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あれ。ここは?
気付けばおれは、そこに佇んでいた。上も下も、右も左も分からない、真っ白な世界。身体の感覚は麻痺したように消えていて、何も感じない。
「…よう」
誰かの声がして、振り向いた。よく分からないのは、身体の感覚は無いのに、振り向く動きができることだ。普段の感覚と違うから、少し気持ち悪い。
そこには、薄汚れたローブを身に纏った男が、これまた古びた椅子に大きくもたれ掛かって偉そうに座っていた。
そうか。ここは。
『ショウの世界…』
おれの独り言が、白い世界に反響した。
ん?反響した?
『あれ?おれ喋れてる?』
口にしたことが、自分の聴覚でしっかりと聞き取れる。以前は、何を話しても口パクになるだけだったのに。
「あー、それなんだが」椅子に座っているショウが、肘置きにもたれ掛かって面倒くさそうに言う。
「いつもお前の表情から読み取るのが面倒だったんで、話せるようにこの世界を設定したんだ」
『じゃあ、初めからそうさせてくれよ…』
おれは呆れながら呟いた。それはそうと、今までこいつはおれの表情から思考を読み取っていたのか。それで会話が成立していたんだから、それはそれですごいような。
『…んでも。なんでまた、ここにいるんだっけ?』
なぜか、頭もよく回らなかった。身体が無いはずなのに、重い。自分の思考すらも鈍くなっている気がする。
「おいおい、そりゃあ、おれの指示を実行してくれた感謝の気持ちと報酬を与えるために呼んだに決まっているじゃないか。忘れちまったのか?」
ショウは、やれやれまったく、とでも言いたそうに肩をすくめた。
そうだ。おれは記憶を取り戻すために。ショウの指示で大樹の森へ行って。霧が出て。変な遺跡に辿り着いて。巨人と戦って。ソラと出会って。ホワイトとネイビーと戦って。
大樹の森に行くだけでよかったはずなのに、いつの間にかすごい冒険をしてしまった。それはやっぱり、このローブ野郎がそうなるよう仕組んでいたのか。
「心外だな、おれを詐欺師みたいな目で見るんじゃねえ」
ショウはおれに掌を向けてひらひらと振った。
「おれはただ、そうなるかもしれない可能性を引き出すための行動を示しただけに過ぎない。大樹の森へ行くというのはおれの指示でも、その後の可能性は、お前たち自身が繋いだものだ」
そう言うと、ショウは椅子から立ち上がった。
「まずは生還おめでとう、ユウト。おかげで一つ“鍵”が手に入った」
ふふっと不気味な笑みを溢しながら、ぱんぱんぱん、と乾いた拍手をおれに送った。
『鍵…』
おれはショウの言う鍵について考えた。たぶん、いや確実にそれは、物理的に存在する鍵じゃない。何か目的を達成するための、可能性という名の鍵。
じゃあそれは何だ。おれたちが霧の中で迷うこと?遺跡に辿り着くこと?
違うだろ。
おれたちがあの時大樹の森に行ったことで生まれた可能性。
それは。
おれの表情だけ見て、ショウはにやりと口を歪ませた。
「ご名答。今回の指示の目的は、“ソラという女を救出する”ことだった」
はっきりと、ショウはそう答える。薄々勘づいていたけれど、やっぱりそうだったのか。おれたちにソラを救ってほしくて、あんな意味の分からない指示を出したのか。
でも。
『…なんで、最初から“ソラを救う”っていう指示を出さなかったんだ?』
まあ何も知らない状態で、見ず知らずの女の子を救出しろ!なんて言われても、判然としないのかもしれないけれど。
だとしても、その目的が分かってさえいれば、準備ができた。もっとうまくやれた。皆を危険に合わせずに済んだ。
「おれはな」
ショウは両手を腰に当て、俯き気味に言った。
「“示す者”の権能で、可能性の行く先が分かるんだ。だから、そうなるかもしれない可能性を与えるために、指示しただけなんだよ」
『それ、初めて聞いたんだけど…』
確かに、ショウはおれたちにはできないことができる、と言っていたが、そんなことを教えられないまま指示されたわけだ。
まあ、記憶を取り戻すためとはいえ、それを疑問に思わずに実行してしまったおれもおれで、良くはなかったかもしれない。
そこは反省しなければならないのだけど。
あれ。ここは?
気付けばおれは、そこに佇んでいた。上も下も、右も左も分からない、真っ白な世界。身体の感覚は麻痺したように消えていて、何も感じない。
「…よう」
誰かの声がして、振り向いた。よく分からないのは、身体の感覚は無いのに、振り向く動きができることだ。普段の感覚と違うから、少し気持ち悪い。
そこには、薄汚れたローブを身に纏った男が、これまた古びた椅子に大きくもたれ掛かって偉そうに座っていた。
そうか。ここは。
『ショウの世界…』
おれの独り言が、白い世界に反響した。
ん?反響した?
『あれ?おれ喋れてる?』
口にしたことが、自分の聴覚でしっかりと聞き取れる。以前は、何を話しても口パクになるだけだったのに。
「あー、それなんだが」椅子に座っているショウが、肘置きにもたれ掛かって面倒くさそうに言う。
「いつもお前の表情から読み取るのが面倒だったんで、話せるようにこの世界を設定したんだ」
『じゃあ、初めからそうさせてくれよ…』
おれは呆れながら呟いた。それはそうと、今までこいつはおれの表情から思考を読み取っていたのか。それで会話が成立していたんだから、それはそれですごいような。
『…んでも。なんでまた、ここにいるんだっけ?』
なぜか、頭もよく回らなかった。身体が無いはずなのに、重い。自分の思考すらも鈍くなっている気がする。
「おいおい、そりゃあ、おれの指示を実行してくれた感謝の気持ちと報酬を与えるために呼んだに決まっているじゃないか。忘れちまったのか?」
ショウは、やれやれまったく、とでも言いたそうに肩をすくめた。
そうだ。おれは記憶を取り戻すために。ショウの指示で大樹の森へ行って。霧が出て。変な遺跡に辿り着いて。巨人と戦って。ソラと出会って。ホワイトとネイビーと戦って。
大樹の森に行くだけでよかったはずなのに、いつの間にかすごい冒険をしてしまった。それはやっぱり、このローブ野郎がそうなるよう仕組んでいたのか。
「心外だな、おれを詐欺師みたいな目で見るんじゃねえ」
ショウはおれに掌を向けてひらひらと振った。
「おれはただ、そうなるかもしれない可能性を引き出すための行動を示しただけに過ぎない。大樹の森へ行くというのはおれの指示でも、その後の可能性は、お前たち自身が繋いだものだ」
そう言うと、ショウは椅子から立ち上がった。
「まずは生還おめでとう、ユウト。おかげで一つ“鍵”が手に入った」
ふふっと不気味な笑みを溢しながら、ぱんぱんぱん、と乾いた拍手をおれに送った。
『鍵…』
おれはショウの言う鍵について考えた。たぶん、いや確実にそれは、物理的に存在する鍵じゃない。何か目的を達成するための、可能性という名の鍵。
じゃあそれは何だ。おれたちが霧の中で迷うこと?遺跡に辿り着くこと?
違うだろ。
おれたちがあの時大樹の森に行ったことで生まれた可能性。
それは。
おれの表情だけ見て、ショウはにやりと口を歪ませた。
「ご名答。今回の指示の目的は、“ソラという女を救出する”ことだった」
はっきりと、ショウはそう答える。薄々勘づいていたけれど、やっぱりそうだったのか。おれたちにソラを救ってほしくて、あんな意味の分からない指示を出したのか。
でも。
『…なんで、最初から“ソラを救う”っていう指示を出さなかったんだ?』
まあ何も知らない状態で、見ず知らずの女の子を救出しろ!なんて言われても、判然としないのかもしれないけれど。
だとしても、その目的が分かってさえいれば、準備ができた。もっとうまくやれた。皆を危険に合わせずに済んだ。
「おれはな」
ショウは両手を腰に当て、俯き気味に言った。
「“示す者”の権能で、可能性の行く先が分かるんだ。だから、そうなるかもしれない可能性を与えるために、指示しただけなんだよ」
『それ、初めて聞いたんだけど…』
確かに、ショウはおれたちにはできないことができる、と言っていたが、そんなことを教えられないまま指示されたわけだ。
まあ、記憶を取り戻すためとはいえ、それを疑問に思わずに実行してしまったおれもおれで、良くはなかったかもしれない。
そこは反省しなければならないのだけど。
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