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第4章 晩秋に舞う想い
第31話 心根
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結衣の言った通り、翌日の二人は何事もなかったように振る舞っていた。ただ、唯一双方の事情を知る由美は、平常心を装うのに必死だった。
今日が月曜日であることは幸いだった。学校や仕事に行ってしまえば、二人が長時間顔を合わせずに済む。抜け目のない結衣だから、そんなところも計算しての日程設定だったのかもしれない。
「昨日言えなかったけど、ありがとうな」
「んー?」
クラス中に知れ渡ってしまえば、意図的に登校の時間をずらす必要はない。バス停までの間、隣り合って歩く哉太が前を向いたまま礼を口にした。
いくつか心当たりはあるが、どれに対しての言葉か判断できなかったため、由美はとぼけて返事をした。
「由美が家にいてくれて、助かった」
「それはどういたしまして」
朝の肌寒さに小さく身震いしつつ、由美は笑ってみせた。
この感情は何だろう、自問自答しても正解は出てこない。昨夜、結衣の言ったことが心に引っかかっていた。
学校での哉太は、いつもと変わらずに明るく過ごしていた。誠に対し「振られたよー」などと、あっさりと話している声も聞こえてきたくらいだ。
一晩で気持ちの整理ができたのか、それとも取り繕っているだけなのか、今の由美にはわからない。訓練の際に心を繋げてしまえば、嫌でもわかってしまう。相棒たる由美としては、できれば彼からの言葉として本音が聞きたいとも思っていた。
授業に実行委員の仕事に、その日は慌ただしく過ぎていった。
「由美、ちょっといい?」
そろそろ下校するかという時、不意に紗奈子が由美を呼んだ。教室の外から手招きをしている様子を見ると、男子二人には聞かせたくない話のようだ。鞄に荷物を押し込んでいる哉太と誠に「ちょっと待ってて」と告げ、席を立った。
「どうしたの?」
「あのね、私、文化祭の後、佐々木に告白する」
「ふぁっ!」
突然の宣言に、思わず変な声が出てしまった。今まで恋愛的な意味では、全く自ら行動しなかった紗奈子だ。急に自ら告白すると言い出すとは、由美としては思ってもみなかった。
「タイミング的に、霧崎君には悪いんだけどね。ほら、今いかないと来月、あれだから」
「ああー」
確かに、翌月である十二月の後半には大きなイベントが控えている。現在のこの国においては、恋人や大切な人と過ごすのが理想とされている日だ。男女関係には疎い由美でも、紗奈子の目論見は充分に理解できた。
「由美になにかしてほしいってわけじゃないんだけど、言っておかないと勇気が出なくて」
「うんうん。応援だけしてるね」
「ありがと」
余りにもわかりやすい両片想いを見守っている身からすれば、良い返事があることは明白だ。それでも緊張に体を強張らせている紗奈子は可愛らしかった。大好きな友人には幸せになってほしい。
微笑ましい気持ちのままで、四人揃って駅まで向かい、そこで二人ずつに分れる。楽しそうな紗奈子と誠を見ていれば、文化祭の実行委員に巻き込んだのも悪くないと思えた。
「あのさ」
「ん?」
ホームで電車を待っていると、哉太が視線だけを由美へ向けた。
「訓練で伝わる前に言っておこうかと」
「うん」
「まだ落ち込んでる」
「そっか」
あまり会話の得意でない由美は、基本的には相槌だけだ。余計なことを言ってしまわないように、相手の心を聞き逃さないように。
「でも、少しはすっきりしてるよ。それに、はっきり言ってくれるだけ考えてくれてたんだろうなって」
「そうだね」
結衣が哉太の気持ちを真剣に考えていたことは、由美も知っている。それが本人にも伝わっていたのは、きっと両方にとって救いになるのだろうと思えた。
「だから、俺は荒魂を叩く。徹底的にだ。裏で操っている奴も見つけだす」
「うん、それは私も」
「そいつを捕まえれば、荒魂って何なのかわかるかもしれない。そうすればいつか……」
由美は、相棒の意見に頷いた。結衣と哉太と自分、他にも多くの人々の人生を歪めてしまった荒魂は許さない。毎月の夜に現れるものを、その都度狩るだけでは足りないのだ。だから、これまでの常識から逸脱している哉太の意見に賛同し協力している。
すぐにではなくとも、この意志の流れが続くようになれば良いと思う。そうすれば、いつかはあの化け物が生み出す悲しみを消し去ることができるかもしれない。
「でも、前にも言ったけど、無茶しないでね。哉太が消えるのは困るから」
「そこは加減するよ」
「人を見捨てる覚悟もしないといけないかもしれないよ?」
哉太に伝えた言葉は、自分にも向けたものだった。前回のように目先の人命を優先した行動は、最終的な目的に悪影響を及ぼす。わかっていはいても自らを止められないこともあるだろう。その場合は、相棒同士で牽制し合えばいい。
「わかってる。場合によっては由美の要求を断るからな」
「うん。よろしくね」
互いの意志を確認し合った後は、言葉など不要だった。優子がいる場での訓練は通常通りにこなし、いない時には作戦を練るという日々が続く。
《調》と《伝》を併用して荒魂を操るという、哉太の考えだした力は、二人の間では《操》と呼称していた。訓練時には、由美に対して使ってみることで様々な試験を行った。自分の体が他者の意思で操られることは、非常に不気味な気分だった。これが哉太でなければ、由美は耐えられなかったことだろう。
この《操》が実際の荒魂に有効であるかどうかは、やってみなければわからない。本番任せというのは不安だが、由美と哉太で、可能な限りの準備は行った自負を持てていた。
学校では文化祭の準備が着々と進んでいった。紗奈子の活躍により外部入場者リストの作成も完了し、開催当日を待つばかりとなっていた。由美にとっては大変ながらも非常に楽しく、友人のありがたさを再確認する日々だった。
哉太が失恋をした日、酒に酔った結衣から言われたことが頭から離れたわけではない。片隅に追いやり、忙しさで上塗りをしていただけだ。ただ、目的を遂げるまでは、目を背けていたかった。
今日が月曜日であることは幸いだった。学校や仕事に行ってしまえば、二人が長時間顔を合わせずに済む。抜け目のない結衣だから、そんなところも計算しての日程設定だったのかもしれない。
「昨日言えなかったけど、ありがとうな」
「んー?」
クラス中に知れ渡ってしまえば、意図的に登校の時間をずらす必要はない。バス停までの間、隣り合って歩く哉太が前を向いたまま礼を口にした。
いくつか心当たりはあるが、どれに対しての言葉か判断できなかったため、由美はとぼけて返事をした。
「由美が家にいてくれて、助かった」
「それはどういたしまして」
朝の肌寒さに小さく身震いしつつ、由美は笑ってみせた。
この感情は何だろう、自問自答しても正解は出てこない。昨夜、結衣の言ったことが心に引っかかっていた。
学校での哉太は、いつもと変わらずに明るく過ごしていた。誠に対し「振られたよー」などと、あっさりと話している声も聞こえてきたくらいだ。
一晩で気持ちの整理ができたのか、それとも取り繕っているだけなのか、今の由美にはわからない。訓練の際に心を繋げてしまえば、嫌でもわかってしまう。相棒たる由美としては、できれば彼からの言葉として本音が聞きたいとも思っていた。
授業に実行委員の仕事に、その日は慌ただしく過ぎていった。
「由美、ちょっといい?」
そろそろ下校するかという時、不意に紗奈子が由美を呼んだ。教室の外から手招きをしている様子を見ると、男子二人には聞かせたくない話のようだ。鞄に荷物を押し込んでいる哉太と誠に「ちょっと待ってて」と告げ、席を立った。
「どうしたの?」
「あのね、私、文化祭の後、佐々木に告白する」
「ふぁっ!」
突然の宣言に、思わず変な声が出てしまった。今まで恋愛的な意味では、全く自ら行動しなかった紗奈子だ。急に自ら告白すると言い出すとは、由美としては思ってもみなかった。
「タイミング的に、霧崎君には悪いんだけどね。ほら、今いかないと来月、あれだから」
「ああー」
確かに、翌月である十二月の後半には大きなイベントが控えている。現在のこの国においては、恋人や大切な人と過ごすのが理想とされている日だ。男女関係には疎い由美でも、紗奈子の目論見は充分に理解できた。
「由美になにかしてほしいってわけじゃないんだけど、言っておかないと勇気が出なくて」
「うんうん。応援だけしてるね」
「ありがと」
余りにもわかりやすい両片想いを見守っている身からすれば、良い返事があることは明白だ。それでも緊張に体を強張らせている紗奈子は可愛らしかった。大好きな友人には幸せになってほしい。
微笑ましい気持ちのままで、四人揃って駅まで向かい、そこで二人ずつに分れる。楽しそうな紗奈子と誠を見ていれば、文化祭の実行委員に巻き込んだのも悪くないと思えた。
「あのさ」
「ん?」
ホームで電車を待っていると、哉太が視線だけを由美へ向けた。
「訓練で伝わる前に言っておこうかと」
「うん」
「まだ落ち込んでる」
「そっか」
あまり会話の得意でない由美は、基本的には相槌だけだ。余計なことを言ってしまわないように、相手の心を聞き逃さないように。
「でも、少しはすっきりしてるよ。それに、はっきり言ってくれるだけ考えてくれてたんだろうなって」
「そうだね」
結衣が哉太の気持ちを真剣に考えていたことは、由美も知っている。それが本人にも伝わっていたのは、きっと両方にとって救いになるのだろうと思えた。
「だから、俺は荒魂を叩く。徹底的にだ。裏で操っている奴も見つけだす」
「うん、それは私も」
「そいつを捕まえれば、荒魂って何なのかわかるかもしれない。そうすればいつか……」
由美は、相棒の意見に頷いた。結衣と哉太と自分、他にも多くの人々の人生を歪めてしまった荒魂は許さない。毎月の夜に現れるものを、その都度狩るだけでは足りないのだ。だから、これまでの常識から逸脱している哉太の意見に賛同し協力している。
すぐにではなくとも、この意志の流れが続くようになれば良いと思う。そうすれば、いつかはあの化け物が生み出す悲しみを消し去ることができるかもしれない。
「でも、前にも言ったけど、無茶しないでね。哉太が消えるのは困るから」
「そこは加減するよ」
「人を見捨てる覚悟もしないといけないかもしれないよ?」
哉太に伝えた言葉は、自分にも向けたものだった。前回のように目先の人命を優先した行動は、最終的な目的に悪影響を及ぼす。わかっていはいても自らを止められないこともあるだろう。その場合は、相棒同士で牽制し合えばいい。
「わかってる。場合によっては由美の要求を断るからな」
「うん。よろしくね」
互いの意志を確認し合った後は、言葉など不要だった。優子がいる場での訓練は通常通りにこなし、いない時には作戦を練るという日々が続く。
《調》と《伝》を併用して荒魂を操るという、哉太の考えだした力は、二人の間では《操》と呼称していた。訓練時には、由美に対して使ってみることで様々な試験を行った。自分の体が他者の意思で操られることは、非常に不気味な気分だった。これが哉太でなければ、由美は耐えられなかったことだろう。
この《操》が実際の荒魂に有効であるかどうかは、やってみなければわからない。本番任せというのは不安だが、由美と哉太で、可能な限りの準備は行った自負を持てていた。
学校では文化祭の準備が着々と進んでいった。紗奈子の活躍により外部入場者リストの作成も完了し、開催当日を待つばかりとなっていた。由美にとっては大変ながらも非常に楽しく、友人のありがたさを再確認する日々だった。
哉太が失恋をした日、酒に酔った結衣から言われたことが頭から離れたわけではない。片隅に追いやり、忙しさで上塗りをしていただけだ。ただ、目的を遂げるまでは、目を背けていたかった。
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