愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第5章 魔剣と魔人

第67話「いつまで続くんでしょうね」

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 人型魔獣の血と臓物が、辺りに飛び散り雨のように降り注ぐ。壁の下では毎晩見るようになった異様な光景だ。
 その中心にいるのは、大剣を振るう大男。まるで竜巻のような剣さばきは、群がる魔獣を次々と切り刻んでいく。

『今日はこれで終わりみたいですね』
「だな、ブレイダ」
「お疲れ様でした! ふぅー」

 鞘に収めた剣の名を呼び、リュールは軽く息をついた。隣に立つ少女は、小柄でしなやかな肢体を伸ばす。その動きに合わせ、後頭部で括った銀髪が揺れる。

「もう十日ですね」
「ああ、そうだな」
「いい加減、しつこいです」
「そうだな」

 壁の前での初戦闘以降、リュール達は街の防衛を請け負っていた。毎晩やって来るのは、数体の人型魔獣。時間や回数が日によって異なるため、一晩中見張りに立つ必要があった。

 騎士団が使っていた白く光る剣は、レピアの力を一時的に分け与えたものらしい。マリムは「数年かがりの研究がようやく身を結んだよ」と言っていた。
 しかしそれも、今は使うことができない。肝心のレピアを扱う者がいないからだ。

 その結果、現状で魔獣に対抗できるのはリュールただ一人となっていた。

「いつまで続くんでしょうね」
「いつまでだろうな……」

 リュールは一刻も早くルヴィエを追いかけたかった。しかし、壁の街を魔獣に襲わせるわけにはいかない。この襲撃とも呼べないような魔獣の行動は、明らかに足止めだった。
 リュールとの戦いから逃げ延びたルヴィエとトモル。彼らは何かを目論んでいるはずだ。大きな目的は変わらないだろうから。

「人を滅ぼしたくなるほどの恨みって、なんだろうな」
「んー、そうですねぇ」

 頭の中で何度も繰り返していた疑問だ。リュールの口から明確な言葉として発せられたのは、初めてのことだった。
 ブレイダは歩きながら、丸みのある顎に軽く指を当てる。リュールの剣であることは確かだが、まるで本物の少女のような仕草だった。

「本当は考えたくもありませんが、リュール様のお言葉なので、無理して考えたという前提で聞いてくださいね」
「ああ」
「以前も同じような事を言いましたけども、リュール様が殺されてしまったら、私は恨みます。たぶん、その相手だけでなく、人や世界そのものも」
「そうか……」
「斧のおじさんも同じだったと思います。大切なものを理不尽に失ってしまったのだと」
「そうか」
「はい」

 きっとブレイダの言う通りなのだろう。少なくともゴウトは、人が変わるほどの激情に身を委ねていた。

「それでも、さ」
「はい」
「関係ない人を恨むのは、違うよな」
「そうですね、ふふっ」

 ブレイダが微笑む。可憐と言う言葉は、彼女のためにあるのではないかとすら思えてしまう。
 自分の剣ながら、表情が薄いと自覚のあるリュールとは正反対の存在だ。それが無性に心地よくて、こそばゆい。

「なんだよ」
「たぶん、それがリュール様の強さですね。私はリュール様の剣でよかったです」

 リュールは何も言い返せなくなり、黙った。ブレイダも無理に話すことはしなかった。
 門番に声をかけ、壁の内側へと入る。真夜中の街はひっそりと静まり返っていた。

「リュールさん!」

 男の声が静寂を破った。騎士団との付き合いの中で、もはや聞き慣れてしまっていた。

「ん? こんな夜中にどうしたんですか、パシリ」
「そろそろ名前で呼んでもらえないかな」
「パシリはパシリですよ」
「で、どうしたんだ? ザムス」
「リュールさん! ありがとう!」
「いいから要件を言え」

 ブレイダから酷いあだ名をつけられているザムスは、騎士団では小隊長を務めている程の男だ。彼が伝令に来るということは、それなりに重要な要件なのだと想像できる。

「レミルナが目を覚ましたんだよ!」

 その朗報に、リュールとブレイダは顔を見合せた。
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