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18・よみがえる記憶
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目の前のハスキー犬に噛みつかれそうな勢いで詰め寄られ、杏は震え上がった。
気づけば、小さなリスや鳥たちも杏を遠巻きにしている。
これはしゃべらなくたってわかる。
探しているものを見せるまで絶対許さない、と彼らの目が言っていた。
杏は懸命にエプロンのポケットを探り、手当たり次第に中のものを並べていく。
前子にもらった飴玉、洗濯バサミ、昨日の買い物メモ、クリーニング店の割引クーポン、輪ゴム、ポケトットティッシュ。
杏が雑多な物を取り出すたびに、ハスや動物たちの視線が冷たく突き刺さる。
「お前のポケットはゴミ箱か?」
ハスは鼻にシワを寄せ、むき出しの歯をギリギリさせていた。
「まって、まだあった!」
杏は最後に手に触れたものを取り出した。
「これが最後」
杏が手のひらにのせたものを見せると、ハスは尻尾をひゅんと一振りし「…信じられん」とつぶやいた。
「大切なものだというのに、扱いが雑すぎる」
泥で汚れたままの石を見たハスは、不服そうに鼻を鳴らした。
周りの動物たちもざわついている。
相当に大事なものらしい。
「拾ったまま忘れてたのよ。大事なものとは知らなかったんだもの、仕方ないじゃない!」
杏は庭の水道で石を洗った。
丁寧に洗って汚れを落とし、エプロンで水を拭き取る。
もう一度石を手にした途端、驚くようなことがおきた。石が光り、熱を持ち始めたのだ。
「うわ」
驚いて石を放り出しそうになったがこらえた。
また雑に扱ったらハスたちに何を言われるかわかったものではない。
そっと手の中に収めると、石はほんのり温かく、体の中にも灯りが灯ったように感じた。
前にも似たようなことがあった気がする。
杏がそう思った瞬間だった。
『いい子、杏は本当にいい子。おかあさんは杏のことが大好きよ』
母の声がよみがえる。
『上手に隠れていられたらごほうびをあげる。おかあさんが戻ってくるまで杏の手の中にしまっておいてね』
確かあの日、母はそう言って杏の小さな手のひらに何かを握らせた。
そうだ。
思い出した。
ゆっくりと手のひらを開き、杏は石を凝視した。
気づけば、小さなリスや鳥たちも杏を遠巻きにしている。
これはしゃべらなくたってわかる。
探しているものを見せるまで絶対許さない、と彼らの目が言っていた。
杏は懸命にエプロンのポケットを探り、手当たり次第に中のものを並べていく。
前子にもらった飴玉、洗濯バサミ、昨日の買い物メモ、クリーニング店の割引クーポン、輪ゴム、ポケトットティッシュ。
杏が雑多な物を取り出すたびに、ハスや動物たちの視線が冷たく突き刺さる。
「お前のポケットはゴミ箱か?」
ハスは鼻にシワを寄せ、むき出しの歯をギリギリさせていた。
「まって、まだあった!」
杏は最後に手に触れたものを取り出した。
「これが最後」
杏が手のひらにのせたものを見せると、ハスは尻尾をひゅんと一振りし「…信じられん」とつぶやいた。
「大切なものだというのに、扱いが雑すぎる」
泥で汚れたままの石を見たハスは、不服そうに鼻を鳴らした。
周りの動物たちもざわついている。
相当に大事なものらしい。
「拾ったまま忘れてたのよ。大事なものとは知らなかったんだもの、仕方ないじゃない!」
杏は庭の水道で石を洗った。
丁寧に洗って汚れを落とし、エプロンで水を拭き取る。
もう一度石を手にした途端、驚くようなことがおきた。石が光り、熱を持ち始めたのだ。
「うわ」
驚いて石を放り出しそうになったがこらえた。
また雑に扱ったらハスたちに何を言われるかわかったものではない。
そっと手の中に収めると、石はほんのり温かく、体の中にも灯りが灯ったように感じた。
前にも似たようなことがあった気がする。
杏がそう思った瞬間だった。
『いい子、杏は本当にいい子。おかあさんは杏のことが大好きよ』
母の声がよみがえる。
『上手に隠れていられたらごほうびをあげる。おかあさんが戻ってくるまで杏の手の中にしまっておいてね』
確かあの日、母はそう言って杏の小さな手のひらに何かを握らせた。
そうだ。
思い出した。
ゆっくりと手のひらを開き、杏は石を凝視した。
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