愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第4章 仲間殺し

第55話『応戦を!』

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 リュールの名を呼んだ男は、ゆっくりとした足取りで近付いてくる。到着を待たずにこの場を去ることもできた。しかし、リュールの足は動かなかった。

「待っててくれるとはな、嬉しいよ」
「ゴウト……」

 背丈は低く、肩幅が広い。無精髭を生やしたいかつい顔の中で、小さな瞳が優しげに輝く。思わず名を口にしてしまった。リュールに剣の使い方を教えてくれた男は、あの頃と同じ姿をしていた。

「大きくなったな」
「あんたは、そのままだ」
「ああ、確かにな」

 全身を揺らし豪快に笑うのも、変わっていない。変わったのはリュールの方かもしれない。以前の自分は、彼と同じくらいの背丈だった。それが今は、頭ひとつ分見下ろしていた。
 少年時代の思い出が頭をよぎる。当初は雑用として転がり込んだ傭兵団だったが、次第に戦うことを求められていった。農村出身のリュールは、剣を持つもの初めてだった。ジルをはじめとする周囲の大人達は、拙く剣を振るリュールを嘲笑し続けた。
 そんな中、教育係を買って出たのがゴウトだった。後に傭兵団へと入ったルヴィエにも同様に剣の手ほどきをしていた。

 リュールにとって彼は、剣だけでなく傭兵としての師匠だった。ルヴィエと三人、何かしらの絆を感じる存在だと思っていた。
 そのゴウトが、今の前にいる。黒紫の髪を三つ編みにした、黄色の瞳を持つ少女を連れて。

「あんたも、なのか?」
「うん?」
「あんたも、そうなのか?」

 リュールはブレイダを構えゴウトに向けた。質問の回答次第では、このまま愛剣を振らねばならない。違うと言ってほしくても、それはきっと叶わない。

「見ればわかるだろう」

 ゴウトは分厚く大きな掌で黒紫の髪を撫でる。少女が嬉しそうに目を細めた。

「なぜだ? あんたまで」
「ジルから聞いていないようだな。あいつめ、相変わらずやり方が雑だな。リュールを誘えと言われていたはずなのに」
「説明してくれ、頼むから」
『リュール様……』

 自分が悲鳴に近い声をあげていることはわかっていた。それでも、リュールは問いただすしかなかった。

「俺らの目的は、人間の全滅だ。こいつらは生きていたら駄目だからな」
「あんたも、人間だろ」
「ああ、そうだ。だから俺も終わったら死ぬ。こいつに殺してもらうのさ」

 ゴウトは少女を片手で抱き上げる。そして「スクア」と呟いた。

「見ろ、この力で人を滅ぼす」

 少女は柄の長い斧槍へと姿を変えた。傭兵団でも愛用していた武器だ。
 刃は少女時の髪と同じ黒紫。ゴウトは長い柄を器用に回転させ、舞うように構えをとる。遠心力を上手く操っているような動きから、軽くしておらず、見た目通りの重さだと予想出来た。

「だから、なぜだ?」

 ルヴィエの時と同じく、人を滅ぼすという発言の意図がまったくわからない。彼らにとっては決定事項なのだろう。リュールとは会話の前提事項から噛み合っていないようだった。
 リュールの知るゴウトは、見た目に似合わず理性的だった。彼らしくない問答無用な言い回しに、リュールは違和感を覚えていた。ただし、その裏に何があるのかまではわからない。

「お前がどれだけ強くなったか、確かめながら教えてやろう!」

 ゴウトは斧槍を振りかぶった。
 素早く近付いて、力任せの一撃。彼が得意とする戦法だ。下手に受ければ、剣ごと頭をかち割られる。

『リュール様、応戦を!』
「ああ!」

 ブレイダの叫びに応え、リュールは姿勢を低くした。
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