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報酬
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『だったら』おれは、ショウを見返した。
『ソラを救出させて、お前はいったい何をするつもりなんだ?それに、そんなことまで知っているなら、ソラの正体も、知ってるんじゃないのか?』
やはり、解せない部分はある。ソラを助けることが、ショウにとってどういうメリットがあるのか。さっきはそれを“鍵”と言っていたけれど。何がどう“鍵”になる?
霧の中で見せたソラの姿。
なんであんな状態になったのか、そのことも気にならないわけではない。あれさえ分かれば、ホワイトやネイビーが追いかけている理由に繋がるかも知れない、というのもある。
なにより。
それを知ることで、ソラを信じてあげたられるなら。
「…今はまだ、そのことは気にするな」
ショウは興ざめしたかのように、低い声音になった。
「それに、これはいずれ分かることだろうからな」
『でも…』
「お前がおれの目的を知って、変な行動を起こすと要らない運命同士がぶつかり合う。知らなければ良いということもあるんだよ」
おれの言葉を遮るようにショウが言う。おれは負けじと声を張り上げた。
『例えば。例えばそれが、おれたちにとって悪いことだったら?』
「お前が損をするようなことはしない。それだけは、誓っておこう」
ショウは口元から笑みを消して、今までにないぐらい真剣な声音で言った。
それが嘘かどうかまでは判断できなかった。取り付く島もない感じだ。でも、腹の掴めないショウが、真剣にそう言ったのだ。そこまで言うのなら、嘘ではない、のだろうか。それとも、おれが騙されやすいだけ?分からない。
『………』
聞きたいことは他にも山ほどある。でも言葉が出てこない。全部、はぐらかされてしまいそうで、どう聞けばいいか、まったく思い浮かばなくなってしまった。
「…とまあ」ショウは、ぱん、と話を切るように掌を合わせると、どかっと古びた椅子に座り込んだ。その勢いで、ぎしっと椅子の軋む音が鳴り響く。
「色々無駄話をしてしまったが、とりあえず、おれの指示を遂行した報酬を与えてやる。ほら、こっちに来い」
「…報酬?」
「そうだ。お前に記憶を返すという約束だっただろ?」
『あ、ああ…』
ショウは指でちょいちょいと手招きして、おれはショウの方へ歩く。実際には歩いていないのだが、歩く素振りをすることで前に進むことができる。
おれはショウの目の前に立った。
ショウは座っているので、ここから見下ろしている形だ。するとショウは手をぐっと下へ落とす仕種をした。これはしゃがめということだろうか。おれはとりあえず、しゃがんでみる。今度はおれがショウに見下ろされてしまった。
「今回お前に返せる記憶はほんの一部なんだがな」
『…え、そうなの?』
てっきり、今回のでほとんど取り戻せると思っていたんだけど。
「ああ。これはおれ自身にもどうにもできなくてな。指示の成果によって、返せる記憶が決まっているらしい。いわゆる、等価交換ってやつだ」
指示の成果。おれは“ソラを救出する”という結果を果たしたはずだが。もしかして、そんなに価値が低かったのか?それとも、もっと高い成果を求められていたのか。
「…だから」ショウは右手を出しておれの頭を掴む。これも実際、思念体である俺おれに実体はないから、ショウは空気を掴んでいるようなものだ。
「お前はそんな余計なことを考えるよりも、早く記憶を取り戻すことを優先した方がいい」
『…なんで?』
おれはショウを見上げながら訊いた。下から覗くとショウの顔が見えるんじゃないかと思ったけれど、やっぱり影になっていて見えなかった。
『ソラを救出させて、お前はいったい何をするつもりなんだ?それに、そんなことまで知っているなら、ソラの正体も、知ってるんじゃないのか?』
やはり、解せない部分はある。ソラを助けることが、ショウにとってどういうメリットがあるのか。さっきはそれを“鍵”と言っていたけれど。何がどう“鍵”になる?
霧の中で見せたソラの姿。
なんであんな状態になったのか、そのことも気にならないわけではない。あれさえ分かれば、ホワイトやネイビーが追いかけている理由に繋がるかも知れない、というのもある。
なにより。
それを知ることで、ソラを信じてあげたられるなら。
「…今はまだ、そのことは気にするな」
ショウは興ざめしたかのように、低い声音になった。
「それに、これはいずれ分かることだろうからな」
『でも…』
「お前がおれの目的を知って、変な行動を起こすと要らない運命同士がぶつかり合う。知らなければ良いということもあるんだよ」
おれの言葉を遮るようにショウが言う。おれは負けじと声を張り上げた。
『例えば。例えばそれが、おれたちにとって悪いことだったら?』
「お前が損をするようなことはしない。それだけは、誓っておこう」
ショウは口元から笑みを消して、今までにないぐらい真剣な声音で言った。
それが嘘かどうかまでは判断できなかった。取り付く島もない感じだ。でも、腹の掴めないショウが、真剣にそう言ったのだ。そこまで言うのなら、嘘ではない、のだろうか。それとも、おれが騙されやすいだけ?分からない。
『………』
聞きたいことは他にも山ほどある。でも言葉が出てこない。全部、はぐらかされてしまいそうで、どう聞けばいいか、まったく思い浮かばなくなってしまった。
「…とまあ」ショウは、ぱん、と話を切るように掌を合わせると、どかっと古びた椅子に座り込んだ。その勢いで、ぎしっと椅子の軋む音が鳴り響く。
「色々無駄話をしてしまったが、とりあえず、おれの指示を遂行した報酬を与えてやる。ほら、こっちに来い」
「…報酬?」
「そうだ。お前に記憶を返すという約束だっただろ?」
『あ、ああ…』
ショウは指でちょいちょいと手招きして、おれはショウの方へ歩く。実際には歩いていないのだが、歩く素振りをすることで前に進むことができる。
おれはショウの目の前に立った。
ショウは座っているので、ここから見下ろしている形だ。するとショウは手をぐっと下へ落とす仕種をした。これはしゃがめということだろうか。おれはとりあえず、しゃがんでみる。今度はおれがショウに見下ろされてしまった。
「今回お前に返せる記憶はほんの一部なんだがな」
『…え、そうなの?』
てっきり、今回のでほとんど取り戻せると思っていたんだけど。
「ああ。これはおれ自身にもどうにもできなくてな。指示の成果によって、返せる記憶が決まっているらしい。いわゆる、等価交換ってやつだ」
指示の成果。おれは“ソラを救出する”という結果を果たしたはずだが。もしかして、そんなに価値が低かったのか?それとも、もっと高い成果を求められていたのか。
「…だから」ショウは右手を出しておれの頭を掴む。これも実際、思念体である俺おれに実体はないから、ショウは空気を掴んでいるようなものだ。
「お前はそんな余計なことを考えるよりも、早く記憶を取り戻すことを優先した方がいい」
『…なんで?』
おれはショウを見上げながら訊いた。下から覗くとショウの顔が見えるんじゃないかと思ったけれど、やっぱり影になっていて見えなかった。
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