22 / 120
傭兵ギルド
しおりを挟む
大通りを突き進んで、さらに左側の路地を抜けると、目的地が見えてくる。
目の前から見ると、明らかに他の建物とは雰囲気が違うこの建造物には、大きな門が設えられている。開かれた門を進むと、その全容が明らかになった。
パッと見教会に近い造りをしているものの、出入りしている人間は皆信徒らしい恰好をしていない。むしろ、無骨な輩ばかりだ。
エントランスを突っ切って、玄関にたどり着いた。
ドアの上の看板には、でかでかとこう書かれている。
“傭兵ギルドアルドラ支部”
ここは、傭兵ギルドが管理している、専用の建物だ。
傭兵。それがおれたちの仕事だ。
おれたちは傭兵ギルドのドアを開けた。ギィ、とドアが軋む音を立てて空いた先には、大きな廊下が見えた。街の大通りほどではないが、多くの人々が廊下を行き来しているところをみると、それなりに繁盛しているようだ。
おれは行き過ぎる人と目が合いそうになって、さっと視線を下に向けた。
やはり、傭兵と言う仕事をしているだけあって、どうも皆威圧的だ。自分がただそう感じているだけで、本当は違うかもしれないけれど、まだ慣れていないというか。こんな場所にいる自分の場違い感がすごい。
けれどゲンたちは全く気にも留めず、奥の方へ廊下を進んでいく。
慣れてるよなあ、皆は。
おれはそれでも人と目が合わないように周りを眺めた。腹筋がバキバキの目つきが鋭い女。ガラの悪い、チンピラみたいな男。上半身の筋肉が盛り上がっていて、短足に見える男。
この人たちは全員、傭兵だ。
そういうおれたちも傭兵の端くれなのだが、ゲンたちの話を聞く限り、まだおれたちは傭兵業を始めて日が浅いようだ。
しかし、いくら日が浅くとも、傭兵であることに変わりはない。
これが、皆に記憶が無いことを言えない要因の一つでもあった。
傭兵は、仕事をする際にパーティという少人数の集団を形成する必要がある。一人で仕事ができないわけではないが、基本的にはこのパーティを組むことは必須だ。
そこで、もし、記憶を失っていることが皆にバレてしまったら。たぶん、パーティを追い出されてしまうことは確実だ。皆の足を引っ張ってしまうから。そうなるとまずい。おれはこの世界の知識をほとんど知らないうえに、他の誰かに頼る宛もない。そんな状況で一人突き放されたら、生きていける保証なんて、どこにもない。
だから、皆の迷惑にならないように、バレないように、一週間を過ごしてきた。上手に隠せていたかどうかは、正直不明だ。たくさんミスをして、何度も死にかけた。今日だって、あのボスザルシュのパンチが当たっていたら、どうなっていたことやら。考えただけでぞっとする。
廊下の突きあたりで左右に分かれた廊下を右側に沿って歩いて行く。
なぜおれたちがこの傭兵ギルドに来たのかというと、依頼達成の報告をするために立ち寄ったのだ。
傭兵には様々な仕事がある。その中で一番ありふれているのは、掲示板に貼られた依頼を遂行する仕事だ。傭兵ギルドには依頼を受け付ける窓口があって、毎日たくさんの依頼が募集される。
依頼内容は魔物の討伐だったり、護衛の仕事だったり。多種多様な仕事が存在する。その中で自分たちに合った仕事を探して、完遂することが目的だ。
大きな廊下を右に曲がると、幾つものカウンターが設置された場所が見えてきた。ここが、依頼完了を伝えるための窓口だ。
「すいません」ゲンが窓口の女性に声を掛けた。
「この依頼を受けていたんですけど」
ゲンは丸めた紙切れを女性に渡した。これは、掲示板に貼られてあった依頼書だ。女性はさっとその依頼書に目を通すと、優し気な口調で応えた。
「はい、確認しました。では、証拠品、素材などがあれば、提示をお願いします」
コウタがゲンの前に進み出て、人の顔より小さめの茶色い袋を差し出す。女性はそれを受け取ると、「少々お待ちください」と言って、奥の方に姿を消した。
袋の中には何が入っているかと言うと、ザルシュの右耳が詰められている。おれは想像しようとしたところで、気持ち悪くなって止めた。
普通にグロいかもしれないが、そうでもしないと、倒したという証拠にならないのだ。仕方がない。
今回受けた依頼は、ザルシュ数匹の討伐だった。
ザルシュは魔物の中でも低級に属する魔物だが、それなりに数が増えると厄介なのだ。群れが大きくなると、街にも被害を与え始める。外壁で守られたアルドラ自体は直接影響が無いと言ってもいいが、アルドラを訪れる、旅人や商人などが襲われる可能性がある。
アルドラはいわば外からの貿易で成り立っている部分が多い街だ。食糧や日用品、農作物は、アルドラの街でほとんど扱われていないため、商人から買い取るしかない。その商人たちが魔物に襲われて商品が無くなってしまったとなると、死活問題に陥るのは目に見えている。
そうならないために定期的に魔物を狩ることを、アルドラの上層部のお偉いさんたちが推奨しているため、この依頼は低級の魔物を対象としているわりに報酬が良いということで、意外と狙い目だった。
暫くすると、女性が拳大の袋を持ってきて帰ってきた。
「お待たせしました。こちらが報酬金です。中身をお確かめください」
ゲンが、金目のものが入っているであろう袋を手に取った。
これが、おれたちが生きていくために必要な、生命線だ。
目の前から見ると、明らかに他の建物とは雰囲気が違うこの建造物には、大きな門が設えられている。開かれた門を進むと、その全容が明らかになった。
パッと見教会に近い造りをしているものの、出入りしている人間は皆信徒らしい恰好をしていない。むしろ、無骨な輩ばかりだ。
エントランスを突っ切って、玄関にたどり着いた。
ドアの上の看板には、でかでかとこう書かれている。
“傭兵ギルドアルドラ支部”
ここは、傭兵ギルドが管理している、専用の建物だ。
傭兵。それがおれたちの仕事だ。
おれたちは傭兵ギルドのドアを開けた。ギィ、とドアが軋む音を立てて空いた先には、大きな廊下が見えた。街の大通りほどではないが、多くの人々が廊下を行き来しているところをみると、それなりに繁盛しているようだ。
おれは行き過ぎる人と目が合いそうになって、さっと視線を下に向けた。
やはり、傭兵と言う仕事をしているだけあって、どうも皆威圧的だ。自分がただそう感じているだけで、本当は違うかもしれないけれど、まだ慣れていないというか。こんな場所にいる自分の場違い感がすごい。
けれどゲンたちは全く気にも留めず、奥の方へ廊下を進んでいく。
慣れてるよなあ、皆は。
おれはそれでも人と目が合わないように周りを眺めた。腹筋がバキバキの目つきが鋭い女。ガラの悪い、チンピラみたいな男。上半身の筋肉が盛り上がっていて、短足に見える男。
この人たちは全員、傭兵だ。
そういうおれたちも傭兵の端くれなのだが、ゲンたちの話を聞く限り、まだおれたちは傭兵業を始めて日が浅いようだ。
しかし、いくら日が浅くとも、傭兵であることに変わりはない。
これが、皆に記憶が無いことを言えない要因の一つでもあった。
傭兵は、仕事をする際にパーティという少人数の集団を形成する必要がある。一人で仕事ができないわけではないが、基本的にはこのパーティを組むことは必須だ。
そこで、もし、記憶を失っていることが皆にバレてしまったら。たぶん、パーティを追い出されてしまうことは確実だ。皆の足を引っ張ってしまうから。そうなるとまずい。おれはこの世界の知識をほとんど知らないうえに、他の誰かに頼る宛もない。そんな状況で一人突き放されたら、生きていける保証なんて、どこにもない。
だから、皆の迷惑にならないように、バレないように、一週間を過ごしてきた。上手に隠せていたかどうかは、正直不明だ。たくさんミスをして、何度も死にかけた。今日だって、あのボスザルシュのパンチが当たっていたら、どうなっていたことやら。考えただけでぞっとする。
廊下の突きあたりで左右に分かれた廊下を右側に沿って歩いて行く。
なぜおれたちがこの傭兵ギルドに来たのかというと、依頼達成の報告をするために立ち寄ったのだ。
傭兵には様々な仕事がある。その中で一番ありふれているのは、掲示板に貼られた依頼を遂行する仕事だ。傭兵ギルドには依頼を受け付ける窓口があって、毎日たくさんの依頼が募集される。
依頼内容は魔物の討伐だったり、護衛の仕事だったり。多種多様な仕事が存在する。その中で自分たちに合った仕事を探して、完遂することが目的だ。
大きな廊下を右に曲がると、幾つものカウンターが設置された場所が見えてきた。ここが、依頼完了を伝えるための窓口だ。
「すいません」ゲンが窓口の女性に声を掛けた。
「この依頼を受けていたんですけど」
ゲンは丸めた紙切れを女性に渡した。これは、掲示板に貼られてあった依頼書だ。女性はさっとその依頼書に目を通すと、優し気な口調で応えた。
「はい、確認しました。では、証拠品、素材などがあれば、提示をお願いします」
コウタがゲンの前に進み出て、人の顔より小さめの茶色い袋を差し出す。女性はそれを受け取ると、「少々お待ちください」と言って、奥の方に姿を消した。
袋の中には何が入っているかと言うと、ザルシュの右耳が詰められている。おれは想像しようとしたところで、気持ち悪くなって止めた。
普通にグロいかもしれないが、そうでもしないと、倒したという証拠にならないのだ。仕方がない。
今回受けた依頼は、ザルシュ数匹の討伐だった。
ザルシュは魔物の中でも低級に属する魔物だが、それなりに数が増えると厄介なのだ。群れが大きくなると、街にも被害を与え始める。外壁で守られたアルドラ自体は直接影響が無いと言ってもいいが、アルドラを訪れる、旅人や商人などが襲われる可能性がある。
アルドラはいわば外からの貿易で成り立っている部分が多い街だ。食糧や日用品、農作物は、アルドラの街でほとんど扱われていないため、商人から買い取るしかない。その商人たちが魔物に襲われて商品が無くなってしまったとなると、死活問題に陥るのは目に見えている。
そうならないために定期的に魔物を狩ることを、アルドラの上層部のお偉いさんたちが推奨しているため、この依頼は低級の魔物を対象としているわりに報酬が良いということで、意外と狙い目だった。
暫くすると、女性が拳大の袋を持ってきて帰ってきた。
「お待たせしました。こちらが報酬金です。中身をお確かめください」
ゲンが、金目のものが入っているであろう袋を手に取った。
これが、おれたちが生きていくために必要な、生命線だ。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気が付くと見知らぬ部屋にいた。
最初は、何が起こっているのか、状況を把握する事が出来なかった。
でも、鏡に映った自分の姿を見た時、この世界で生きてきた、リュカとしての記憶を思い出した。
記憶を思い出したはいいが、状況はよくなかった。なぜなら、貴族では失敗した人がいない、召喚の儀を失敗してしまった後だったからだ!
貴族としては、落ちこぼれの烙印を押されても、5歳の子供をいきなり屋敷の外に追い出したりしないだろう。しかも、両親共に、過保護だからそこは大丈夫だと思う……。
でも、両親を独占して甘やかされて、勉強もさぼる事が多かったため、兄様との関係はいいとは言えない!!
このままでは、兄様が家督を継いだ後、屋敷から追い出されるかもしれない!
何とか兄様との関係を改善して、追い出されないよう、追い出されてもいいように勉強して力を付けるしかない!
だけど、勉強さぼっていたせいで、一般常識さえも知らない事が多かった……。
それに、勉強と兄様との関係修復を目指して頑張っても、兄様との距離がなかなか縮まらない!!
それでも、今日も関係修復頑張ります!!
5/9から小説になろうでも掲載中
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
主人公を助ける実力者を目指して、
漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる