愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第5章 魔剣と魔人

第72話「求めていたものだと?」

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 墓とすら呼べないような、小さな土の山。その下にあるであろう亡骸は、恐らく原型など留めていない。それでも、スクアは目を逸らすことをしなかった。

「仇に語ってやるのは気が進まんがな、ゴウトの願いに繋がるから、仕方なく話してやる」
「ああ、頼む」

 自ら手は下さなくとも、ゴウトが命を落とした要因は自分にある。リュールは断言できるほどに自覚していた。だから、ブレイダも黙っていた。

「ずっと昔からな、単体では存在できないものがあった。それは何かに宿り力を与えることによって、消えずに永らえてきた」
「それが、あんたらと、こいつか」

 リュールはちらりとブレイダに目をやった。スクアが小さく頷く。

「これまでも武器を人にしてきたのか?」
「いや、そうではない。長い間、一本の木に宿ってきた。それの力を得た木は、森で一番の大木になったよ」
「なら、なぜ」
「ルヴィエの小僧だよ。偶然なのか必然なのか、大怪我をして森に迷い込んで来おった」

 どうやら、全ての起点がルヴィエにあるようだ。暑くもないのに、リュールの額には汗がにじんでいた。

「やつの意思が、それに意志を与えた」
「意思だと」
「ああ、初めて出会った人というものに、それは染まってしまったのだよ」

 リュールはスクアの語り口に違和感を覚えていた。彼女の言うそれとは、ブレイダやスクア達自身のことだ。だが、あまりにも他人事すぎる。

「なぁ、あんたは、それじゃないのか? まるで他人事だ」
「いい所に気が付いたな。ゴウトが引き入れたがったわけだ」

 リュールの質問に、スクアはここに来て初めて表情らしいものを浮かべた。亡き主人の面影を見ていたのかもしれない。

「元々ひとつだったそれは、ルヴィエの小僧に会って、人を滅ぼすという意志を得た。あやつがそう思っていた理由まではわからんがな」
「そうか……」
「それは小僧の持つ剣に宿った。手に馴染んだ武器というのは、使い手の心根が伝わっていてな、僅かながらにも意思のようなものも存在していたんだよ。だから、そやつが最も求める姿に変化した。少しでも喜ばせたくてな」

 スクアの言葉を聞いたブレイダが、素早くリュールを見上げた。朱色の瞳が爛々と輝いているようだった。

「つまり私の見た目は、リュール様が求めていたものだと?」
「そういうことだな、小娘」
「それは大変こうえ……へぶ」

 リュールはブレイダの顔を掌で押さえた。余計なことで話の腰を折らないでもらいたい。それと、続けて喋られては照れくさくてかなわない。

「ルヴィエの小僧は、人を憎むと同時に傭兵団とやらの仲間のことを案じていた。それは主人の気持ちに応えるために、複数に分裂した。そして、愛用していたそれぞれの武器に宿った。手にした主人の心に染まるのだから、もはや別の個体だよ」
「それで、ゴウトはあんたを子供の姿に」
「だろうな。奴なりの未練と覚悟だよ。苦しくとも、怒りと恨みは忘れないようにとな。で、意固地になった結果がこれだよ。馬鹿め」

 盛り上がった土を踏み付けるスクアは、何を思うのか。

「ゴウト……」
「儂の説明はここまでだ」

 気分を切り替えるように、スクアは大きめの声を出した。感傷に浸りつつあったリュールは、その気遣いがありがたいと思った。
 彼女の言う通りなのであれば、傭兵団の生き残りが魔剣を持っていることに説明がつく。リュールは納得しつつも、いくつかの疑問が浮かんできた。

「なぁ」
「はい、なんでしょうリュール様」
「お前は、なぜこれを知らないんだ?」
「わかりません!」

 ブレイダは元気よく答えた。リュールは久しぶりに思えるやりとりに、ため息をついた。そして、助けを求めるようにスクアの方へと視線を向けた。

「小娘が知らない理由は儂にもわからん。それに、その白い刃についてもな」
「え、でもレピア姉さんも白いですよ」
「知らぬ。儂らの刃は黒いものとばかり思っておったからな」

 リュールとしてもジルの短剣を見るまでは、人になる剣の刃は白いものだと思っていた。それはマリムやレミルナ、レピア自身もそうだろう。
 恐らく白い刃の魔剣は、スクアが語ることを知らない。そうでなければ、騎士団は別の動きをしていたはずだ。

「儂が教えてやれるのはここまでだ。目障りだから早く消えろ」

 足元から目線を変えず、スクアは追い払うように手を振った。拒絶の意志を示す仕草は、心からの拒絶とは思えなかった。

「ルヴィエを止めたらまた来るよ」
「また今度、斧のおばあちゃん」
「二度と来なくていいぞ」

 リュールとブレイダは意図的に軽口を告げ、恩人の墓に背を向ける。

「さて、急ぐぞブレイダ」
『はいっ!』

 向かう先は決まっている。鞘に収めたままのブレイダを肩に担ぎ、リュールは走った。
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