愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第4章 仲間殺し

第66話『レミィ!』(第4章 仲間殺し 完)

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 巨大な壁が視界に入る頃、日は完全に落ちてしまっていた。既に騎士団と魔獣の戦闘は始まっているかもしれない。リュールは自分の甘さに歯噛みした。

『リュール様……』
「大丈夫だ」

 剣に心配されるほど弱っている。この事実は認めなければならない。その上で、リュールにはやるべきことがある。
 全力で走れば、壁までは大した距離ではない。さほど間を置かずに、松明に照らされた複数の人影を視認することができた。
 壁の中に籠らずに打って出るのは、リュールにとっては好ましい。街の人々を危険に晒すのを避けたいという意志が垣間見えるからだ。
 
「始まってるな」
『はい。斬ってやりましょう!』
「ああ!」

 戦場となっている壁の下では、魔獣一体に二人以上の兵士が対峙している。これはマリムの指示だろう。今のところ、なんとか拮抗できている様子だ。
 しかし、いくら人の形をしているとはいえ、魔獣は魔獣だ。屈強な騎士団であっても、一度崩れれば簡単に蹴散らされてしまう。リュールは、一刻も早く加勢する必要を感じていた。

 まずは弓兵の排除だ。主戦場から離れて弓を引き絞る魔獣は十体程度。人も魔獣も関係なく矢を放っていた。

「ふっ!」

 すれ違いざま、ブレイダを横に振り抜いた。腰から上下に分割された魔獣が吹き飛ぶ。
 足を止めている暇はない。魔獣の間を駆け抜けながら、最軽量のブレイダを振り回した。
 確実に致命傷を与えつつ、最小限の動きを意識する。矢を射る猶予など、与えるつもりはなかった。

「よし!」
『さすがです!』

 首を切り落とした魔獣を蹴り飛ばし、周囲を確認する。弓を持った魔獣はこれで最後のようだ。

「リュールさんが来たぞ!」

 槍を持った魔獣に剣を突き刺しながら、団員のひとりが叫んだ。その剣はうっすら白く光って見えた。
 その者だけではない。リュールの到着に歓声をあげる彼らの武器は全て、同じ輝きを放っている。

『あれ、レピア姉さんの感覚がします。少しだけだけど』
「そういうことか、マリム」
『あいつは優秀なスカしですね』
「そうだな」
『現場に出てこないのにも好感が持てます』
「指揮官らしくて良いな」

 這い寄ってきた魔獣の頭を串刺しにしつつ、リュールは頷いた。想定していたよりも、事態は悪くない。部分的には騎士団の方が優勢にも見えた。
 強くとも人の範疇であるゼイラム騎士団が魔獣と拮抗できるのは、それがあるからだ。リュールは改めてマリムの手腕に舌を巻いた。

「リュールさん、こっちはいい! レミルナを!」
「レミルナがどうした?」
「あっちだ! 急いでくれ!」

 混戦の中、魔獣の血と臓物に塗れた騎士がリュールに駆け寄った。その言動から、相当に緊迫した状況が伝わってくる。
 男の指差す先に目を凝らすと、ふたつの人影が剣を交えていた。ひとつはレピアを持ったレミルナだ。
 そしてもうひとつ、レミルナと似た体格の女。その左手には、黒紫の刺突剣が握られていた。

『黒い剣です!』
「ああ!」

 激しい剣戟は、レミルナが若干の劣勢に見える。誰も助けに行かないのは、人を超えた戦いに巻き込まれないようにするためだろう。割って入ることができる者は、この場にリュールしかいない。
 行く手を阻む魔獣を切り伏せ、リュールはレミルナの元へ向かう。だが、ほんの一瞬だけ、遅かった。

『レミィ!』
「レミルナ!」

 二本の刺突剣が交錯し、互いの左胸に突き刺さった。血に塗れた白と黒の刃が、それぞれの背中から覗く。
 二人の女は抱き合うようにして、ゆっくりと戦場に倒れた。


第4章 仲間殺し 完
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