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31・だまし討ち
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犬の体はしなやかで足音も軽い。
三匹は沼地の屋敷にすんなりと忍び込むことができた。
地下室の前で人に戻った杏となつめは、ドアノブに手をかけた。
鳥たちが教えてくれた通り、屋敷の老婦人は戸締りも鍵の管理もいい加減というのは本当だった。
ゴミ出しや配達の受け取りに使う勝手口は、いちいち鍵をかけるのも面倒だからといつも開けっ放しらしい。
目的の地下室に至っては、存在さえ忘れられているのだろう。長い間掃除もされず、蜘蛛の巣やホコリだらけだった。
「手分けして解毒剤を探そう」
地下室に足を踏み入れた杏となつめは、棚の小瓶をひとつずつ確かめていった。
ハスは鼻をきかせて嗅ぎ回っていく。
「あった!」
杏はカラバルマメと書いてある瓶を手に取った。
それを確認したハスは「よし帰るぞ」と宣言した。
その時だ。
「あら、いらしてたのね」
暗がりから現れたのは涼華だった。
「次からはきちんと玄関から入ってね。きちんとお出迎えできないでしょ?」
涼華が右手を上げると、地下室のドアから何かが入ってきた。
シュルシュルと床を這い回るようないやな音がする。
見ればハスとなつめの足元を、無数のツタが絡まり始めていた。
ツタはまるで意思を持っているような動きで、みるみるうちにハスとなつめの体を覆ってしまった。
「クソッ」「やだ、なにこれ」
涼華が右手で合図すると、ツタはハスとなつめを勢いよく地下室から引きずり出した。
「ハス!なつめちゃん!」
杏は追いかけようとしたが、地下室のドアは目の前で音を立てて閉じた。
外へ出ようとしたがドアは開かない。
「大丈夫よ、お友だちには少し外で待っていてもらいましょう。私はあなたとふたりきりで話したいの。だって、あのお友だちの前では、あなた本音で話せないでしょ?」
涼華は杏を見た。
その眼は妖しく光り、杏の体は身動きが取れなくなる。
「あなたが手に持っているのは解毒剤ね」
杏は手の中にある小瓶を握りしめた。
「隠さなくてもいいわ、それはあげるから」
「え?」
思いがけない言葉に、杏は戸惑った。
「大切な人たちを救いたいから、それを必要としているんでしょ?石なんてどうでもいいって思うくらい、大事なことなのよね」
涼華は優しく語りかけてくる。
「あなたは、はなによく似てる」
「母を知っているんですか?」
「ええ。私もあの子と会えないのはとてもさみしい。私、あなたの本当の望みを知ってるわ」
「わたしの本当の望み?」
「石を渡してくれれば、私が簡単に叶えてあげられる。辛かったわよね。不安を理解してくれる人がいなかったんだもの。私に任せて。」
何も心配いらないわ、と涼華は微笑みかけた。
三匹は沼地の屋敷にすんなりと忍び込むことができた。
地下室の前で人に戻った杏となつめは、ドアノブに手をかけた。
鳥たちが教えてくれた通り、屋敷の老婦人は戸締りも鍵の管理もいい加減というのは本当だった。
ゴミ出しや配達の受け取りに使う勝手口は、いちいち鍵をかけるのも面倒だからといつも開けっ放しらしい。
目的の地下室に至っては、存在さえ忘れられているのだろう。長い間掃除もされず、蜘蛛の巣やホコリだらけだった。
「手分けして解毒剤を探そう」
地下室に足を踏み入れた杏となつめは、棚の小瓶をひとつずつ確かめていった。
ハスは鼻をきかせて嗅ぎ回っていく。
「あった!」
杏はカラバルマメと書いてある瓶を手に取った。
それを確認したハスは「よし帰るぞ」と宣言した。
その時だ。
「あら、いらしてたのね」
暗がりから現れたのは涼華だった。
「次からはきちんと玄関から入ってね。きちんとお出迎えできないでしょ?」
涼華が右手を上げると、地下室のドアから何かが入ってきた。
シュルシュルと床を這い回るようないやな音がする。
見ればハスとなつめの足元を、無数のツタが絡まり始めていた。
ツタはまるで意思を持っているような動きで、みるみるうちにハスとなつめの体を覆ってしまった。
「クソッ」「やだ、なにこれ」
涼華が右手で合図すると、ツタはハスとなつめを勢いよく地下室から引きずり出した。
「ハス!なつめちゃん!」
杏は追いかけようとしたが、地下室のドアは目の前で音を立てて閉じた。
外へ出ようとしたがドアは開かない。
「大丈夫よ、お友だちには少し外で待っていてもらいましょう。私はあなたとふたりきりで話したいの。だって、あのお友だちの前では、あなた本音で話せないでしょ?」
涼華は杏を見た。
その眼は妖しく光り、杏の体は身動きが取れなくなる。
「あなたが手に持っているのは解毒剤ね」
杏は手の中にある小瓶を握りしめた。
「隠さなくてもいいわ、それはあげるから」
「え?」
思いがけない言葉に、杏は戸惑った。
「大切な人たちを救いたいから、それを必要としているんでしょ?石なんてどうでもいいって思うくらい、大事なことなのよね」
涼華は優しく語りかけてくる。
「あなたは、はなによく似てる」
「母を知っているんですか?」
「ええ。私もあの子と会えないのはとてもさみしい。私、あなたの本当の望みを知ってるわ」
「わたしの本当の望み?」
「石を渡してくれれば、私が簡単に叶えてあげられる。辛かったわよね。不安を理解してくれる人がいなかったんだもの。私に任せて。」
何も心配いらないわ、と涼華は微笑みかけた。
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