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28・大安吉日の再会
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大安吉日。
ご祝儀袋の入ったハンドバックを手に、わたしは意気揚々と新幹線に乗り込んだ。
予算の都合により新品ではないが、ワンピースも靴も晴れの日にふさわしいようにと今日のために揃えた。
「どうですかね?」
今朝、精いっぱいめかしこんだわたしの姿を見た光太郎は腕組みをしてじっと考えた後、「馬子にも衣装」とぼそりと言った。
まったく失礼な雇い主である。
しかしめでたい日だから、聞き流してやることにした。
今日は一日休みを取らせてもらった借りもある。
もちろん昨日のうちに、家政婦としての仕事は全部済ませておいた。
部屋は隅々まで掃除が行き届き、冷蔵庫には食事も用意してあるのだ、文句は言わせない。
「それじゃ、わたしはでかけますので、あとはおひとりでごゆっくりお過ごしください」
我がご主人様・光太郎も、久しぶりのオフだ。
ゆっくり過ごすといっても、光太郎は自宅でだらだら過ごすようなタイプではない。
今日も次の撮影の台本や資料を読んで過ごすのだろう。
相変わらずストイックすぎて、見ているこっちが息苦しくなる。
一方わたしは今日の外出に心躍らせていた。
「かのこ!こっちこっち」
式場の雛壇から手を振るのは、我が美しき友人志麻子だ。
ウェディングドレス姿の今日は、いつも以上に輝いている。
「来てくれてありがとう」
「当たり前だよ、何をおいてもかけつけるに決まってる」
わたしが力強く言うと、志麻子はわたしを力いっぱい抱きしめた。
ああ、良かった。
彼女がマンションを引き払い、わたしが家政婦として働きだしてからわたしたちはしばらく会っていなかった。
もしかしたらこれきり会えないのかもと思うこともあった。
でもそんなことはなかった。
わたしたちはそれぞれの道を行く、それだけだ。
志麻子は旅館を継ぎ結婚する。
わたしはいつだって志麻子の選択を尊重する。
彼女が何をしていても何をしていなくても関係ない。
幸せならわたしは満足だ。
隣に座るおだやかそうな新郎に「志麻子をよろしくお願いいたします」と、ほとんど懇願のような挨拶をして志麻子に呆れられた。
さすが大きな旅館の跡取り娘の結婚式だけのことはある、友人や親類はもちろんのこと旅館の従業員たちや地元の名士らしき人たちまで大勢の招待客が集まっていた。
気づけば新郎新婦と話そうと順番待ちをしている人がわたしの後ろにたくさん待っている。
志麻子の晴れ姿を記録しようと、雛壇から下り持参した自分のカメラを構えようとしたときだ。
「わっ」
段差に気づかず雛壇を踏み外してしまった。
慣れないヒール靴のせいだ。
無様に転げ落ちるとばかり思っていたが、運よく親切な人が受け止めてくれた。
「す…すみませんっ」
恐縮しながら相手の顔を見ると、そこには懐かしい人がいた。
ご祝儀袋の入ったハンドバックを手に、わたしは意気揚々と新幹線に乗り込んだ。
予算の都合により新品ではないが、ワンピースも靴も晴れの日にふさわしいようにと今日のために揃えた。
「どうですかね?」
今朝、精いっぱいめかしこんだわたしの姿を見た光太郎は腕組みをしてじっと考えた後、「馬子にも衣装」とぼそりと言った。
まったく失礼な雇い主である。
しかしめでたい日だから、聞き流してやることにした。
今日は一日休みを取らせてもらった借りもある。
もちろん昨日のうちに、家政婦としての仕事は全部済ませておいた。
部屋は隅々まで掃除が行き届き、冷蔵庫には食事も用意してあるのだ、文句は言わせない。
「それじゃ、わたしはでかけますので、あとはおひとりでごゆっくりお過ごしください」
我がご主人様・光太郎も、久しぶりのオフだ。
ゆっくり過ごすといっても、光太郎は自宅でだらだら過ごすようなタイプではない。
今日も次の撮影の台本や資料を読んで過ごすのだろう。
相変わらずストイックすぎて、見ているこっちが息苦しくなる。
一方わたしは今日の外出に心躍らせていた。
「かのこ!こっちこっち」
式場の雛壇から手を振るのは、我が美しき友人志麻子だ。
ウェディングドレス姿の今日は、いつも以上に輝いている。
「来てくれてありがとう」
「当たり前だよ、何をおいてもかけつけるに決まってる」
わたしが力強く言うと、志麻子はわたしを力いっぱい抱きしめた。
ああ、良かった。
彼女がマンションを引き払い、わたしが家政婦として働きだしてからわたしたちはしばらく会っていなかった。
もしかしたらこれきり会えないのかもと思うこともあった。
でもそんなことはなかった。
わたしたちはそれぞれの道を行く、それだけだ。
志麻子は旅館を継ぎ結婚する。
わたしはいつだって志麻子の選択を尊重する。
彼女が何をしていても何をしていなくても関係ない。
幸せならわたしは満足だ。
隣に座るおだやかそうな新郎に「志麻子をよろしくお願いいたします」と、ほとんど懇願のような挨拶をして志麻子に呆れられた。
さすが大きな旅館の跡取り娘の結婚式だけのことはある、友人や親類はもちろんのこと旅館の従業員たちや地元の名士らしき人たちまで大勢の招待客が集まっていた。
気づけば新郎新婦と話そうと順番待ちをしている人がわたしの後ろにたくさん待っている。
志麻子の晴れ姿を記録しようと、雛壇から下り持参した自分のカメラを構えようとしたときだ。
「わっ」
段差に気づかず雛壇を踏み外してしまった。
慣れないヒール靴のせいだ。
無様に転げ落ちるとばかり思っていたが、運よく親切な人が受け止めてくれた。
「す…すみませんっ」
恐縮しながら相手の顔を見ると、そこには懐かしい人がいた。
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