愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
68 / 86
第4章 仲間殺し

第65話『行きましょう』

しおりを挟む
 目は良く見え、耳や肌や鼻は良く感じ、身体は良く動く。二人の手練を前にしても、リュールは負ける気がしなかった。本気で命を奪おうと思えば、ブレイダを二振りすれば済んでしまうだろう。
 ただ、本音としては、彼らと話がしたかった。人を恨む理由、これまでしてきたこと、今からでも引き返せないのか。聞きたいことと言いたいことが山のようにある。

 そして、今のリュールには時間がない。ゴウトが放った人型魔獣は、壁の街へ向かっている。
 恐らくはそれなりの数が揃っているだろう。レミルナと騎士団の連中だけでは分が悪いと予想していた。
 だから、頭を下げ懇願した。起き上がったルヴィエが、眉を吊り上げ声を荒らげた。

「おい! 何のつもりだよ!」
「俺は、街に行かねばならない」
「じゃあ、さっさと殺せばいいだろう!」

 ルヴィエの剣がリュールに向かう。先程と同じように、ブレイダで迎え撃つ。

『ルヴィエ様を愚弄するな!』
『そちらこそ、リュール様に迷惑かけないでください!』

 縦に横に振られる黒紫の剣撃。リュールは、その全てを受け止め、受け流した。ルヴィエの顔は焦りで歪んでいた。
 攻撃を捌きつつ、横目でトモルの様子を確認する。槍を構え、介入する隙を窺っているようだった。 

「こっちを、見ろよ!」
「ふっ!」

 ルヴィエが繰り出したのは、力任せに叩きつけるような一撃だった。白と黒の剣が激突し、周囲の空気を揺らす。
  
『うあっ……!』

 ルヴィエの剣が悲鳴をあげた。ブレイダと同じく幅広の剣身に、大きく亀裂が走っている。

「くそっ!」

 折れかかった剣を再度振り上げ、力を込めた。リュールの目には、正常な判断力を失っているように見えていた。

「死ね!」

 リュールはブレイダで受け止める事をしなかった。右手にブレイダを下げたまま、一歩前に出る。剣の間合いの内側に入り、振り下ろされる直前の腕を掴んだ。

「もう、やめてくれ」
「なんだと!?」
「剣が、折れてしまう」
「な……」

 リュールの言葉で初めて気付いたようだった。傷付いた剣を目にしたルヴィエの全身が震え出す。

「このまま引いてくれ」
「ひ、引けるかよ!」
「なら、折るしかない」
「ぐっ……」

 我を忘れていたルヴィエの瞳に、少しずつ冷静さが戻ってきた。今ならば話ができるかもしれない。
 赤から紫に変わりつつある空を見て、リュールの心は揺れた。少しだけなら、時間はあるのではないか。

「話を聞かせてくれ」
「話、だと?」

 掴んだ腕から次第に力が抜けていく。街は気になるが、この機会はどうしても逃したくなかった。

「あの後、お前に何があった?」
「俺は……」

 ルヴィエが口を開きかけた瞬間、リュールは軽く後方に仰け反った。二人の間に、鋭い槍撃が通過していた。

「おっと、俺を忘れるなよ」
「ちっ!」

 リュールの胴を目掛け、槍が突き出される。間を置かずに計六回。絶妙に位置をずらした攻撃には、大きく避けざるを得なかった。
 ルヴィエの腕を放し、軽く距離を取る。文字通りの横槍だ。この状況で無視はできない。

「トモル、邪魔をしないでくれ」
「弱った大将は守らないとな」
「大将?」
「おっと口が滑った。ここはお前の要求通り引くよ。見逃してくれるんだろ?」

 軽口を叩きつつも、槍の構えは解かない。リュールを牽制しつつ、ルヴィエを肩に担ぐ。

「街に行けよ。どうせお互い居場所はわかるんだ。また会おう」

 トモルはそのまま身を翻し、闇に染まりつつある平原に消えていった。去り際の一言で、リュールは彼らを追うことができなくなっていた。

『リュール様……行きましょう』

 未練を払うように、ブレイダを軽く振る。刃が空を斬る音が、小気味良く耳に入ってきた。

「ああ、行くぞ」
『はい!』

 愛剣を手に、リュールは再び走り出した。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...