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第5章 魔剣と魔人
第80話『私はブレイダ、リュール様の剣』(第5章 魔人と魔剣 完)
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ルヴィエが持つ黒紫の大剣。魔剣を魔剣たらしめる力達は、そこから分離した。つまり彼女は、ブレイダにとって母、あるいは姉とも呼んでしまえるだろう。
その姉は、妹の優しい問いかけに激昂した。まるで、持ち主の心を代弁しているようだった。
『うるさい! 黙って死ね!』
リュールに向かう斬撃は、速く重い。剣筋を見切り受け止めてはいるものの、いつまでも防げる類の攻撃ではなかった。
右から左への横薙ぎ。タイミングを合わせ、剣の腹ですくうように払い上げた。そのままの動きで、ルヴィエの頭に向けて振り下ろす。手加減は不可能だ。そんな甘いことを考えるのならば、命がいくつあっても足りない。
「ふっ!」
「ぐぅっ!」
ルヴィエは素早く剣を構え、ブレイダを受けた。瞬時に重量を変化させる判断力は流石だ。
「なんでそんなに人を恨む?」
「うるせぇ、な!」
『それで、お名前は?』
『うるさい!』
言葉と同時に二色の刃が錯綜する。常人の目では捉えられない速度で放たれる剣撃。常人の腕で受け止めたら、骨ごと砕かれてしまうだろう。
「俺は、人を、滅ぼす!」
「だから、なんでだよ!?」
ルヴィエは頑として語ろうとしなかった。ここまで強く意志を持つ理由など、多くは想定できない。
大切な人や物を失ったか、自身が深く傷つけられたことくらいか。それとも、リュールには想像もできないような出来事があったのか。
「こんな世界など、いらない!」
跳躍し、足を払う黒紫の剣を躱した。
「あの時、死んでいればよかった!」
「誰がだよ!?」
着地を狙われないよう、ブレイダを地面に突き刺しタイミングをずらす。それを支えに、ルヴィエの顔に蹴りを放った。
「お前も、俺もだよ!」
リュールの足を額で受け止め、鋭い視線を向ける。あの時の傷がくっきりと見えた。
「あんな悲しさも、あんな惨めさも!」
「言えよ!」
『だーかーらー、お名前は?』
『しつこい!』
地面に刺さったままのブレイダをルヴィエの剣が叩く。崩れたバランスを利用し、距離を置いて着地した。少しでも話をする時間が欲しかった。
「何があったんだ?」
「死んだと思ってたんだ!」
「誰がだよ!?」
「お前だろうが!」
疾風のような突進を迎え撃つ。
ルヴィエの言葉は支離滅裂だ。だが、若干の情報は手に入った。結局のところ、全てはあの時が始まりだったのだろう。
傭兵団にいた皆は運命を狂わされた。ジルとゴウト、恐らくトモルもだろう。レミルナや彼女と戦った女も、例外ではないはずだ。
視界の端では、二振りの剣を持ったレミルナがトモルを組み伏せていた。命を奪う気はない様子に、リュールはふと安堵した。
あちらの決着はついた。後は自分とルヴィエだ。そして、ブレイダと名を知らぬ黒紫の大剣。
「それなのに、お前は!」
ルヴィエの剣から感情が溢れ出してくる。明確な言葉にならないほどに入り交じったそれは、リュールの心に突き刺さってくる。
怒り、焦り、悲しみ、そして嫉妬。処理しきれない心情は、ひとつに括られ殺意となっていた。
「俺はなんだよ!?」
「リュール! お前は、俺と同じになれよ!」
再びの連撃。周囲の木々があっさりと細切れになっていった。ブレイダで捌くのにも限界がある。魔剣の力を移した鎧も併用し、辛うじて凌ぎきる。
「惨めで、弱くて、独りで、情けなくなれよ! じゃなきゃ、死ね! 滅べ!」
『そうだ! ルヴィエ様に、謝れ!』
ここにきてようやく、リュールはルヴィエの言いたいことがわかってきた気がした。きっと、辛かったのだ。
家族を亡くし孤児となり、身を寄せた傭兵団も壊滅した。その傷付ききった心に、力が宿った。心を閉ざし独りを受け入れたリュールよりも、余程人間らしい。
「ああ、悪かったよ。だけどな、これはだめだ」
鍔迫り合いの体勢のまま、リュールは体当たりをかける。巨体を受け止めきれず、ルヴィエは軽く後退した。
「わかってるだろ? ルヴィエ」
「ああ、わかってるさ。後戻りはできねぇ」
こうなってしまった理由は、共感できる部分もある。しかし、だからといって、許されることではない。罪も無い人々を殺しすぎた。
「俺はお前を止めるよ。友達だからな」
「俺はお前を、振り切る!」
二人は同時に駆けた。互いに大剣を持ち上げ、全力で振り下ろす。それは一瞬だった。
魔人の放つ渾身の一撃が、ぶつかり合う。金属音と共に大気が揺れた。
『私はブレイダ、リュール様の剣。あなたは?』
『シーヤ、ルヴィエ様の力だ……』
白銀と黒紫。半ばから折れた二振りの大剣は、その色を失った。
第5章 魔人と魔剣 完
その姉は、妹の優しい問いかけに激昂した。まるで、持ち主の心を代弁しているようだった。
『うるさい! 黙って死ね!』
リュールに向かう斬撃は、速く重い。剣筋を見切り受け止めてはいるものの、いつまでも防げる類の攻撃ではなかった。
右から左への横薙ぎ。タイミングを合わせ、剣の腹ですくうように払い上げた。そのままの動きで、ルヴィエの頭に向けて振り下ろす。手加減は不可能だ。そんな甘いことを考えるのならば、命がいくつあっても足りない。
「ふっ!」
「ぐぅっ!」
ルヴィエは素早く剣を構え、ブレイダを受けた。瞬時に重量を変化させる判断力は流石だ。
「なんでそんなに人を恨む?」
「うるせぇ、な!」
『それで、お名前は?』
『うるさい!』
言葉と同時に二色の刃が錯綜する。常人の目では捉えられない速度で放たれる剣撃。常人の腕で受け止めたら、骨ごと砕かれてしまうだろう。
「俺は、人を、滅ぼす!」
「だから、なんでだよ!?」
ルヴィエは頑として語ろうとしなかった。ここまで強く意志を持つ理由など、多くは想定できない。
大切な人や物を失ったか、自身が深く傷つけられたことくらいか。それとも、リュールには想像もできないような出来事があったのか。
「こんな世界など、いらない!」
跳躍し、足を払う黒紫の剣を躱した。
「あの時、死んでいればよかった!」
「誰がだよ!?」
着地を狙われないよう、ブレイダを地面に突き刺しタイミングをずらす。それを支えに、ルヴィエの顔に蹴りを放った。
「お前も、俺もだよ!」
リュールの足を額で受け止め、鋭い視線を向ける。あの時の傷がくっきりと見えた。
「あんな悲しさも、あんな惨めさも!」
「言えよ!」
『だーかーらー、お名前は?』
『しつこい!』
地面に刺さったままのブレイダをルヴィエの剣が叩く。崩れたバランスを利用し、距離を置いて着地した。少しでも話をする時間が欲しかった。
「何があったんだ?」
「死んだと思ってたんだ!」
「誰がだよ!?」
「お前だろうが!」
疾風のような突進を迎え撃つ。
ルヴィエの言葉は支離滅裂だ。だが、若干の情報は手に入った。結局のところ、全てはあの時が始まりだったのだろう。
傭兵団にいた皆は運命を狂わされた。ジルとゴウト、恐らくトモルもだろう。レミルナや彼女と戦った女も、例外ではないはずだ。
視界の端では、二振りの剣を持ったレミルナがトモルを組み伏せていた。命を奪う気はない様子に、リュールはふと安堵した。
あちらの決着はついた。後は自分とルヴィエだ。そして、ブレイダと名を知らぬ黒紫の大剣。
「それなのに、お前は!」
ルヴィエの剣から感情が溢れ出してくる。明確な言葉にならないほどに入り交じったそれは、リュールの心に突き刺さってくる。
怒り、焦り、悲しみ、そして嫉妬。処理しきれない心情は、ひとつに括られ殺意となっていた。
「俺はなんだよ!?」
「リュール! お前は、俺と同じになれよ!」
再びの連撃。周囲の木々があっさりと細切れになっていった。ブレイダで捌くのにも限界がある。魔剣の力を移した鎧も併用し、辛うじて凌ぎきる。
「惨めで、弱くて、独りで、情けなくなれよ! じゃなきゃ、死ね! 滅べ!」
『そうだ! ルヴィエ様に、謝れ!』
ここにきてようやく、リュールはルヴィエの言いたいことがわかってきた気がした。きっと、辛かったのだ。
家族を亡くし孤児となり、身を寄せた傭兵団も壊滅した。その傷付ききった心に、力が宿った。心を閉ざし独りを受け入れたリュールよりも、余程人間らしい。
「ああ、悪かったよ。だけどな、これはだめだ」
鍔迫り合いの体勢のまま、リュールは体当たりをかける。巨体を受け止めきれず、ルヴィエは軽く後退した。
「わかってるだろ? ルヴィエ」
「ああ、わかってるさ。後戻りはできねぇ」
こうなってしまった理由は、共感できる部分もある。しかし、だからといって、許されることではない。罪も無い人々を殺しすぎた。
「俺はお前を止めるよ。友達だからな」
「俺はお前を、振り切る!」
二人は同時に駆けた。互いに大剣を持ち上げ、全力で振り下ろす。それは一瞬だった。
魔人の放つ渾身の一撃が、ぶつかり合う。金属音と共に大気が揺れた。
『私はブレイダ、リュール様の剣。あなたは?』
『シーヤ、ルヴィエ様の力だ……』
白銀と黒紫。半ばから折れた二振りの大剣は、その色を失った。
第5章 魔人と魔剣 完
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