Re:D.A.Y.S.

結月亜仁

文字の大きさ
上 下
84 / 120

しおりを挟む
******

あれ。ここは?

気付けばおれは、そこに佇んでいた。上も下も、右も左も分からない、真っ白な世界。身体の感覚は麻痺したように消えていて、何も感じない。

「…よう」

誰かの声がして、振り向いた。よく分からないのは、身体の感覚は無いのに、振り向く動きができることだ。普段の感覚と違うから、少し気持ち悪い。

そこには、薄汚れたローブを身に纏った男が、これまた古びた椅子に大きくもたれ掛かって偉そうに座っていた。

そうか。ここは。

『ショウの世界…』
おれの独り言が、白い世界に反響した。

ん?反響した?

『あれ?おれ喋れてる?』
口にしたことが、自分の聴覚でしっかりと聞き取れる。以前は、何を話しても口パクになるだけだったのに。

「あー、それなんだが」椅子に座っているショウが、肘置きにもたれ掛かって面倒くさそうに言う。

「いつもお前の表情から読み取るのが面倒だったんで、話せるようにこの世界を設定したんだ」

『じゃあ、初めからそうさせてくれよ…』
おれは呆れながら呟いた。それはそうと、今までこいつはおれの表情から思考を読み取っていたのか。それで会話が成立していたんだから、それはそれですごいような。

『…んでも。なんでまた、ここにいるんだっけ?』
なぜか、頭もよく回らなかった。身体が無いはずなのに、重い。自分の思考すらも鈍くなっている気がする。

「おいおい、そりゃあ、おれの指示を実行してくれた感謝の気持ちと報酬を与えるために呼んだに決まっているじゃないか。忘れちまったのか?」
ショウは、やれやれまったく、とでも言いたそうに肩をすくめた。

そうだ。おれは記憶を取り戻すために。ショウの指示で大樹の森へ行って。霧が出て。変な遺跡に辿り着いて。巨人と戦って。ソラと出会って。ホワイトとネイビーと戦って。

大樹の森に行くだけでよかったはずなのに、いつの間にかすごい冒険をしてしまった。それはやっぱり、このローブ野郎がそうなるよう仕組んでいたのか。

「心外だな、おれを詐欺師みたいな目で見るんじゃねえ」
ショウはおれに掌を向けてひらひらと振った。

「おれはただ、そうなるかもしれない可能性を引き出すための行動を示しただけに過ぎない。大樹の森へ行くというのはおれの指示でも、その後の可能性は、お前たち自身が繋いだものだ」

そう言うと、ショウは椅子から立ち上がった。

「まずは生還おめでとう、ユウト。おかげで一つ“鍵”が手に入った」
ふふっと不気味な笑みを溢しながら、ぱんぱんぱん、と乾いた拍手をおれに送った。

『鍵…』

おれはショウの言う鍵について考えた。たぶん、いや確実にそれは、物理的に存在する鍵じゃない。何か目的を達成するための、可能性という名の鍵。

じゃあそれは何だ。おれたちが霧の中で迷うこと?遺跡に辿り着くこと?
違うだろ。

おれたちがあの時大樹の森に行ったことで生まれた可能性。
それは。

おれの表情だけ見て、ショウはにやりと口を歪ませた。

「ご名答。今回の指示の目的は、“ソラという女を救出する”ことだった」

はっきりと、ショウはそう答える。薄々勘づいていたけれど、やっぱりそうだったのか。おれたちにソラを救ってほしくて、あんな意味の分からない指示を出したのか。

でも。

『…なんで、最初から“ソラを救う”っていう指示を出さなかったんだ?』

まあ何も知らない状態で、見ず知らずの女の子を救出しろ!なんて言われても、判然としないのかもしれないけれど。

だとしても、その目的が分かってさえいれば、準備ができた。もっとうまくやれた。皆を危険に合わせずに済んだ。

「おれはな」
ショウは両手を腰に当て、俯き気味に言った。

「“示す者ショウ”の権能で、可能性の行く先が分かるんだ。だから、そうなるかもしれない可能性を与えるために、指示しただけなんだよ」

『それ、初めて聞いたんだけど…』
確かに、ショウはおれたちにはできないことができる、と言っていたが、そんなことを教えられないまま指示されたわけだ。

まあ、記憶を取り戻すためとはいえ、それを疑問に思わずに実行してしまったおれもおれで、良くはなかったかもしれない。

そこは反省しなければならないのだけど。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

怖がりの少年

火吹き石
ファンタジー
・ある村の少年組の、ささやかな日常の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...