愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
80 / 86
第5章 魔剣と魔人

第76話『話を聞きなさい!』

しおりを挟む
 ルヴィエの攻撃を防ぐ度に、剣の意思がリュールの頭に流れ込んでくる。ブレイダを経由していても、その攻撃的な衝動は隠しきれない。

『ルヴィエ様のために、お前は邪魔!』
『リュール様の話を聞きなさい!』

 白と黒の剣同士がぶつかり合う。その間、それぞれの使い手は言葉を発する余裕を持たなかった。ルヴィエは口元に笑みを浮かべたまま、剣を振り続ける。
 様々な方向から襲いかかる刃。リュールは辛うじて受け止め、受け流していた。トモルにつけられた傷がリュールを受けに回らせている。完治など待ってはもらえない。
 一度でも失敗すれば、その場で無力化されてしまうだろう。焦りを感じながらも、リュールは反撃の機会を窺っていた。

「もう限界かぁ?」

 勝ちを予感したのか、ルヴィエが口を開く。攻撃の手も心なしか緩んだような気がした。横目で見たトモルは、未だ膝をついている。

「でも、よそ見は良くねぇな!」

 再び強烈な打ち込みが迫る。負けないためには、目の前に集中せざるを得ない状況だ。

「トモルみたいに、簡単に殺すつもりは、ないからな!」

 ルヴィエの一言一言に黒紫の刃が乗せられる。威力や速度は多少落ちているようだが、攻勢に回ることはできない。リュールと会話をするために、絶妙な手加減をしているのだろう。

「お前には言いたいことが、たくさんあるからな!」
「なんのことだ」

 聞き返す程度の余裕も与えられる。そのやり口に、リュールは若干の怒りを覚えた。

「今まで、嘘をついていた」
「くっ!」
「俺は、お前を、友達なんて、思ったことはない!」
「な……」

 思いもよらぬ言葉に、一瞬だけ緊張を途切れさせてしまった。ブレイダごと腕が弾かれる。なんとか手放しはしなかったものの、隙だらけの姿を晒している。
 リュールは自身が斬られることを覚悟した。

「ばーか、斬ってもらえると思うなよ」

 嘲笑と共に、前蹴りがリュールに突き刺さった。腹部を覆っていた鎧に亀裂が入る。

『リュール様!』

 咄嗟の機転だった。砕け散る直前、鎧は白銀に輝き主人を守った。ただし、その衝撃までは殺せない。リュールは吹き飛び、地面に背を擦り付けた。

「ぐっ……」
「よーし、いい子だ」

 リュールを見下ろすルヴィエは、無造作に腕を振り下ろした。

「ぐあっ……」

 黒紫の剣は、ブレイダを握る右腕を貫いた。そのまま地面に深く突き刺さり、リュールを固定する。

「さて、落ち着いたところで、話の続きだ」
「殺さないと……後悔するぞ……」
「うるせぇよ」

 口先での抵抗が精一杯だった。ルヴィエはリュールの顎を蹴り飛ばす。口の中に血の味が広がった。

「そうそう、話の続きだよ」
「く……」
「これまで友達面しててごめんな。俺な、昔からお前のこと嫌いだったんだよ。お前が有難がるこの傷も、不愉快にしか思えねぇ」

 ルヴィエは前髪の下を爪で引っ掻いた。血がにじむも、すぐに塞がる。しかし、その大きな傷痕は消えなかった。

「戦場でバレないように殺してやる方法をいつも考えていたよ。結局、叶わなかったけどな」
「ル……ルヴィエ……」
「あの時、皆と一緒に死んだと思って清々したよ」

 あの時とは、傭兵団が壊滅した時のことだ。逃げ延びた後、いくら探しても親友の姿は見つからなかった。だから、リュールもルヴィエは死んだものだと思っていた。

「それがよ、なんだよ、生き残りやがって!」

 唐突に口調が荒くなる。その勢いのまま、リュールの顔が踏みつけられる。鼻の骨が折れ曲がった感触。

「しかも、伝説の傭兵だぁ? 俺の後ろをうろちょろしてたザコがよぉ!」
『リュール様!』
「あの時も、騙されてるとは知らず、ずっと切株に座って待ってたんだろ? 笑えるぜ!」

 地団駄を踏むように、ルヴィエは何度も顔を踏みつけた。まるで、リュールの思い出も踏みにじっているようだった。
 怪我そのものは大したことはない。魔剣によるものでないため、骨が折れた程度ならすぐに治癒していく。

「言いたいことは、それだけか?」
「お、やっとその気になったか? 親友のリュールよぉ」
「もういい、お前は、殺す」

 リュールはブレイダを強く握った。

『リュ、リュール様?』

 驚くブレイダの刃は、白銀の煌めきを失っていた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

処理中です...