ガーデン【加筆修正版】

いとくめ

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11・野生児の快適家出生活

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一晩中、風が強く吹き荒れていた。
真夜中布団の中からでも、ガタガタと雨戸が鳴って木々がざわついていたのが聞こえた。
だから、目を覚ました杏は幼馴染の安否を確かめるため自分の部屋の窓を開け庭を見た。

よかった、テントは飛ばされてはいないようだ。

しかし、庭は見事に枯葉だらけだった。
例のアズマモグラの仕業らしき穴もまだふさがっていないので、いっそう庭が荒れて見える。

午前中の家事が済んだら、ほうきで落ち葉を集めよう。
まずは洗濯物を片付けて…と杏が頭の中で仕事の段取りをしていたら、「杏!!」と大きな声で名前を呼ばれた。

「おっはよー!」

なつめが竹箒を振り回しながらこちらへ合図する。

「何してるの?」

「何って、庭掃除だよ!」

「そんなことしなくてもいいのに」

「お世話になっているんだからこれくらいはしないとね」

なつめは言って、ひょいひょいと謎の穴も足で埋めていく。

なかなか手際も良く、縁側から見ていた祖母の咲子は感心し、近くを通りかかった父やミノルさんも褒めていた。
叔母の若葉もなつめのテント暮らしを面白がって、救援物資と称してテント前に駄菓子を届けていた。
どうやら杏の家族はなつめの家出生活を応援しているようだ。
いや、庭に迷い込んだ動物のように珍しがっているというべきだろう。

「呼吸が楽だわ、あの家は人口密度が高すぎる。あ~もっと早く家出すれば良かったよ!」

芝生の上に大の字になって、なつめは「しあわせ~」とさけぶ。

「あんたもここでのんびりしようよ」

なつめは誘うが杏は心配だった。

「家に帰らなくて良いの?」

「誰が帰るもんですか、今戻ったらまた奴隷のようにこき使われるだけだもん」

なつめはそう言って、これまで行ってきた家事労働を数え上げて、あれもこれも女だからって全部あたしがやってたんだよ?おかしいと思わない?と同意を求めてきた。

「それ普段のわたしのやってることと同じだよ」

「そうなの?あ、じゃああんたも一緒にここで家出する?抗議の声を上げるなら今だよ」

「そんなつもりはないよ。家のことをするのは嫌じゃないもの。わたしは家族のために役に立ちたいから」

「えー、まあ杏がそれでいいっていうなら別にいいけど…なんか」

柄にもなくなつめがモゴモゴ言うのが逆に気になり、杏はつい聞き返してしまった。

「なんか、なに?」

するとなつめは「うーんとね」と、言葉を選ぶように答えた。

「なんか、今の杏は昔と違うっていうか…昔はもっとのんきで、好きなことだけしてたでしょ。だから、てっきりあんたはあんたのお母さんみたいになってると思ったから」

ならないよ。
お母さんはもういないし、わたしは遊んでいる暇なんかないもの。

杏はそっけなく答え、母屋へ戻った。
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