愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第4章 仲間殺し

第64話『雪辱を果たしてやります!』

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 日は傾いてきたが落ちてはいない。全力で走れば間に合う距離だ。夜までに壁の街へたどり着けばなんとかなる。群がっているであろう人型魔獣を斬り伏せればいいだけだ。
 ただし懸念もある。魔獣だけでなく、人になる剣を持った者がいる場合だ。ルヴィエでなかったとしても、知っている相手だろうから。

『リュール様』

 何時でも戦えるよう、鞘から出したままのブレイダが話しかけてくる。緊迫した言い回しから、あまり良い知らせではないようだ。

「なんだ?」
『あの人が、こちらに向かっています』
「あいつか?」
『はい。それと、動きから判断しただけですが、一人ではないようです』
「そうか」
『はい、街の少し手前で接触しそうです』

 想像できる限り、最悪の状況だ。ルヴィエだけでも厳しいというのに、他にもいるとは。

「どう思う?」
『突っ切るのは難しいと思います。街で挟み撃ちになるのも危険かと』

 剣に意見を求めるなど、なかなかに滑稽だとは思う。しかし、彼女の言葉はいつも、リュールの思考を整理させてくれる。

「だろうな」
『はい。素早く無力化するのが最善かと』
「やれるか?」
『はいっ! あの時の雪辱を果たしてやります!』

 相棒と意見が合ったリュールは、その場で急停止した。背の低い草が飛び散り、土煙が舞った。

『左後ろ、来ます!』

 ブレイダの声に従い、身体の向きを変える。土煙が徐々に晴れていく。リュールの鋭敏になった感覚は、二人の気配を捉えていた。
 正面に並んで二人。リュールを取り囲むつもりはないようだ。

「よぉ、久しぶりだな」

 ブレイダが感知した相手に向かい、声をかけた。今はもう、友とは呼べなくなった男。

「ああ、久しぶりだ、リュール」

 リュールの目は、大剣を担いだルヴィエを映していた。その横には刺突用の槍を持った男の姿。両者が持つ武器の刃は、黒紫に輝いている。

「そっちは、トモルか」
「よくわかったな、リュール」

 トモルは槍の使い手だった。体格は良くないものの、巧みな槍術を誇っていた。傭兵団では右に出る者がいなかった程だ。
 上昇意識が高く、常に大きな戦果を得ようとしていたことはよく覚えている。機嫌が良い時は、食事や酒を奢ってくれた事もあった。

「忘れはしないさ。今でも感謝してるからな」
「そりゃ嬉しい」

 槍は構えず、短い茶髪の下で笑顔を見せる。相変わらずの童顔だった。しかし、その瞳は暗く澱んでいるように見えた。

「なぁリュール、ゴウトはどうした? 勧誘を頼んでたはずだったけど」
「死んだよ」

 ルヴィエの問いへの答えはひとつだけだ。彼は死んだ。直接手にかけたわけではないが、そのきっかけを作ったのはリュール自身だ。

「お前は、仲間殺しをしたのか」
「そうだよ」
『リュール様じゃ……』
「いいんだ」
「何をごちゃごちゃと」
「ルヴィエ、トモル。俺は、その黒い武器と魔獣を止める」
「そうか、よ!」

 感情に任せるように、ルヴィエは剣を振るった。リュールはブレイダで斬撃を受け止める。

「おいおい、どういうことだよ!」
『ルヴィエ様を止めるなんて』

 困惑するように叫ぶルヴィエを片手で抑えつつ、リュールは軽く身を捻った。先程まで胸があった場所を、槍が通過した。
 
「避けた!?」

 驚愕するトモルを尻目に、目前の無防備な腹を蹴り抜く。黒紫の剣と共にルヴィエは吹き飛び、地面に倒れた。
 同時に、突き出されたままの槍をブレイダで叩く。武器同士が接触した瞬間『ああっ……』と、妙齢に思える女の声が頭に響く。斬れはしないものの、小さく傷が入っているのが確認できた。

「リュ、リュール……」
「おいおい……」
 
 倒れたままのルヴィエと、素早く飛び下がったトモルがこちらを見つめている。
 二人の連携は実に鮮やかだった。しかし、リュールにはその全てが手に取るように把握できていた。

「今は、引かないか?」

 静かに告げたリュールは、構えたブレイダを下ろした。
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