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第5章 魔剣と魔人
第69話「スカしは何をやっていたんですか……」
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レミルナが目を覚ました翌朝、といっても昼近くの時間だ。マリムの指示により、騎士団の小隊長以上が招集された。
戦時中は中隊まで組織されていたらしいが、今となってはそこまでの人数が残っていない。現在のゼイラム騎士団は、十数人規模の小隊が五隊とふたつの独立小隊で構成されている。
独立小隊とは、人になる剣を持った者達のことだ。元々は特別な存在になってしまったレミルナのための立場として設立されたそうだ。彼女がこの手の場にても不自然にならないようにという、マリムの配慮だった。
結果としてリュールとブレイダも、それに準じた扱いをされるようになっていた。
軍議室となっている広間には、十人の男女が並べられた椅子に腰を下ろしている。
マリム、五人の小隊長、レミルナとレピア、そしてリュールとブレイダ。皆、顔を見知った相手達だ。
「集まってくれてありがとう。レミィが目を覚ましてくれてね。本当によかった」
マリムの言葉は嘘偽りがない本心のようだった。寝間着から騎士の制服に着替えたレミルナは、素早く立ち上がる。
「ご心配、ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだよ」
生真面目に応えるレミルナに向かい、マリムが労う。他の隊長達も、気安い言葉で彼女の快復を喜んでいた。命を預け合った戦友達の姿は、リュールに眩しく映った。
「さて本題だ」
その一言で、和やかだった空気が一瞬にして引き締まる。まさに、歴戦の勇士だ。
「昨晩レミィから話が聞けてね、先日のリュールからの報告と併せて、ようやく全体が把握できてきたよ」
リュールは無表情を崩さないことに必死だった。少しでも油断すれば、苦笑いが出てしまいそうだ。横に座るブレイダは、露骨にそんな顔をしていた。リュールにしか聞こえないような声で「スカしは何をやっていたんですか……」と呟いているのが聞こえてきた。
気を利かせて二人にしたつもりが、状況報告をさせていたとは。職務と信念に従うのもいいが、それも時と場合があるような気がしてしまう。
根が傭兵であるリュールは、その辺りの使命感というものが薄い。良くも悪くも、戦いの中では感情や感覚を優先する傾向にある。
「魔獣を作り出すと言う黒い武器、あれは人の死骸にも有効みたいだ。そして、すぐ近くには大量の材料が眠っている」
リュールは騎士団と合流後、ゴウトから得た情報をマリムへと報告していた。恋愛面はともかく、人格と能力は信頼に値する。リュールは彼をそう評価していた。妙なあだ名で呼んでいるブレイダも、その点で反対意見を唱えることはなかった。
「つまり、このまま魔獣を駆除するだけでは終わらないということだね。いずれ、すり潰されてしまう。前回はレミィと戦った相手が魔獣の製作と指揮をしていたようだ。そうだね? レミィ」
「はい、そう言っていましたし、剣を合わせた時にそう感じました」
マリムはいつものように、口元だけの笑みを浮かべた。恐らく夜のうちに全て聞いたからだろう、敢えて余計な情報は出さないようにしていることがわかった。
あの夜、レミルナと戦っていた女は、傭兵団の生き残りだ。言葉を交わしたことはなかったが、記憶を辿れば見覚えがある。
人になる武器を所持している者の共通点。今はもう疑う余地がない。
「レミィの復帰に伴い、我々は攻勢に転ずることとした。黒い武器を持つ者を追い、拘束する。生死は問わない」
はっきりとした言葉を放つマリムの瞳には、全く迷いがない。やるべきだと判断した意志が宿っているようだった。
「全小隊は準備にかかれ。レミィとの連携も含め、三日で仕上げろ。街の防衛は交代で実施。レミィは例の件も並行してくれ」
各隊長とレミルナ達は立ち上がり、団長に頭を下げた。
「リュールには先行して斥候をしてもらうよ。奴らの居場所がわかるのは君だけだからね。レピアとの位置共有も忘れずに」
「ああ、了解した」
「先に倒してしまっても構わないよ」
「……わかった」
元仲間を説得する猶予は三日。マリムは言外にそう告げていた。
戦時中は中隊まで組織されていたらしいが、今となってはそこまでの人数が残っていない。現在のゼイラム騎士団は、十数人規模の小隊が五隊とふたつの独立小隊で構成されている。
独立小隊とは、人になる剣を持った者達のことだ。元々は特別な存在になってしまったレミルナのための立場として設立されたそうだ。彼女がこの手の場にても不自然にならないようにという、マリムの配慮だった。
結果としてリュールとブレイダも、それに準じた扱いをされるようになっていた。
軍議室となっている広間には、十人の男女が並べられた椅子に腰を下ろしている。
マリム、五人の小隊長、レミルナとレピア、そしてリュールとブレイダ。皆、顔を見知った相手達だ。
「集まってくれてありがとう。レミィが目を覚ましてくれてね。本当によかった」
マリムの言葉は嘘偽りがない本心のようだった。寝間着から騎士の制服に着替えたレミルナは、素早く立ち上がる。
「ご心配、ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだよ」
生真面目に応えるレミルナに向かい、マリムが労う。他の隊長達も、気安い言葉で彼女の快復を喜んでいた。命を預け合った戦友達の姿は、リュールに眩しく映った。
「さて本題だ」
その一言で、和やかだった空気が一瞬にして引き締まる。まさに、歴戦の勇士だ。
「昨晩レミィから話が聞けてね、先日のリュールからの報告と併せて、ようやく全体が把握できてきたよ」
リュールは無表情を崩さないことに必死だった。少しでも油断すれば、苦笑いが出てしまいそうだ。横に座るブレイダは、露骨にそんな顔をしていた。リュールにしか聞こえないような声で「スカしは何をやっていたんですか……」と呟いているのが聞こえてきた。
気を利かせて二人にしたつもりが、状況報告をさせていたとは。職務と信念に従うのもいいが、それも時と場合があるような気がしてしまう。
根が傭兵であるリュールは、その辺りの使命感というものが薄い。良くも悪くも、戦いの中では感情や感覚を優先する傾向にある。
「魔獣を作り出すと言う黒い武器、あれは人の死骸にも有効みたいだ。そして、すぐ近くには大量の材料が眠っている」
リュールは騎士団と合流後、ゴウトから得た情報をマリムへと報告していた。恋愛面はともかく、人格と能力は信頼に値する。リュールは彼をそう評価していた。妙なあだ名で呼んでいるブレイダも、その点で反対意見を唱えることはなかった。
「つまり、このまま魔獣を駆除するだけでは終わらないということだね。いずれ、すり潰されてしまう。前回はレミィと戦った相手が魔獣の製作と指揮をしていたようだ。そうだね? レミィ」
「はい、そう言っていましたし、剣を合わせた時にそう感じました」
マリムはいつものように、口元だけの笑みを浮かべた。恐らく夜のうちに全て聞いたからだろう、敢えて余計な情報は出さないようにしていることがわかった。
あの夜、レミルナと戦っていた女は、傭兵団の生き残りだ。言葉を交わしたことはなかったが、記憶を辿れば見覚えがある。
人になる武器を所持している者の共通点。今はもう疑う余地がない。
「レミィの復帰に伴い、我々は攻勢に転ずることとした。黒い武器を持つ者を追い、拘束する。生死は問わない」
はっきりとした言葉を放つマリムの瞳には、全く迷いがない。やるべきだと判断した意志が宿っているようだった。
「全小隊は準備にかかれ。レミィとの連携も含め、三日で仕上げろ。街の防衛は交代で実施。レミィは例の件も並行してくれ」
各隊長とレミルナ達は立ち上がり、団長に頭を下げた。
「リュールには先行して斥候をしてもらうよ。奴らの居場所がわかるのは君だけだからね。レピアとの位置共有も忘れずに」
「ああ、了解した」
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