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第4章 仲間殺し
第65話『行きましょう』
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目は良く見え、耳や肌や鼻は良く感じ、身体は良く動く。二人の手練を前にしても、リュールは負ける気がしなかった。本気で命を奪おうと思えば、ブレイダを二振りすれば済んでしまうだろう。
ただ、本音としては、彼らと話がしたかった。人を恨む理由、これまでしてきたこと、今からでも引き返せないのか。聞きたいことと言いたいことが山のようにある。
そして、今のリュールには時間がない。ゴウトが放った人型魔獣は、壁の街へ向かっている。
恐らくはそれなりの数が揃っているだろう。レミルナと騎士団の連中だけでは分が悪いと予想していた。
だから、頭を下げ懇願した。起き上がったルヴィエが、眉を吊り上げ声を荒らげた。
「おい! 何のつもりだよ!」
「俺は、街に行かねばならない」
「じゃあ、さっさと殺せばいいだろう!」
ルヴィエの剣がリュールに向かう。先程と同じように、ブレイダで迎え撃つ。
『ルヴィエ様を愚弄するな!』
『そちらこそ、リュール様に迷惑かけないでください!』
縦に横に振られる黒紫の剣撃。リュールは、その全てを受け止め、受け流した。ルヴィエの顔は焦りで歪んでいた。
攻撃を捌きつつ、横目でトモルの様子を確認する。槍を構え、介入する隙を窺っているようだった。
「こっちを、見ろよ!」
「ふっ!」
ルヴィエが繰り出したのは、力任せに叩きつけるような一撃だった。白と黒の剣が激突し、周囲の空気を揺らす。
『うあっ……!』
ルヴィエの剣が悲鳴をあげた。ブレイダと同じく幅広の剣身に、大きく亀裂が走っている。
「くそっ!」
折れかかった剣を再度振り上げ、力を込めた。リュールの目には、正常な判断力を失っているように見えていた。
「死ね!」
リュールはブレイダで受け止める事をしなかった。右手にブレイダを下げたまま、一歩前に出る。剣の間合いの内側に入り、振り下ろされる直前の腕を掴んだ。
「もう、やめてくれ」
「なんだと!?」
「剣が、折れてしまう」
「な……」
リュールの言葉で初めて気付いたようだった。傷付いた剣を目にしたルヴィエの全身が震え出す。
「このまま引いてくれ」
「ひ、引けるかよ!」
「なら、折るしかない」
「ぐっ……」
我を忘れていたルヴィエの瞳に、少しずつ冷静さが戻ってきた。今ならば話ができるかもしれない。
赤から紫に変わりつつある空を見て、リュールの心は揺れた。少しだけなら、時間はあるのではないか。
「話を聞かせてくれ」
「話、だと?」
掴んだ腕から次第に力が抜けていく。街は気になるが、この機会はどうしても逃したくなかった。
「あの後、お前に何があった?」
「俺は……」
ルヴィエが口を開きかけた瞬間、リュールは軽く後方に仰け反った。二人の間に、鋭い槍撃が通過していた。
「おっと、俺を忘れるなよ」
「ちっ!」
リュールの胴を目掛け、槍が突き出される。間を置かずに計六回。絶妙に位置をずらした攻撃には、大きく避けざるを得なかった。
ルヴィエの腕を放し、軽く距離を取る。文字通りの横槍だ。この状況で無視はできない。
「トモル、邪魔をしないでくれ」
「弱った大将は守らないとな」
「大将?」
「おっと口が滑った。ここはお前の要求通り引くよ。見逃してくれるんだろ?」
軽口を叩きつつも、槍の構えは解かない。リュールを牽制しつつ、ルヴィエを肩に担ぐ。
「街に行けよ。どうせお互い居場所はわかるんだ。また会おう」
トモルはそのまま身を翻し、闇に染まりつつある平原に消えていった。去り際の一言で、リュールは彼らを追うことができなくなっていた。
『リュール様……行きましょう』
未練を払うように、ブレイダを軽く振る。刃が空を斬る音が、小気味良く耳に入ってきた。
「ああ、行くぞ」
『はい!』
愛剣を手に、リュールは再び走り出した。
ただ、本音としては、彼らと話がしたかった。人を恨む理由、これまでしてきたこと、今からでも引き返せないのか。聞きたいことと言いたいことが山のようにある。
そして、今のリュールには時間がない。ゴウトが放った人型魔獣は、壁の街へ向かっている。
恐らくはそれなりの数が揃っているだろう。レミルナと騎士団の連中だけでは分が悪いと予想していた。
だから、頭を下げ懇願した。起き上がったルヴィエが、眉を吊り上げ声を荒らげた。
「おい! 何のつもりだよ!」
「俺は、街に行かねばならない」
「じゃあ、さっさと殺せばいいだろう!」
ルヴィエの剣がリュールに向かう。先程と同じように、ブレイダで迎え撃つ。
『ルヴィエ様を愚弄するな!』
『そちらこそ、リュール様に迷惑かけないでください!』
縦に横に振られる黒紫の剣撃。リュールは、その全てを受け止め、受け流した。ルヴィエの顔は焦りで歪んでいた。
攻撃を捌きつつ、横目でトモルの様子を確認する。槍を構え、介入する隙を窺っているようだった。
「こっちを、見ろよ!」
「ふっ!」
ルヴィエが繰り出したのは、力任せに叩きつけるような一撃だった。白と黒の剣が激突し、周囲の空気を揺らす。
『うあっ……!』
ルヴィエの剣が悲鳴をあげた。ブレイダと同じく幅広の剣身に、大きく亀裂が走っている。
「くそっ!」
折れかかった剣を再度振り上げ、力を込めた。リュールの目には、正常な判断力を失っているように見えていた。
「死ね!」
リュールはブレイダで受け止める事をしなかった。右手にブレイダを下げたまま、一歩前に出る。剣の間合いの内側に入り、振り下ろされる直前の腕を掴んだ。
「もう、やめてくれ」
「なんだと!?」
「剣が、折れてしまう」
「な……」
リュールの言葉で初めて気付いたようだった。傷付いた剣を目にしたルヴィエの全身が震え出す。
「このまま引いてくれ」
「ひ、引けるかよ!」
「なら、折るしかない」
「ぐっ……」
我を忘れていたルヴィエの瞳に、少しずつ冷静さが戻ってきた。今ならば話ができるかもしれない。
赤から紫に変わりつつある空を見て、リュールの心は揺れた。少しだけなら、時間はあるのではないか。
「話を聞かせてくれ」
「話、だと?」
掴んだ腕から次第に力が抜けていく。街は気になるが、この機会はどうしても逃したくなかった。
「あの後、お前に何があった?」
「俺は……」
ルヴィエが口を開きかけた瞬間、リュールは軽く後方に仰け反った。二人の間に、鋭い槍撃が通過していた。
「おっと、俺を忘れるなよ」
「ちっ!」
リュールの胴を目掛け、槍が突き出される。間を置かずに計六回。絶妙に位置をずらした攻撃には、大きく避けざるを得なかった。
ルヴィエの腕を放し、軽く距離を取る。文字通りの横槍だ。この状況で無視はできない。
「トモル、邪魔をしないでくれ」
「弱った大将は守らないとな」
「大将?」
「おっと口が滑った。ここはお前の要求通り引くよ。見逃してくれるんだろ?」
軽口を叩きつつも、槍の構えは解かない。リュールを牽制しつつ、ルヴィエを肩に担ぐ。
「街に行けよ。どうせお互い居場所はわかるんだ。また会おう」
トモルはそのまま身を翻し、闇に染まりつつある平原に消えていった。去り際の一言で、リュールは彼らを追うことができなくなっていた。
『リュール様……行きましょう』
未練を払うように、ブレイダを軽く振る。刃が空を斬る音が、小気味良く耳に入ってきた。
「ああ、行くぞ」
『はい!』
愛剣を手に、リュールは再び走り出した。
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