ガーデン【加筆修正版】

いとくめ

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35・不老不死の庭

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これでよかったのだ。
杏は自分に言い聞かせた。

町中の庭にいくつも異変が起きていることを知っていたが、杏は気にしなかった。

大事なものを守るためには、切り捨てることも必要。
あの屋敷で涼華は杏にそう言った。

「何がいちばん大切か決めなさい。そうすれば、もう辛い思いをしなくて済むから」

言葉に出さなくても、涼華は杏の望みをわかっていた。
石を渡せば、涼華は杏が欲しいものを与えてくれると約束してくれた。
涼華の言葉は優しかった。
だから杏は決めたのだ。

この庭にいる限り大丈夫。
涼華はこの家の庭に不老不死の魔法をかけてくれた。
この庭にいる限り死ぬことはない。
もう決して悲しい思いをすることはない。

その証拠に、祖母や父の体調はすこぶる良い。
それは庭にも同じことが言えだ。
今が盛りとばかりにさまざまな花が咲き誇り、草木は青々と茂って、生物たちも活発に動き回り、庭は生命力に溢れている。

杏は満足だった。
ハスが時折恨めしそうな目でこちらを見ているのは知っていたけれど、気づかないふりをした。
目を閉じて耳を塞いでしまえばいい。
そうすれば後ろめたさなどすぐに消えてなくなる。

だって杏は欲しかったものを手に入れたのだから。
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