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13・とうふは絹ごしで

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寝室のドアを施錠したのは、やはりわたしのことを警戒している証拠だ。
しかし、出て行けと言われなかっただけまだ救いだ。

充分な睡眠を取れば気持ちも落ち着き怒りも収まり、わたしを雇う気になるかもしれない。
返事を聞くためにもとりあえず夕方までここにいよう。
起きたら晩ご飯を食べるだろうから、そう思って支度もしておいた。

炊き立てのご飯、とうふとわかめの味噌汁。
温野菜たっぷりのチキンサラダ、かぼちゃの煮付け、メインはあっさりあじの塩焼き。
地方ロケということは、おそらく外食やら弁当が続いた三日間だ、シンプルな家ごはんを作ってみたつもりだ。

昨夜の宣言通り、夕方になると池上氏は態度は不機嫌ながらも、割とすっきりした顔で起きてきた。
わたしを見ると一瞬ぎくりとしたようだが、食事の匂いに抗えない空腹状態だったのだろう。
おとなしく食卓につき、無言でご飯と味噌汁を二回おかわりし、わたしの作った食事をきれいに平らげた。

食後のお茶を出すとき、思い切って聞きたかった質問をぶつけてみることにした。
睡眠を取り、満腹で落ち着いた今なら冷静に判断を下してもらえるだろう。

「で、雇っていただけるんでしょうか」

池上氏は初めてわたしに気づいたかのようにこちらを見た。
髪はボサボサでまだ少しくたびれているようだけどきれいな顔だ。
そのきれいな顔がわたしをじっと見ている。
こんな男前と見つめ合うならもっとましなシチュエーションが良かった。

しばしの沈黙の後、池上氏は面倒くさそうに口を開いた。

「…とうふは絹ごしで」

それだけ言うと雇い主は席を立ち、再び寝室へ消えた。
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