73 / 86
第5章 魔剣と魔人
第69話「スカしは何をやっていたんですか……」
しおりを挟む
レミルナが目を覚ました翌朝、といっても昼近くの時間だ。マリムの指示により、騎士団の小隊長以上が招集された。
戦時中は中隊まで組織されていたらしいが、今となってはそこまでの人数が残っていない。現在のゼイラム騎士団は、十数人規模の小隊が五隊とふたつの独立小隊で構成されている。
独立小隊とは、人になる剣を持った者達のことだ。元々は特別な存在になってしまったレミルナのための立場として設立されたそうだ。彼女がこの手の場にても不自然にならないようにという、マリムの配慮だった。
結果としてリュールとブレイダも、それに準じた扱いをされるようになっていた。
軍議室となっている広間には、十人の男女が並べられた椅子に腰を下ろしている。
マリム、五人の小隊長、レミルナとレピア、そしてリュールとブレイダ。皆、顔を見知った相手達だ。
「集まってくれてありがとう。レミィが目を覚ましてくれてね。本当によかった」
マリムの言葉は嘘偽りがない本心のようだった。寝間着から騎士の制服に着替えたレミルナは、素早く立ち上がる。
「ご心配、ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだよ」
生真面目に応えるレミルナに向かい、マリムが労う。他の隊長達も、気安い言葉で彼女の快復を喜んでいた。命を預け合った戦友達の姿は、リュールに眩しく映った。
「さて本題だ」
その一言で、和やかだった空気が一瞬にして引き締まる。まさに、歴戦の勇士だ。
「昨晩レミィから話が聞けてね、先日のリュールからの報告と併せて、ようやく全体が把握できてきたよ」
リュールは無表情を崩さないことに必死だった。少しでも油断すれば、苦笑いが出てしまいそうだ。横に座るブレイダは、露骨にそんな顔をしていた。リュールにしか聞こえないような声で「スカしは何をやっていたんですか……」と呟いているのが聞こえてきた。
気を利かせて二人にしたつもりが、状況報告をさせていたとは。職務と信念に従うのもいいが、それも時と場合があるような気がしてしまう。
根が傭兵であるリュールは、その辺りの使命感というものが薄い。良くも悪くも、戦いの中では感情や感覚を優先する傾向にある。
「魔獣を作り出すと言う黒い武器、あれは人の死骸にも有効みたいだ。そして、すぐ近くには大量の材料が眠っている」
リュールは騎士団と合流後、ゴウトから得た情報をマリムへと報告していた。恋愛面はともかく、人格と能力は信頼に値する。リュールは彼をそう評価していた。妙なあだ名で呼んでいるブレイダも、その点で反対意見を唱えることはなかった。
「つまり、このまま魔獣を駆除するだけでは終わらないということだね。いずれ、すり潰されてしまう。前回はレミィと戦った相手が魔獣の製作と指揮をしていたようだ。そうだね? レミィ」
「はい、そう言っていましたし、剣を合わせた時にそう感じました」
マリムはいつものように、口元だけの笑みを浮かべた。恐らく夜のうちに全て聞いたからだろう、敢えて余計な情報は出さないようにしていることがわかった。
あの夜、レミルナと戦っていた女は、傭兵団の生き残りだ。言葉を交わしたことはなかったが、記憶を辿れば見覚えがある。
人になる武器を所持している者の共通点。今はもう疑う余地がない。
「レミィの復帰に伴い、我々は攻勢に転ずることとした。黒い武器を持つ者を追い、拘束する。生死は問わない」
はっきりとした言葉を放つマリムの瞳には、全く迷いがない。やるべきだと判断した意志が宿っているようだった。
「全小隊は準備にかかれ。レミィとの連携も含め、三日で仕上げろ。街の防衛は交代で実施。レミィは例の件も並行してくれ」
各隊長とレミルナ達は立ち上がり、団長に頭を下げた。
「リュールには先行して斥候をしてもらうよ。奴らの居場所がわかるのは君だけだからね。レピアとの位置共有も忘れずに」
「ああ、了解した」
「先に倒してしまっても構わないよ」
「……わかった」
元仲間を説得する猶予は三日。マリムは言外にそう告げていた。
戦時中は中隊まで組織されていたらしいが、今となってはそこまでの人数が残っていない。現在のゼイラム騎士団は、十数人規模の小隊が五隊とふたつの独立小隊で構成されている。
独立小隊とは、人になる剣を持った者達のことだ。元々は特別な存在になってしまったレミルナのための立場として設立されたそうだ。彼女がこの手の場にても不自然にならないようにという、マリムの配慮だった。
結果としてリュールとブレイダも、それに準じた扱いをされるようになっていた。
軍議室となっている広間には、十人の男女が並べられた椅子に腰を下ろしている。
マリム、五人の小隊長、レミルナとレピア、そしてリュールとブレイダ。皆、顔を見知った相手達だ。
「集まってくれてありがとう。レミィが目を覚ましてくれてね。本当によかった」
マリムの言葉は嘘偽りがない本心のようだった。寝間着から騎士の制服に着替えたレミルナは、素早く立ち上がる。
「ご心配、ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだよ」
生真面目に応えるレミルナに向かい、マリムが労う。他の隊長達も、気安い言葉で彼女の快復を喜んでいた。命を預け合った戦友達の姿は、リュールに眩しく映った。
「さて本題だ」
その一言で、和やかだった空気が一瞬にして引き締まる。まさに、歴戦の勇士だ。
「昨晩レミィから話が聞けてね、先日のリュールからの報告と併せて、ようやく全体が把握できてきたよ」
リュールは無表情を崩さないことに必死だった。少しでも油断すれば、苦笑いが出てしまいそうだ。横に座るブレイダは、露骨にそんな顔をしていた。リュールにしか聞こえないような声で「スカしは何をやっていたんですか……」と呟いているのが聞こえてきた。
気を利かせて二人にしたつもりが、状況報告をさせていたとは。職務と信念に従うのもいいが、それも時と場合があるような気がしてしまう。
根が傭兵であるリュールは、その辺りの使命感というものが薄い。良くも悪くも、戦いの中では感情や感覚を優先する傾向にある。
「魔獣を作り出すと言う黒い武器、あれは人の死骸にも有効みたいだ。そして、すぐ近くには大量の材料が眠っている」
リュールは騎士団と合流後、ゴウトから得た情報をマリムへと報告していた。恋愛面はともかく、人格と能力は信頼に値する。リュールは彼をそう評価していた。妙なあだ名で呼んでいるブレイダも、その点で反対意見を唱えることはなかった。
「つまり、このまま魔獣を駆除するだけでは終わらないということだね。いずれ、すり潰されてしまう。前回はレミィと戦った相手が魔獣の製作と指揮をしていたようだ。そうだね? レミィ」
「はい、そう言っていましたし、剣を合わせた時にそう感じました」
マリムはいつものように、口元だけの笑みを浮かべた。恐らく夜のうちに全て聞いたからだろう、敢えて余計な情報は出さないようにしていることがわかった。
あの夜、レミルナと戦っていた女は、傭兵団の生き残りだ。言葉を交わしたことはなかったが、記憶を辿れば見覚えがある。
人になる武器を所持している者の共通点。今はもう疑う余地がない。
「レミィの復帰に伴い、我々は攻勢に転ずることとした。黒い武器を持つ者を追い、拘束する。生死は問わない」
はっきりとした言葉を放つマリムの瞳には、全く迷いがない。やるべきだと判断した意志が宿っているようだった。
「全小隊は準備にかかれ。レミィとの連携も含め、三日で仕上げろ。街の防衛は交代で実施。レミィは例の件も並行してくれ」
各隊長とレミルナ達は立ち上がり、団長に頭を下げた。
「リュールには先行して斥候をしてもらうよ。奴らの居場所がわかるのは君だけだからね。レピアとの位置共有も忘れずに」
「ああ、了解した」
「先に倒してしまっても構わないよ」
「……わかった」
元仲間を説得する猶予は三日。マリムは言外にそう告げていた。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

火駆闘戯 第一部
高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。
それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。
人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。
焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。
タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる