愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
77 / 86
第5章 魔剣と魔人

第73話『今の自分、なかなか好きなんです』

しおりを挟む
 移動し始めてから、ほぼ一日。黒紫の剣と槍の反応は、かなり近付いていた。彼らもそれが認識できているはずだが、動く様子はない。つまり、もう逃げる必要はなくなったということだ。
 周囲の景色は、しばらく続いた平野から森に変わりつつある。リュールには、ルヴィエがそれに出会った場所だという確信があった。

『お疲れではないですか?』
「ああ、全くな」
『さすが、魔人ですね』
「そうだな」

 愛用の剣は、その呼び方が随分と気に入った様子だった。リュール自身も悪い気はしない。

『もうすぐですね』
「ああ」

 既に引き返せる状況ではないが、それでも逃げ出すことくらいはできる。ブレイダは主人に向かい、最後の決断を促してるようだった。

「白と黒の違いな、なんとなくわかったよ」
『はい』
「主人の想いに沿うってやつだと思う。恨みとか憎しみみたいなのが強ければ黒になるんだろうな」

 森でそれと出会ったルヴィエは大怪我をしていたらしい。きっと酷い目にあったのだろう。
 ジルはあの性格で、ゴウトは孤児院の件があった。トモルやレミルナと戦った女も、それ相応の何かがあったと想像できる。

『では、白は?』
「黒の逆さ。レミルナなんかはどう見てもマリムのおかげだな」
『ですね……』

 ブレイダは言葉を濁す。彼女が本当に聞きたいのは別のことだ。いくら心の機微に鈍いリュールでも、それくらいのことはわかる。

「俺はな、独りになってから、自分にも他人にも興味がなかったんだと思う。だからお前は結果的に白くなった。それだけだと思う」

 それが剣に宿ったであろう時、リュールは強い衝動を持っていなかった。少なくともそんな自覚はない。とりあえず食い扶持を稼ぐために用心棒をしていただけだ。
 ブレイダは返事をしなかった。困らせてしまっただろうか。

「でも、今は少し変わったと思う。あの頃みたいにとは言えないけどな」

 森は深くなり、剣と槍の反応は目前だ。それでもリュールは足を止めなかった。ブレイダならば言外にでもその意味を理解してくれるはずだ。

「魔獣と戦うようになってから、人の生活を改めて見るようになったよ。騎士団の連中とも関わるようになった」
『はい』

 相づちだけは打ってくれる。律儀な剣だ。

「俺は人を守りたいと思った」
『ならば、あの人たちを殺りますか?』
「いや、前に話した通りだ。殺すつもりはない。力ずくで止める。ゴウトと同じようにしたくはない」
『わかりました』

 いつかの天幕で話したことを思い出す。あの時よりも、リュールの思いは強かった。
 スクアの髪色の変化も、リュールに希望を与えていた。白にはならずとも、少しは黒が薄まるのではないか。

『正直なことを言いますと、私は白とか黒とかどうだっていいんですよ』
「ほう」
『リュール様はリュール様ですし、そもそも私は人殺しの道具ですからね。白くても黒くても、どっちでもいいんです』
「まぁな」

 これまでのブレイダがしてきた言動から考えれば、その通りだと思う。剣は人が使うものであり、自ら善し悪しを判断しない。

『でも、リュール様がそうおっしゃるなら、私は白く在ります。今の自分、なかなか好きなんです。黒髪では赤い髪紐が似合いません』
「そうか。それが本音だな、魔剣よ」
『ふふ、バレてしまいました。私はもうただの剣ではありませんので』

 物にも意思が宿るとはこういうことなのかもしれない。相棒は自分よりも人間的だと、リュールは改めて思った。

『例えばリュール様が何かの拍子に黒い気持ちになっても、白く戻しますね。たぶん今のお心が本物だと思いますから』
「ああ、その時は頼むな」
『はいっ!』

 ブレイダの返事を合図にするように、リュールは足を止めた。ブレイダを鞘から取り出す。白銀の刃が、木漏れ日を反射して輝いた。

「よう、よく来たな」

 眼前にそびえ立つ大木の下、親友が口元を歪めている。彼の持つ黒い大剣は、木漏れ日を吸い込むように暗かった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...