Re:D.A.Y.S.

結月亜仁

文字の大きさ
上 下
92 / 120

おかえり

しおりを挟む
あれから一週間。

おれたちの仕事が変わることは無い。

魔物が巣食う辺境に赴き、魔物と戦って、死にそうになって、毎日ヘロヘロになりながら帰ってくる。

そうでもしないと生きていけないのだから、仕方がない。お金を稼がなければならないから。

でも今思うと、生きていくために死ぬ思いをしなければならないというのは、少し矛盾してないかと感じるが、それを言い出したらキリがなさそうなので、一旦その思考は止めておく。

そう、この世は理不尽なのだ。その理不尽に盾ついたって、虚しいだけだ。そういうのは考えない方が良い。それはそうなのだと割り切って、上手くやっていくしかない。

しかし、そんな理不尽な世の中だからこそ、日常のちょっとした出来事が幸せに感じたりすることがある。

今日は天気が良いな、とか。食材が安くなってる、とか。蒸かしイモが上手に焼けた、とか。

些細なことが、虚しさに塗れた心を満たしてくれる。たぶん、幸福に対して、敏感になっているのだと思う。たった少しの良いことで、虚しさが和らぐ。

そして、そんな日常の中に、一番大きな変化が一つ。

「あ、おかえりなさい!」
黒髪の彼女の明るい声音が中庭に響いた。

こうやって、帰ってくると誰かが「おかえり」と言ってくれるだけで、なんだか気持ちが穏やかになる。我ながら、どれだけ心が廃れてるんだって思うけど。仕方ない。心も体も疲弊しているんだから。そういうのを補充しないとやっていけない。

「…た、ただいま」
おれは一瞬返事がどもってしまった。自分で言うのもだが、ただいま、って恥ずかしいよね、何か。言い慣れてないと、こっ恥ずかしい。むず痒くなる。

「はい、本日もお疲れ様でした。ごはんできてますから、座って待っててくださいね!」
「あ、ありがとう」

黒髪の彼女ははにかみながら、エプロンを靡かせて台所に向かって行く。おれはその後姿を目で追っていくと、食事を持ってきたハルカがやってくるのが見えた。

黒髪の彼女はソラだ。

訳あって、彼女はもう白髪ではなくなった。でも、なぜか黒髪も似合っている。というか、前からずっと黒髪を見ていたかのように馴染んでいる気がする。不思議だ。まだ会ってそう時間が経っていないのに。

「ふぁああああ!じがれだぁああああ」

装備を倉庫に片付け、中庭に戻ってきたコウタがテーブルに突っ伏してぼやいた。後ろから談笑しているミコトとゲンもいる。

「ちょっと、あんた今からそこに食事を置くんだからね!邪魔だからどきなさいよ」
ハルカは両手に料理を持っているので、コウタの脛のあたりをごつんと蹴ってどかせた。

「いってぇ!お前、それが仕事から帰ってきてくたびれた功労者にすることか!暴力女!バカ!アホ!マヌケ!」

「ダサ…」おれは無意識に呟いてしまっていた。コウタの言いたいことは分かるけれど、非常に罵倒の仕方がダサい。ダサすぎる。ガキかお前は。

コウタはぎろっとおれを睨んだ。
「おいユウト!聞こえてんぞお前!ユウトのくせに!ユウトのくせに!」
「悪い、つい口が…、って、今の二回も言う必要あった?」

ハルカは熱くなることなく、すんとした態度で食事を並べる。
「なーにが功労者よ。どうせあんた、スライム相手にひぃひぃ言ってたんじゃないの?想像でき過ぎて、私の想像力が怖いわ」

「ふっふーん!そんなことねぇし!今日の俺は一味も二味も、いや、百味も違ったぜ!!味のバラエティーが豊富過ぎてもはや何が何だかわかんねぇぐらいに凄い活躍をしたんだぜ!?」
「何言ってるんだろこの人…」
「こらユウト!お前は少し黙ってろ!」

「黙るのはお前だこの大ホラ吹き野郎」
「いってぇ!」後ろから近づいてきたゲンにコウタは後頭部を殴られた。

「適当なこと言いやがって。俺たちは“物質型”相手じゃ、ミコトがいなきゃ始まんねえだろ。自分で功績上げたみたいに言うな。もっと謙虚になれ。そしてミコトを崇めろ」

「あ、崇めろ…?」意味が分からなくて、おれは首を傾げていた。ゲンは真顔で応える。

「そうだぞ。ミコト相手にお前たちは図が高い。身分をわきまえて祈れ。誰のおかげで今日は稼げたと思ってるんだ」

ゲンはそう言ってミコトに祈りを捧げた。何か知らないけど、コウタもやっている。「明日大量のお金が降ってきますように…」とか言っている。何の神なんだ。でもおれもやった方がいいのか。ハルカは突っ込まないし。とりあえずやっとこう。

「えへへぇ~。なんか照れちゃうなぁ~。褒めても何も出ないよぉ」男三人に祈られているミコトは何だか嬉しそうだ。なんだこの絵面。ハルカも淡々と食事を並べてないで、さっさと突っ込んでくれ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サイコミステリー

色部耀
ファンタジー
超能力遺伝子サイコゲノムを持つ人が集められた全寮制の高校「国立特殊能力支援校」 主人公の真壁鏡平(まかべきょうへい)はサイコゲノムを持つがまだ自身の超能力を特定できていない「未確定能力者」だった。 そんな彼の下に依頼が飛び込んでくる。 「何を探すか教えてくれない探し物」 鏡平はその探し物を……

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...