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第5章 魔剣と魔人
第75話『お任せください!』
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決して忘れていたわけではない。いつ仕掛けてくるか気にはしていた。しかし、そちらに注意を向ければ、ルヴィエに斬り殺されていただろう。
「まさか、二人かがりとはな」
「そりゃな、俺らの邪魔されるのは避けたいからな」
「邪魔だと?」
「そうさ、俺は人間を滅ぼす」
黒紫の武器から受けた傷は治りが遅い。リュールは膝を地面につけてしまいそうになるのを、なんとか耐えていた。
魔人として差がなくなった今、二対一では分が悪い。このまま体力を削り取られるか、それとも死か。
「それとな、一応従ってはいるが、俺はルヴィエほどお前を仲間にしたいとは思っていない」
「そうか」
「傷が塞がる前に死んでもらう。いいな? ルヴィエ!」
時間稼ぎの会話は終わりということだ。穂先をこちらに向けたまま、トモルはルヴィエに了解をとる。親友は、黙ったまま軽く頷いた。もう友と呼ぶのは諦めていたはずが、リュールの胸がちくりと傷んだ。
『リュール様、囮になります』
「いや、そういう問題じやない」
ブレイダを人の姿にしたところで、トモルの槍は止まらないだろう。一瞬だけ死が先送りされるだけだ。
「じゃあな、リュール」
鋭い突きが迫る。その向こうでは、ルヴィエも大剣を構えているのが見えた。二人の魔人による二段構えの攻撃。負傷した状態で避けるのは至難の業だ。
『そうか! リュール様!』
ブレイダの声が頭に響く。それだけで、リュールは彼女の意図を理解できた。
意識を集中すると、周囲の時間が遅くなったように感じる。リュールは倒れ込むようにして、体をトモルへと向けた。
「死ぬ気か!」
トモルの声がゆっくりと聞こえる。冷たく見据えるルヴィエの視線もはっきり感じられる。リュールは、自らの思考が加速しているのを自覚していた。
前に出たのは、死に向かうためではない。槍が狙う範囲を少しでも狭めるためだ。
「なら、死ね!」
ブレイダを魔剣たらしめているそれは、分散することかできる。レピアの力が騎士団の剣へと部分的に宿っていたのも、その現象の応用だろう。
ならば、ブレイダにできない道理がない。そして、宿る相手は必ずしも剣とは限らない。
リュールは心の中でブレイダの名を叫んだ。
『お任せください!』
黒紫の槍は、リュールの左胸を的確に捉えていた。寸分の狂いもない狙いは、まさに神業だ。その技量にリュールは賭けていた。
「なっ……」
トモルの童顔が驚愕に歪む。必殺の意志を込めた一突きは、白銀の鎧によって防がれていた。
『どうだ、槍おじさん!』
ブレイダが自慢げに叫ぶ頃には、胸当ては元の黒い金属に戻っていた。リュールはその一瞬が欲しかった。
「ふっ!」
最軽量にしたブレイダを、振り下ろす。今は破壊力よりも速さを重視する時だ。リュールの手元に、肉を斬り裂く手応えが伝わった。
「くそっ……」
トモルは左肩から右脇腹にかけて、自身の血に染まっている。傷の深さを考慮すれば、とりあえずは動きが制限できるはずだ。
だが、リュールに一息着く時間が与えられることはない。
「リュール!」
「ルヴィエ!」
よろけたトモルを飛び越えるようにして、ルヴィエが飛びかかってくる。速度が乗った重い一撃を、真っ向からブレイダで受け止めた。腕が痺れ、全身が軋んだ。
槍から受けた傷は、未だ完全には塞がっていない。
防戦一方では、鎧に力を与えて受け止める余裕すらない。苛烈な攻撃を受け止めながら、リュールは次第に追い詰められていった。
「まさか、二人かがりとはな」
「そりゃな、俺らの邪魔されるのは避けたいからな」
「邪魔だと?」
「そうさ、俺は人間を滅ぼす」
黒紫の武器から受けた傷は治りが遅い。リュールは膝を地面につけてしまいそうになるのを、なんとか耐えていた。
魔人として差がなくなった今、二対一では分が悪い。このまま体力を削り取られるか、それとも死か。
「それとな、一応従ってはいるが、俺はルヴィエほどお前を仲間にしたいとは思っていない」
「そうか」
「傷が塞がる前に死んでもらう。いいな? ルヴィエ!」
時間稼ぎの会話は終わりということだ。穂先をこちらに向けたまま、トモルはルヴィエに了解をとる。親友は、黙ったまま軽く頷いた。もう友と呼ぶのは諦めていたはずが、リュールの胸がちくりと傷んだ。
『リュール様、囮になります』
「いや、そういう問題じやない」
ブレイダを人の姿にしたところで、トモルの槍は止まらないだろう。一瞬だけ死が先送りされるだけだ。
「じゃあな、リュール」
鋭い突きが迫る。その向こうでは、ルヴィエも大剣を構えているのが見えた。二人の魔人による二段構えの攻撃。負傷した状態で避けるのは至難の業だ。
『そうか! リュール様!』
ブレイダの声が頭に響く。それだけで、リュールは彼女の意図を理解できた。
意識を集中すると、周囲の時間が遅くなったように感じる。リュールは倒れ込むようにして、体をトモルへと向けた。
「死ぬ気か!」
トモルの声がゆっくりと聞こえる。冷たく見据えるルヴィエの視線もはっきり感じられる。リュールは、自らの思考が加速しているのを自覚していた。
前に出たのは、死に向かうためではない。槍が狙う範囲を少しでも狭めるためだ。
「なら、死ね!」
ブレイダを魔剣たらしめているそれは、分散することかできる。レピアの力が騎士団の剣へと部分的に宿っていたのも、その現象の応用だろう。
ならば、ブレイダにできない道理がない。そして、宿る相手は必ずしも剣とは限らない。
リュールは心の中でブレイダの名を叫んだ。
『お任せください!』
黒紫の槍は、リュールの左胸を的確に捉えていた。寸分の狂いもない狙いは、まさに神業だ。その技量にリュールは賭けていた。
「なっ……」
トモルの童顔が驚愕に歪む。必殺の意志を込めた一突きは、白銀の鎧によって防がれていた。
『どうだ、槍おじさん!』
ブレイダが自慢げに叫ぶ頃には、胸当ては元の黒い金属に戻っていた。リュールはその一瞬が欲しかった。
「ふっ!」
最軽量にしたブレイダを、振り下ろす。今は破壊力よりも速さを重視する時だ。リュールの手元に、肉を斬り裂く手応えが伝わった。
「くそっ……」
トモルは左肩から右脇腹にかけて、自身の血に染まっている。傷の深さを考慮すれば、とりあえずは動きが制限できるはずだ。
だが、リュールに一息着く時間が与えられることはない。
「リュール!」
「ルヴィエ!」
よろけたトモルを飛び越えるようにして、ルヴィエが飛びかかってくる。速度が乗った重い一撃を、真っ向からブレイダで受け止めた。腕が痺れ、全身が軋んだ。
槍から受けた傷は、未だ完全には塞がっていない。
防戦一方では、鎧に力を与えて受け止める余裕すらない。苛烈な攻撃を受け止めながら、リュールは次第に追い詰められていった。
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