愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
86 / 86
エピローグ 夜明け

エピローグ「おはようございます、リュール様」

しおりを挟む
 リュールは眼前の人影を殴りつけた。拳を当てた頬は文字通り砕け、首があらぬ方向へと曲がった。それなりに良い体格をしていたそれは、木の葉のように宙を舞った。

「ふう」

 力を入れすぎたのか、かなりの距離を吹き飛んでいった。地面に全身を擦り付けながら停止するのを見届け、リュールは一息ついた。
 黒い鎧に黒い外套、その姿は闇に溶け込むようだった。唯一、緋色の巨大な鞘だけが、月明かりを反射していた。

 あの戦いから約半年が経った。
 彼らの作り出した魔獣は、数こそ減ったものの未だ人を襲い続けている。リュールはゼイラス騎士団の一員として、それらを狩る旅をしていた。
 人殺しの自分が、人を守る戦いをしているなど、何度考えても苦笑してしまう。ただ、そんなに悪い気はしなかった。

「終わったよ、ブレイダ」

 鞘に収まった大剣に向け声をかけるも、あの元気な返事を聞くことはない。リュールの愛剣は折れたままだった。
 それでもリュールは彼女が戻ってくると確信していた。その証拠に、自身は今でも人に在らざる力を持っている。主人が魔人ならば、愛用の武器は魔剣であるはずだ。

 互いの剣が折れた後は、泥仕合のような殴り合いだった。拳に潰された鼻も、蹴り砕かれた顎も瞬時に治る。体力も無尽蔵なのだから、ただ意地を張り合っているだけだった。
 ふた晩ほど経過した頃、どちらともなく背中を向けた。彼は吐き捨てるように「魔獣はもう作らねぇ、だが決着はつける」と告げ去っていった。

 魔獣は様々な生き物が材料になっている。共通点は、人への恨み。
 どこで何を魔獣化したのかは、ある程度把握できていた。レミルナに敗れたトモルからの情報だ。彼は彼で、真剣に人を恨んでいたらしい。その詳細を、リュールは聞かされていない。聞くつもりもなかった。
 そんな彼は今では立派な騎士団の協力者だ。マリムの口車に乗ったのか、レミルナが恐ろしいのか。リュール達の戦いを見て、何か感じたのかもしれない。そんなことを、レピアとソドと名乗った黒い片手剣が言っていた。

 ソドの主はレミルナとは傭兵団での知り合いだった。戦後の混乱で人を愛せなくなってしまい絶望し、ルヴィエの誘いに乗ったそうだ。
 マリムを愛するレミルナとは真っ向から対立し、戦うことになってしまう。ほぼ相討ちになったところで、辛うじて急所を外れたレミルナだけが生き残った。
 ソドは主人を失ったことで朽ちていくはずだった。しかし、レミルナはそれを許さなかった。ちらりと聞いたソドの言葉では「あいつの想いは白とか黒とかを無視する恐ろしさがある」だそうだ。

 騎士団は事の顛末を王に報告するため、王都に向かった。同行を拒否したリュールには、その代わりとして任務が与えられた。魔獣の生き残りを狩ることと、逃亡した黒い魔人の捜索だ。
 マリムの打算と配慮を思い出し、リュールは後頭部を掻きむしった。あいつは早くレミルナに応えてしまえばいいのだ。

 折れた大剣を持ち、顔に傷のある男はさすがに目立つ。立ち寄る先々ではいくつかの情報が手に入った。そのどれもが、魔獣を退治したというようなものだった。
 彼の意図は不明だが、リュールとしてはあまり悪い気分にはならない。ただし、犯罪者は犯罪者だ。捕まえて真実を話させる必要がある。

 リュールは空を見上げた。夜明けまでにはまだ時間があるため、少しだけ睡眠をとっておこう。今夜はそんなに冷えていないから、焚き火も必要ないだろう。
 木の根元に腰を下ろし、外套を身体に巻き付けた。お守り代わりの鞘を胸に抱き、リュールは目を閉じた。

 どれくらい眠っただろうか。日は随分と高くなっており、小鳥の鳴き声が聞こえる。

「朝か……」
「あ、おはようございます、リュール様」

 リュールの胸の中で、銀髪の少女が微笑んだ。


 【愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る】 完
しおりを挟む
感想 47

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(47件)

峯果テトラ
2022.06.20 峯果テトラ
ネタバレ含む
2022.06.20 日諸 畔(ひもろ ほとり)

最後までお付き合いありがとうございました!

始まりと終わりを繋げる演出が大好きで、自分でもやってみました。
目頭が熱くなったなんて、とっても光栄です。
これからも相棒として、騒がしくも穏やかな戦いの日々を過ごしていくことでしょう。

解除
水護風火・(投稿は暫し休んでます)

ブレイダちゃん!
リュール様、これで相棒で好みの美少女とこれからも共にいられますね!
 お疲れ様でした。m(_ _)m
 無事完結おめでとうございます!

2022.06.18 日諸 畔(ひもろ ほとり)

最後までお付き合いありがとうございました!

このコンビはこれからも冒険をしていきます!

解除
水護風火・(投稿は暫し休んでます)

ブレイダちゃん……健気……エピローグ楽しみにしてますー。

2022.06.17 日諸 畔(ひもろ ほとり)

リュール様の剣ですからね。
リュール様が全てなのです。

解除

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。