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第4章 仲間殺し
第57話「なんか許せません」
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人型魔獣はどれも、身ぐるみを剥がされた男の姿をしていた。材料になったのは、この辺りに転がっていた傭兵の死体なのだろう。白骨ばかりだったはずが、まるで生きている時のような肉体を持っていた。
積極的に襲ってくる個体とそうでない個体の差が激しかった。人型魔獣の特徴なのかもしれない。それでも、魔獣であるならば全て斬る必要があった。
『終わりです!』
最後の魔獣を斬り倒した時には、空が白みかけていた。
「ゴウトの武器、感じるか?」
『はい、ですが、だいぶ離れてしまいました』
「ルヴィエは?」
『動きなしです』
魔獣の死骸に囲まれながら、リュールは平原に佇む。この場で生きているのはリュールとブレイダだけだった。
武器の反応から考えると、ルヴィエはリュールをおびき寄せる餌だったのだろう。彼らはリュールを仲間に引き入れたいようだ。ただ、やり方があまりにも強引で暴力的だ。
「近いのはどっちだ? ブレイダ」
「斧槍の方です。平原を抜けた林の中です」
「そうか、行くぞ」
「お疲れでは?」
「いや、待ち構える間を与えたくない」
「わかりました。道中お話をさせてください」
ゴウトは夜に待つと言った。そこで全てを説明すると。何かしらの待ち伏せをしようとしているのは明白だ。それを待ってやる理由はない。
少なくともリュールの知るゴウトは、他者を仕向けたり突然武器をふるったりするような男ではなかった。何が彼を変えたのか、一刻も早く確かめたいという気持ちも強い。
「聞かせてくれ。何を感じた?」
「はい、あの斧槍から伝わってきたものがいくつか」
足早に歩く朝の平原は、いつかとほとんど同じ風景だ。違うことと言えば、敵の姿も味方の姿もないということくらいだ。
「人に対する恨みというか憎しみを強く感じました。今まで見た黒紫の武器全てに共通しています」
「恨みか」
「はい。使う人間の感情と繋がっているのだと思います」
「なぜそれがわかった?」
「それは……」
リュールの問に、ブレイダは少しの逡巡を見せた。ずいぶんと人間らしくなったものだと思う。
「言ってくれ」
「はい。あくまでも武器の記憶ですが、あの筋肉おじさんが面倒をみていた孤児院が、傭兵崩れの野盗に襲われたみたいです。全滅でした。それがきっかけで、人を恨むようになったようで」
「孤児院か……ゴウトらしいのかもな」
記憶を思い起こす。確かにゴウトは、傭兵には珍しい優しさを持っていた。戦う相手には容赦しないが、戦意を失った者への攻撃はしなかった。リュールの戦い方も、そこから学んだ部分が多い。
だから、戦後に孤児院の面倒をみていたという事にも、全く違和感がない。どちらかと言うと傭兵よりも向いているのではと思えるくらいだ。
「それが、ああなってしまったと」
「はい。私は私が今の姿になった理由を知りませんが、あの斧槍は何か知っているのかもしれないです。詳しくはわかりませんでしたが。接触したとき、伝えたいものだけを伝えてきたような印象です」
「そんなことができるんだな」
「私より多機能なのは、なんか許せません」
ブレイダは後頭部で括った髪を揺らしながら、的外れな不満を漏らした。彼女のどこか子供のような仕草は、リュールの気持ちを落ち着かせる。
「近いです」
「わかった。ブレイダ」
『はいっ!』
平原が終わり、林の中へと足を踏み入れる。ブレイダの話によれば、スクアという斧槍の少女はこの近くにいる。リュールは周囲を窺いながら、木々の隙間を縫って歩いた。
「せっかちな小僧。ゴウトは夜と言ったのだぞ」
木漏れ日の中、黒紫の髪を三つ編みにした少女が、リュールを睨みつけた。
積極的に襲ってくる個体とそうでない個体の差が激しかった。人型魔獣の特徴なのかもしれない。それでも、魔獣であるならば全て斬る必要があった。
『終わりです!』
最後の魔獣を斬り倒した時には、空が白みかけていた。
「ゴウトの武器、感じるか?」
『はい、ですが、だいぶ離れてしまいました』
「ルヴィエは?」
『動きなしです』
魔獣の死骸に囲まれながら、リュールは平原に佇む。この場で生きているのはリュールとブレイダだけだった。
武器の反応から考えると、ルヴィエはリュールをおびき寄せる餌だったのだろう。彼らはリュールを仲間に引き入れたいようだ。ただ、やり方があまりにも強引で暴力的だ。
「近いのはどっちだ? ブレイダ」
「斧槍の方です。平原を抜けた林の中です」
「そうか、行くぞ」
「お疲れでは?」
「いや、待ち構える間を与えたくない」
「わかりました。道中お話をさせてください」
ゴウトは夜に待つと言った。そこで全てを説明すると。何かしらの待ち伏せをしようとしているのは明白だ。それを待ってやる理由はない。
少なくともリュールの知るゴウトは、他者を仕向けたり突然武器をふるったりするような男ではなかった。何が彼を変えたのか、一刻も早く確かめたいという気持ちも強い。
「聞かせてくれ。何を感じた?」
「はい、あの斧槍から伝わってきたものがいくつか」
足早に歩く朝の平原は、いつかとほとんど同じ風景だ。違うことと言えば、敵の姿も味方の姿もないということくらいだ。
「人に対する恨みというか憎しみを強く感じました。今まで見た黒紫の武器全てに共通しています」
「恨みか」
「はい。使う人間の感情と繋がっているのだと思います」
「なぜそれがわかった?」
「それは……」
リュールの問に、ブレイダは少しの逡巡を見せた。ずいぶんと人間らしくなったものだと思う。
「言ってくれ」
「はい。あくまでも武器の記憶ですが、あの筋肉おじさんが面倒をみていた孤児院が、傭兵崩れの野盗に襲われたみたいです。全滅でした。それがきっかけで、人を恨むようになったようで」
「孤児院か……ゴウトらしいのかもな」
記憶を思い起こす。確かにゴウトは、傭兵には珍しい優しさを持っていた。戦う相手には容赦しないが、戦意を失った者への攻撃はしなかった。リュールの戦い方も、そこから学んだ部分が多い。
だから、戦後に孤児院の面倒をみていたという事にも、全く違和感がない。どちらかと言うと傭兵よりも向いているのではと思えるくらいだ。
「それが、ああなってしまったと」
「はい。私は私が今の姿になった理由を知りませんが、あの斧槍は何か知っているのかもしれないです。詳しくはわかりませんでしたが。接触したとき、伝えたいものだけを伝えてきたような印象です」
「そんなことができるんだな」
「私より多機能なのは、なんか許せません」
ブレイダは後頭部で括った髪を揺らしながら、的外れな不満を漏らした。彼女のどこか子供のような仕草は、リュールの気持ちを落ち着かせる。
「近いです」
「わかった。ブレイダ」
『はいっ!』
平原が終わり、林の中へと足を踏み入れる。ブレイダの話によれば、スクアという斧槍の少女はこの近くにいる。リュールは周囲を窺いながら、木々の隙間を縫って歩いた。
「せっかちな小僧。ゴウトは夜と言ったのだぞ」
木漏れ日の中、黒紫の髪を三つ編みにした少女が、リュールを睨みつけた。
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