愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第4章 仲間殺し

第62話『やってはいけませんでした!』

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 身体が軽い。金属製の鎧すら重さがないようだ。それでいて、握ったブレイダは確かな重量をリュールの腕に伝えていた。
 似たような感覚になることは以前にもあった。初めて白銀のブレイダを使った時や、ジルを迎撃するため町を駆け抜けた時。ただ、今はそれらとは比べ物にならないほどの何かを感じていた。

「少し、変わったか?」
『いえ、何も』

 主人を叱咤した愛剣は、いつもより落ち着いた様子だった。リュールは頷き、馴染んだ柄を強く握り直した。

「さて、再開できるかな?」
「ああ、待たせたな」
「いつでも来ていいぞ」

 ゴウトがスクアを構える。今度は隙なく守り重視の体勢だ。見え見えの誘いは一回限りということなのだろう。
 向こうからすれば、リュールをここに留めておけばいいのだ。無理に斧槍を振り回す必要はない。

「いくぞ」
『はいっ!』

 リュールは真っ直ぐに踏み込みつつ、ブレイダを振り上げる。ゴウトに勝つには、力でねじ伏せることが最善だと判断していた。
 下手な小細工が通用しないのは自分の左肩が知っている。傷は完全に塞がったが、痛みの名残のような違和感が消えない。

「受けて立とう!」

 唇に笑みを浮かべたゴウトも、タイミングを、合わすようにスクアを頭上に持ち上げた。

「ふっ!」
「はっ!」

 林の中に甲高い金属音が響いた。衝撃に弾かれたブレイダは、一瞬だけ軽くなる。少しでも早く姿勢を整えるための対応だ。愛剣は状況をよく判断してくれている。戦いが終われば褒めてやろうと決めた。
 ただし、それは相手側も同じだった。敵ながら、良い連携だ。狂ってしまっても、戦いに関しては純粋だった。

「ほら、またいくぞリュール!」
「おう!」

 ゴウトに呼応するように、リュールは重さの戻ったブレイダで斬りかかる。少しでも遅れたら、ただでは済まない。それでも、リュールには多少の余裕があった。

 再びの金属音。
 双方が弾かれた武器を再度振るう。角度を変え方向を変え、刃のぶつかる衝撃が木々を揺らした。

「なかなか、やるな」

 何度打ち合ったか数えるのをやめた頃、不意にゴウトが飛び退いた。その理由には薄々勘づいていた。ブレイダを振れば振るほど、ゴウトの動きが遅くなっているように感じた。そうでなければ、自分が速くなっていた。
 あのまま続けば押し勝てていた。リュールの直感は確信に近かった。

「このまま、行かせてくれないか?」

 リュールは構えを解き、最後の願いを告げた。いつの間にか肩で息をしているゴウトとの戦いは、もう先が見えている。

「いや、お前はここに留まってもらう」
「ゴウト……」
「行かさない。こっち側に来るまではな!」

 叫びながらゴウトは、スクアを眼前に掲げた。それを合図に、周囲の人型魔獣が動き出す。それぞれが剣を構え、槍を突き出し、弓に矢を番える。

「使わないんじゃなかったのか?」
「卑怯だが、それが俺の仕事だからな」

 魔獣達は、人間を超えた速度でリュールに迫る。リュールの目と感覚は、その全てを捉えていた。それらの陰に隠れてこちらを狙う、ゴウトの姿も。
 ブレイダを三回振る。群がった二十四体の魔獣と七本の矢は、原型を留めずに飛び散った。
 
 血煙と肉片の間から振り下ろされる斧槍が見える。リュールの知る彼は、こんな手を使うことはなかった。命の取り合いだから正々堂々とはいかなくとも、一定の美学を持っている人だった。

「それだけは!」
『やってはいけませんでした!』

 リュールはブレイダをすくい上げるようにして、スクアを受け止めた。重い金属音と強い衝撃が、耳と腕に伝わる。
 白銀の刃が黒紫の斧を砕く。

「ぬう……!」
『ぐあっ……』

 一人と一振の呻きと共に、ブレイダの剣身はスクアへと深く食い込んでいた。
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