愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
81 / 86
第5章 魔剣と魔人

第77話『諦めないでください!』

しおりを挟む
 リュールは自分の感情がわからなかった。ただ、このまま寝転がっているだけなのは耐えられない。
 どんな手段を使っても、立ち上がる。そして、手にした剣で思い出を穢した男を殺す。頭に浮かぶのはそれだけだった。

「ぐぅっ!」

 リュールの右腕を縫い付けられるように、黒紫の大剣が地面に突き立っている。激しい痛みを感じつつも、衝動が勝った。
 無理やりに腕を持ち上げる。鋭利な刃は、全く抵抗なく傷口を広げた。それでも、自分の剣は握ったまま離さない。

『リュールの様! 駄目です!』

 頭の中に女の声が響くが、そんなことはどうでもよかった。切断されなければ、腕の再生など容易い。

「おおお!」

 リュールは自身の腕を裂きながら立ち上がる。完全に握力を失った右手から左手へと、剣を持ち替えた。

「おうおう、それだよ、それ」

 男が何か言っている。意味はわからないが、ただひたすら不快だった。リュールは口の中で「黙れ」と呟いた。

『リュール様、そのままでは』
「黙れよぉ!」

 やかましい剣を振り上げ、男に向かい打ち下ろす。

「そう、それでいい」

 男は地面から引き抜いた剣で、いとも容易く防いでみせた。心から大切にしていたものを否定したのだから、許すわけにはいかない。
 必殺の意志を込めて、リュールは灰色に染まりつつある剣を振り続けた。全てが受け止められ、受け流され、躱される。

「くそっ! 死ね!」
『リュール様! リュール様!』

 耳障りな声は無視をする。今はとにかく、この男を殺さねばならない。リュールの意識は、ただ一点を見ていた。

「もうちょいだな」

 男が軽く剣を薙ぐ。避けることも防ぐことも考えつかなかった。リュールの胸を覆っていた鎧が、あっさりと切断された。
 分厚い胸板が横に真っ直ぐ切り裂かれ、鮮血が吹き出す。

「ぐぅ!」

 瞬間的に感じた痛みによろめくが、リュールにとっては重要なことではない。再び左腕に力を込めた。少しだけ白味を帯びた剣で、突きを放つ。狙うは左胸、心臓だ。

「よし、そろそろいかな」

 男は笑いながらリュールの剣を自分の剣で叩き払った。

『情けない男!』
『なっ、リュール様になんてことを!』

 女同士のやり取りが聞こえた気がする。しかし、そんなことはどうでもよかった。
 剣を手落としはしなかったものの、上手く力が入らない。痺れた左手は、柄を握るので精一杯だ。

「いい色だ。死んで生まれ変わってくれ。その時は、また仲間だよ。リュール」

 男が剣を振り上げる。殺すべき相手に殺される。全てを奪われる。憎しみと哀しみが溢れ出すようだった。

「じゃあな、親友」
『諦めないでください!』

 リュールは目を閉じる。ルヴィエに殺されるなら、それほど悪くないと思えた。
 しかし、黒紫の刃はリュールに届かなかった。その代わりに、金属のぶつかり合う音が森に響く。リュールは思わず目を開けた。

「おいおい、情けないな」

 背中を向けた男は、金髪をなびかせ涼し気に語る。黒紫の剣は、彼の持つ白銀の剣に受け止められていた。

「誰だ!」

 邪魔をされた形になったルヴィエが、声を荒らげる。

「これは失礼、名乗る暇がなかったものでね。私はゼイラス騎士団長、マリム・ゼイラスだ」

 マリムは名乗りながら、ルヴィエの剣を弾いた。そのまま動きを止めず斬り付ける。滑らかな体捌きは、まるで舞っているようだった。

「ちっ! トモル! リュールを殺れ!」

 マリムの斬撃を避けつつ、ルヴィエが叫んだ。
 
「おう!」
『リュール様、後ろ!』

 リュールが振り向いた時、既に槍は目前だった。避けようとしても間に合わない。

「何やってるのよ!」

 女の怒鳴り声と共に、リュールは横に吹き飛んだ。この衝撃は、たぶん蹴りだ。

「な、なんだ……」

 頭を上げたリュールの目に、女騎士の姿が映った。その右手には白銀の刺突剣、左手には黒紫の片手剣を、それぞれ携えていた。

「何よそのザマは、情けない」
『レミィ!』
「邪魔を、するな!」
「嫌」

 拒否の言葉を放ったレミルナは、左手の剣で槍を払った。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...