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24・ついにデビュー?
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「先生!本当に本当に…ありがとうございますっ!!」
その場で歓喜の声をあげて走り回りたいのを必死で我慢して、わたしは五十嵐先生に深々と頭を下げた。
「こちらこそよろしくね。あたしが取材から戻るまではひとりでやっておいてほしいんだ」
「もちろんですっ」
わたしが書いた企画書のひとつが会議を通り、ドラマが制作されることになった。
しかも今回は企画書止まりではない。
五十嵐先生の口添えのおかげで、なんと脚本も書かせてもらえることになったのだ!
先生との共同脚本という形で、テロップにもわたしの名前をのせてもらえる。
オリジナルではなく原作モノだがやはりうれしい。
多忙な五十嵐先生が別件の取材に出かけている間に、わたしが第一稿を仕上げる予定だ。
期限は二週間。
そんなこと本当にできるのかって?
当たり前だ。
やってみせる。
しかし五十嵐先生は少しだけ心配そうだ。
「例の住み込み家政婦との両立はできそう?」
「もちろんですよ!」
「あたしは執筆と両立できなかったから、ちょっと心配で」
「え?」
先生は「経験者は語る、よ。実はねあたし一度結婚してたことがあるの」と笑ってみせた。
びっくりした。
ずっと先生は仕事を持ち経済的に自立している人だと勝手に思っていた。
「この仕事にのめり込んで家のこと放り出したせいで相手に逃げられちゃったのよね」
「そうだったんですか…」
つい先日まで実際に昼夜問わず書き続ける先生の姿を見てきたからその忙しさは知っていた。
書き始めると家のことには手が回らなくなるし、誰かと一緒に暮らしていたらすれ違いも増えるだろう。
「仕事をセーブすれば離婚は回避出来たかもしれないんだけどねえ…そうすりゃ今頃はエリート銀行マンの駐在員妻として優雅にアフタヌーンティーでもしてたかも」
まるで他の人の話をするようにあっけらかんと語る先生の顔を見ながら思う。
でも先生はそうしなかったのだ。
たぶんわたしも同じ選択をするだろう。
「これからっていう新人の前で夢のない話でごめん。そもそもかのちゃんの場合は家庭じゃなくて仕事との両立だったわね」
黙り込むわたしに先生が申し訳なさそうに謝る。
「とにかくこれはチャンスよ。思い切り書いてみてちょうだい」
「はいっ頑張ります!」
わたしは時間も力も全部書く仕事に注ぎ込みたい。
そのせいで何か失うことになっても後悔などしない。
だって願い続けてきた夢がようやく叶いそうなのだもの。
ふわふわと地面から数センチ浮いているのではないかというくらい現実感がないまま、先生と会った喫茶店から池上家へ戻った。
本当ならすぐにでも執筆に取りかかりたい。
しかし、わたしは家政婦としても働かなければならない。
会社勤めをしながら脚本を書いている人も大勢いるのだ、わたしだってできるはず。
うるさい雇い主が帰宅する前に、洗い物や掃除を片付けてしまおう。
わたしは気合いを入れて腕まくりした。
その場で歓喜の声をあげて走り回りたいのを必死で我慢して、わたしは五十嵐先生に深々と頭を下げた。
「こちらこそよろしくね。あたしが取材から戻るまではひとりでやっておいてほしいんだ」
「もちろんですっ」
わたしが書いた企画書のひとつが会議を通り、ドラマが制作されることになった。
しかも今回は企画書止まりではない。
五十嵐先生の口添えのおかげで、なんと脚本も書かせてもらえることになったのだ!
先生との共同脚本という形で、テロップにもわたしの名前をのせてもらえる。
オリジナルではなく原作モノだがやはりうれしい。
多忙な五十嵐先生が別件の取材に出かけている間に、わたしが第一稿を仕上げる予定だ。
期限は二週間。
そんなこと本当にできるのかって?
当たり前だ。
やってみせる。
しかし五十嵐先生は少しだけ心配そうだ。
「例の住み込み家政婦との両立はできそう?」
「もちろんですよ!」
「あたしは執筆と両立できなかったから、ちょっと心配で」
「え?」
先生は「経験者は語る、よ。実はねあたし一度結婚してたことがあるの」と笑ってみせた。
びっくりした。
ずっと先生は仕事を持ち経済的に自立している人だと勝手に思っていた。
「この仕事にのめり込んで家のこと放り出したせいで相手に逃げられちゃったのよね」
「そうだったんですか…」
つい先日まで実際に昼夜問わず書き続ける先生の姿を見てきたからその忙しさは知っていた。
書き始めると家のことには手が回らなくなるし、誰かと一緒に暮らしていたらすれ違いも増えるだろう。
「仕事をセーブすれば離婚は回避出来たかもしれないんだけどねえ…そうすりゃ今頃はエリート銀行マンの駐在員妻として優雅にアフタヌーンティーでもしてたかも」
まるで他の人の話をするようにあっけらかんと語る先生の顔を見ながら思う。
でも先生はそうしなかったのだ。
たぶんわたしも同じ選択をするだろう。
「これからっていう新人の前で夢のない話でごめん。そもそもかのちゃんの場合は家庭じゃなくて仕事との両立だったわね」
黙り込むわたしに先生が申し訳なさそうに謝る。
「とにかくこれはチャンスよ。思い切り書いてみてちょうだい」
「はいっ頑張ります!」
わたしは時間も力も全部書く仕事に注ぎ込みたい。
そのせいで何か失うことになっても後悔などしない。
だって願い続けてきた夢がようやく叶いそうなのだもの。
ふわふわと地面から数センチ浮いているのではないかというくらい現実感がないまま、先生と会った喫茶店から池上家へ戻った。
本当ならすぐにでも執筆に取りかかりたい。
しかし、わたしは家政婦としても働かなければならない。
会社勤めをしながら脚本を書いている人も大勢いるのだ、わたしだってできるはず。
うるさい雇い主が帰宅する前に、洗い物や掃除を片付けてしまおう。
わたしは気合いを入れて腕まくりした。
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