愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第4章 仲間殺し

第59話「動けません!」

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 座ったままのゴウトは、口の中で小さく笑い声を出した。少なくともリュールは、見たことのない姿だった。

「何を企んでいる?」
「聞きたいか?」
「質問を質問で返さないでくれ」

 不敵な笑みを崩さないゴウトに、リュールは苛つきを感じていた。彼に対してこんな気持ちになるのも、初めてのことだった。
 やはり変わってしまった。それは辛い経験からなのか、あの斧槍のせいなのか、リュールにはわからない。

「お前が仲間にならない時のためにな、次の手段を用意しておいた」
「だから、なんのことだ?」
「リュール、お前には、俺達を恨んだ上で死んでもらう」

 その言葉で、リュールは概ね理解できた。従わないのであれば、魔獣にしてしまえばいい。魔獣になるためには、人を恨んで死ぬ必要がある。

「俺を殺したとしても、俺はあんたを恨まないよ。憐れみはするがな」
「それもわかっているよ。だから、用意しておいた」

 ゴウトはゆっくりと立ち上がった。リュールもそれに合わせ、腰を浮かし身構える。

「何をだ? いや、あんた、時間を稼いでるな?」

 ゴウトらしくない、持って回った言い回しはそうとしか思えなかった。リュールと対峙した上で時間を稼ぐ必要がある行為、ひとつだけ心当たりが浮かんだ。

「魔獣か」
「さすがに夜までは無理だったな」
「街を襲ったとしても、俺はそこまで恨まないよ。知らない連中が死んだところで多少不快になる程度だ」

 それはリュールの本心だった。傭兵団が壊滅して以来、人と深く関わらないようにしてきた。よく知る者がいなくなった時の喪失感は辛い。

「それも知っている」
「ならば、あんたの行為は無意味だ」
「いや、そうでもないさ」

 ゴウトは広い肩幅を揺すり、小屋から出ていった。外には斧槍の少女、スクアが待機している。つまり、そういうことだ。
 リュールは腹を括った。小屋から素早く飛び出し、ブレイダの姿を探す。

「リュ、リュール様。申し訳ありません。動けません!」
「意外とやわな小娘だな」

 銀髪の少女は、黒紫の少女に組み伏せられていた。スクアに押さえつけられて、身動きが取れないようだった。人になる武器にとって、力と体格は比例しないようだ。

「これで剣を使うことはできないな」
「あんたがこんな卑怯な手を使うなんてな」
「ああ、目的のためには、何でもするさ」

 精一杯の皮肉は通じなかった。

「さらにもうふたつ、卑怯なことをするぞ」
「ほぅ」
「周りを見てみろ。夜ほどではないけどな、ここは日が当たらない」
「そうかい……」

 リュールは自分の失態を呪う。ブレイダに気を取られて気付くのが遅れてしまった。小屋の周りにを人型の魔獣が取り囲んでいた。

「で、もうひとつは?」
「あの街にな、騎士団を呼んでいる。お前が懇意にしている連中だよ。馬を使えば、今晩にも到着するだろうな。ちょうどあの戦場跡には、騎士を恨んでいる傭兵達が多くいたよ」
「そういうことか……」

 他人が死んでもさほど恨まない。しかし、交流のある者はどうだろうか。マリムやレミルナ、ザムス達の顔が脳裏に浮かぶ。リュールの心臓が高鳴った。

「さて、夜まで語り合おうか」

 ゴウトが地面を蹴り、太い腕を振りかぶる。巨大な拳が、リュールの眼前に迫った。
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