46 / 120
光
しおりを挟む
「何なんだ、ホント、ここ…」
そう声に出しても、返してくれる言葉はない。ただ静寂の中に、溶け込むだけだ。
一人なんだな、と実感する。でも、一人は、わりと嫌いじゃない。嫌いというか、好きな方だ。誰にも迷惑かけないし、誰かに見られることもないから、変に気負う必要もない。
だからって、皆といたくないわけじゃない。皆といる時はいる時で、楽しい。自分が持っていない考えを聞くことができて、見て、聴いたものを共有することができる。
特に今は前の記憶が無いから、耳に入ってくる言葉全てが新鮮だ。
「これもミコトが見たら、喜びそうだな…」
おれは、壁いっぱいに描かれた壁画を見ていた。
どれぐらい歩いたか分からないが、とりあえず風が来る方へ足を進めていった。幾つか部屋みたいな空間を通り過ぎて、着いたのがこの壁画が描かれた大きな部屋だ。
遺跡の地下は外の明かりがないが、幸いここにもヒカリゴケが生息してくれていたおかげで、前が見えない手探り状態という危機は回避できた。
この部屋にも、壁画全体が分かるほど、ヒカリゴケが壁や天井に張り付いている。
数メートルに及ぶ壁画には、人と思しき絵と、見るからに人じゃない生き物、それに、巨大な人間の絵が浮かび上がっていた。
「何を描いてるんだろ…」
大勢の人が、人じゃない生き物と向かい合っている。生き物の後ろには、巨大な人間が、手を広げて、何か祈っている…?
向かい合っているというのは、人と、この生き物が戦っている、ということなのだろうか。だったら、この後ろにいるでかい人間はいったい誰なのだろう。生き物の味方なのか。それとも、生き物を従えているのか。
それに、この生き物。黒くて、目が赤い。数日前戦った黒い化物を彷彿とさせる。でも、この絵は形がいまいちはっきりしていなから、そう見えるだけかも。
「まったくわからない…」
歴史には、それほどどころか、全然詳しくないし、覚えてもいない。ミコトなら、もしかしたら分かるかもしれないけれど。そして、コウタがバカみたいな発言をして、ハルカが突っ込みを入れる。ゲンがそんな彼らを見守る。
そんな風景が思い浮かんだ。
おれは深く息を突いた。
そもそも、おれがこんなことを言い出してしまったから、彼らをこんな危険な目に合わせてしまった。
もともとは、ショウからの指示だから、原因はあいつなのだが。でも、おれも何も疑わずに行動してしまったことは良くなかっただろう。もう少し、慎重にやるべきだった。
結局ショウはおれたちに何をさせたかったのか。遺跡に来させて、危険な目に合わせて。
もしかして、弄ばれているだけなのか。
時間を巻き戻して、もう一度正しい選択をしたいという気持ちが沸き上がってくる。
分かっている。またしょうもないことを考えているって。
記憶を奪われる前のおれなら、もっとうまくやっていただろうか。いや、やっていてもいなくても、ショウに全責任を押し付けたくなる。
駄目だ。そうやって、人のせいにしている場合じゃない。今はとりあえず、目の前の問題を解決しないと。
そうして、壁画を横目に足を踏み出した時。
「————ん?」
風が来る方から、光が見えた。間違いない、この部屋の、向こう側だ。
おれは歩く速度を速めた。もしかしたら、外に通じる道があるのかもしれない。
光に近づいてきた。徐々に明るさを増していく。
そこに着いた瞬間は、眩しさで目を細めた。だんだん目が慣れて周りの風景が鮮明になっていく。
はっきり言うと、そこは出口に通じる道じゃなかった。明るくなっていたのは、天井に穴が空いていたからであって。
そして、穴の真下の、瓦礫の山に横たわっていたのは。
「…女の子?」
一人の、少女だった。
そう声に出しても、返してくれる言葉はない。ただ静寂の中に、溶け込むだけだ。
一人なんだな、と実感する。でも、一人は、わりと嫌いじゃない。嫌いというか、好きな方だ。誰にも迷惑かけないし、誰かに見られることもないから、変に気負う必要もない。
だからって、皆といたくないわけじゃない。皆といる時はいる時で、楽しい。自分が持っていない考えを聞くことができて、見て、聴いたものを共有することができる。
特に今は前の記憶が無いから、耳に入ってくる言葉全てが新鮮だ。
「これもミコトが見たら、喜びそうだな…」
おれは、壁いっぱいに描かれた壁画を見ていた。
どれぐらい歩いたか分からないが、とりあえず風が来る方へ足を進めていった。幾つか部屋みたいな空間を通り過ぎて、着いたのがこの壁画が描かれた大きな部屋だ。
遺跡の地下は外の明かりがないが、幸いここにもヒカリゴケが生息してくれていたおかげで、前が見えない手探り状態という危機は回避できた。
この部屋にも、壁画全体が分かるほど、ヒカリゴケが壁や天井に張り付いている。
数メートルに及ぶ壁画には、人と思しき絵と、見るからに人じゃない生き物、それに、巨大な人間の絵が浮かび上がっていた。
「何を描いてるんだろ…」
大勢の人が、人じゃない生き物と向かい合っている。生き物の後ろには、巨大な人間が、手を広げて、何か祈っている…?
向かい合っているというのは、人と、この生き物が戦っている、ということなのだろうか。だったら、この後ろにいるでかい人間はいったい誰なのだろう。生き物の味方なのか。それとも、生き物を従えているのか。
それに、この生き物。黒くて、目が赤い。数日前戦った黒い化物を彷彿とさせる。でも、この絵は形がいまいちはっきりしていなから、そう見えるだけかも。
「まったくわからない…」
歴史には、それほどどころか、全然詳しくないし、覚えてもいない。ミコトなら、もしかしたら分かるかもしれないけれど。そして、コウタがバカみたいな発言をして、ハルカが突っ込みを入れる。ゲンがそんな彼らを見守る。
そんな風景が思い浮かんだ。
おれは深く息を突いた。
そもそも、おれがこんなことを言い出してしまったから、彼らをこんな危険な目に合わせてしまった。
もともとは、ショウからの指示だから、原因はあいつなのだが。でも、おれも何も疑わずに行動してしまったことは良くなかっただろう。もう少し、慎重にやるべきだった。
結局ショウはおれたちに何をさせたかったのか。遺跡に来させて、危険な目に合わせて。
もしかして、弄ばれているだけなのか。
時間を巻き戻して、もう一度正しい選択をしたいという気持ちが沸き上がってくる。
分かっている。またしょうもないことを考えているって。
記憶を奪われる前のおれなら、もっとうまくやっていただろうか。いや、やっていてもいなくても、ショウに全責任を押し付けたくなる。
駄目だ。そうやって、人のせいにしている場合じゃない。今はとりあえず、目の前の問題を解決しないと。
そうして、壁画を横目に足を踏み出した時。
「————ん?」
風が来る方から、光が見えた。間違いない、この部屋の、向こう側だ。
おれは歩く速度を速めた。もしかしたら、外に通じる道があるのかもしれない。
光に近づいてきた。徐々に明るさを増していく。
そこに着いた瞬間は、眩しさで目を細めた。だんだん目が慣れて周りの風景が鮮明になっていく。
はっきり言うと、そこは出口に通じる道じゃなかった。明るくなっていたのは、天井に穴が空いていたからであって。
そして、穴の真下の、瓦礫の山に横たわっていたのは。
「…女の子?」
一人の、少女だった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる