ガーデン【加筆修正版】

いとくめ

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28・裁きの豆

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「アトロピンだ」

みんなが食べたゼリーの残りを調べたハスが言った。

「たぶんチョウセンアサガオか何かから抽出して、ゼリーに混ぜたんだろう」

杏の祖母たちは、あれからずっと眠り続けたままだった。
動かすことはできないから、できるだけ体に負担がかからない体勢にして、毛布やタオルケットをかけて様子を見るしかない。

「なんとかして早く目覚めさせないと…」

「そうだな」

先ほどから、ここでは二人と一匹の作戦会議が開かれていた。
眠りから覚ます方法を早く見つけなければいけない。

「やっぱりあの人に解毒剤をもらうしか…」

「それは絶対だめだ」

杏の弱気な発言を、ハスはぴしゃりとさえぎった。
なつめは自分のスマホを使ってあれこれ検索中だ。

「チョウセンアサガオ…アトロピン…。確かに症状も合ってる」

なつめは顔をあげて、杏とハスに画面を見せた。

「解毒する方法は?」

杏とハスも、なつめの隣に移動して携帯端末をのぞきこむ。

「ちょっと待ってね、えーと、解毒…あっ。なんか豆が効くみたい」

「まめ?」

家の台所には、小豆と大豆の水煮缶くらいしかない。
杏は立ち上がって台所の食品棚へ向かおうとしたが「落ち着け」とハスに止められた。
なつめが読み上げる。

「カラバル豆のフィゾスチグミンっていう成分が効くみたい。カラバル豆は別名…」

「裁きの豆」

ハスが先に答えた。

「なんか怖い別名だね。由来はなんなの?」

杏が恐る恐る尋ねると、なつめが解説の続きを読む。

「えーと由来はね、罪人を試す方法に使われたことにある。罪の意識が無い者は一気に飲むので胃が刺激されて毒を吐き戻すことができ、有罪の心当たりのあるものは躊躇いながら飲むため毒が回って死ぬ。つまり無罪なら死なず有罪は死ぬことから裁きの豆。なるほどね、ってマジか!これも毒じゃん」

そんなものを祖母たちに使って大丈夫なのか?
杏は青くなった。
しかしハスは落ち着いた口調で言った。

「よく言うだろ、毒を以て毒を制する、って。何事も使い方次第だ」

な、なるほど。
沼地の未亡人涼華が解毒剤を持っているのは確かだ。
しかし、それを受け取るには石を差し出さないといけない。
石は絶対に渡すなとハスは言うが、じゃあどうしたらいいのだろう?
うちにはそんな豆はないし。

杏はもうどうしたら良いのかわからなかった。
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