39・自分に課した罰

ハスは杏を見上げて静かに続けた。

「もうやめろ」

「何を？」

「そうやって自分を罰し続けることを、だ」

哀れむようなレンの目が、杏をしっかりと捉えていた。

「何それ、意味がわからない」

怒ってみせてもレンはやめなかった。
動揺する杏に言い聞かせるように続ける。

「お前のせいじゃない。お前がわがままを言ったから母親は死んだんじゃない」

「やめて！」

杏は耳を塞ぎその場にしゃがみ込んだ。
小鳥たちと遊びたくて、止める母を振り切って庭に駆け出した時のことを覚えている。
あれは全部自分のせいなのだ。
打ち明けたかったけれど、泣いている父を見たらどうしても言えなかった。
だから心にしまいこみ、母の死の罪悪感を抱え込んできたのだ。

以来、杏はわがままを言わなくなった。
自分のわがままのせいで、これ以上家族を失うことがないよう努力した。
死んだ母は戻ってこないけれど、自分のすべてを家族のためにさし出すことで、なんとか自分のことを許してもらおうと努力してきたのだ。

家族を永遠に失わずに済むと言われ、涼華との取り引きに飛びついた。
それでもまたいつか家族を傷つけてしまうのではと不安は尽きない。
この苦しい気持ちから解放されるなら、もう一度涼華に従おうと本気で考えたのだ、それが命を失うとわかっていても。
杏は自分では気づかないうちに自分を追い詰めていた。

自分の小さなわがままの芽は摘み取ってしまえばいい。
杏ではなくて、否定・拒否の否の字みたいにして生きる。
それが自分への罰、みんなへの償いだった。
杏はずっとそうやって、自分を罰し続けてきたのだ。

「いまでもこわくてたまらない」　

泣きながら気持ちを打ち明ける杏を、なつめが優しく抱きしめた。

「あたしがいるよ。ハスも、咲子おばあちゃんも、みんないる。もう自分の気持ちを殺しちゃだめだよ」

「そうだ、これからはお前の本当の役目を果たすんだ」

ハスは杏に語りかける。

「石なんかなくてもお前はできる。はなの娘なんだから。さあ、悪しきものたちを封じ込めろ。とじてねむらせ、ひらいてあやつり」

「「杏！」」

ハスが言葉を教え、なつめが本を手渡した。
杏は顔を上げ、息を大きく吸い込んだ。