愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第5章 魔剣と魔人

第77話『諦めないでください!』

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 リュールは自分の感情がわからなかった。ただ、このまま寝転がっているだけなのは耐えられない。
 どんな手段を使っても、立ち上がる。そして、手にした剣で思い出を穢した男を殺す。頭に浮かぶのはそれだけだった。

「ぐぅっ!」

 リュールの右腕を縫い付けられるように、黒紫の大剣が地面に突き立っている。激しい痛みを感じつつも、衝動が勝った。
 無理やりに腕を持ち上げる。鋭利な刃は、全く抵抗なく傷口を広げた。それでも、自分の剣は握ったまま離さない。

『リュールの様! 駄目です!』

 頭の中に女の声が響くが、そんなことはどうでもよかった。切断されなければ、腕の再生など容易い。

「おおお!」

 リュールは自身の腕を裂きながら立ち上がる。完全に握力を失った右手から左手へと、剣を持ち替えた。

「おうおう、それだよ、それ」

 男が何か言っている。意味はわからないが、ただひたすら不快だった。リュールは口の中で「黙れ」と呟いた。

『リュール様、そのままでは』
「黙れよぉ!」

 やかましい剣を振り上げ、男に向かい打ち下ろす。

「そう、それでいい」

 男は地面から引き抜いた剣で、いとも容易く防いでみせた。心から大切にしていたものを否定したのだから、許すわけにはいかない。
 必殺の意志を込めて、リュールは灰色に染まりつつある剣を振り続けた。全てが受け止められ、受け流され、躱される。

「くそっ! 死ね!」
『リュール様! リュール様!』

 耳障りな声は無視をする。今はとにかく、この男を殺さねばならない。リュールの意識は、ただ一点を見ていた。

「もうちょいだな」

 男が軽く剣を薙ぐ。避けることも防ぐことも考えつかなかった。リュールの胸を覆っていた鎧が、あっさりと切断された。
 分厚い胸板が横に真っ直ぐ切り裂かれ、鮮血が吹き出す。

「ぐぅ!」

 瞬間的に感じた痛みによろめくが、リュールにとっては重要なことではない。再び左腕に力を込めた。少しだけ白味を帯びた剣で、突きを放つ。狙うは左胸、心臓だ。

「よし、そろそろいかな」

 男は笑いながらリュールの剣を自分の剣で叩き払った。

『情けない男!』
『なっ、リュール様になんてことを!』

 女同士のやり取りが聞こえた気がする。しかし、そんなことはどうでもよかった。
 剣を手落としはしなかったものの、上手く力が入らない。痺れた左手は、柄を握るので精一杯だ。

「いい色だ。死んで生まれ変わってくれ。その時は、また仲間だよ。リュール」

 男が剣を振り上げる。殺すべき相手に殺される。全てを奪われる。憎しみと哀しみが溢れ出すようだった。

「じゃあな、親友」
『諦めないでください!』

 リュールは目を閉じる。ルヴィエに殺されるなら、それほど悪くないと思えた。
 しかし、黒紫の刃はリュールに届かなかった。その代わりに、金属のぶつかり合う音が森に響く。リュールは思わず目を開けた。

「おいおい、情けないな」

 背中を向けた男は、金髪をなびかせ涼し気に語る。黒紫の剣は、彼の持つ白銀の剣に受け止められていた。

「誰だ!」

 邪魔をされた形になったルヴィエが、声を荒らげる。

「これは失礼、名乗る暇がなかったものでね。私はゼイラス騎士団長、マリム・ゼイラスだ」

 マリムは名乗りながら、ルヴィエの剣を弾いた。そのまま動きを止めず斬り付ける。滑らかな体捌きは、まるで舞っているようだった。

「ちっ! トモル! リュールを殺れ!」

 マリムの斬撃を避けつつ、ルヴィエが叫んだ。
 
「おう!」
『リュール様、後ろ!』

 リュールが振り向いた時、既に槍は目前だった。避けようとしても間に合わない。

「何やってるのよ!」

 女の怒鳴り声と共に、リュールは横に吹き飛んだ。この衝撃は、たぶん蹴りだ。

「な、なんだ……」

 頭を上げたリュールの目に、女騎士の姿が映った。その右手には白銀の刺突剣、左手には黒紫の片手剣を、それぞれ携えていた。

「何よそのザマは、情けない」
『レミィ!』
「邪魔を、するな!」
「嫌」

 拒否の言葉を放ったレミルナは、左手の剣で槍を払った。
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