ガーデン【加筆修正版】

いとくめ

文字の大きさ
上 下
23 / 41

23・赤いゼリー

しおりを挟む
「せっかくだからみんなでいただきましょう」

祖母の咲子が提案し、みんなで涼華を家の中に招き入れた。
最後に玄関のドアを閉めていた杏は、空に灰色の雲がかかりあたりが急に暗くなってきたことに気づいた。
風も強くなっているし、雨が降るかもしれない。
朝干しておいた洗濯物を取り込んでこなくては、と杏は客人と家族を残して庭に出た。

「どうも嫌な感じがするぜ」

突然背後から声がして、杏は危うく抱えていた洗濯物を取り落としそうになった。
見れば、ハスが気難しい顔でそこにいた。

「突然話しかけないでよ」

石を持っているおかげでハスをはじめとする生き物たちの話す言葉が聞こえるようになったのだが、やはりまだ慣れない。

「さっきから妙だと思わないか?」

「お天気のせいでしょ、きっと」

適当に答えて、杏はもう一度空を見上げた。
縁側から洗濯物を放り込み、そこから家の中に上がった。
あれ?
家の中は誰もいないみたいに静まりかえっている。
お客さんも来たのにどうしたんだろう?
家の中は薄暗く、人の話し声もしない。
電灯のスイッチを入れようと暗がりの中を進んでいくと、ぐにゃりとしたものを踏みつけていた。

「ひっ」

杏は恐る恐る足元を見た。
床には赤黒い液状のものが広がっていた。

「ち、血?」

いや違う。
籐のバスケットを開けたときと同じ香りがここには漂っている。
これは茂倉夫人の持参したゼリーだ。

でもどうしてこんなところに落ちているの?
杏はパニックになりその場から動けなくなった。

「あら」

声がしたので急いで顔を上げるとそこに茂倉夫人が立っていた。
夫人はにっこりと微笑みかける。
美しい顔だがくちびるだけがやけに赤く、どこか不気味だった。

「あの、父さんたちはどこですか?」

明かりのない部屋で彼女の白い顔がぼんやりと浮かび上がる。
茂倉夫人は楽しそうに「ここにいるわ」と答えた。

「みんな眠ってしまったの」
しおりを挟む

処理中です...