愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第4章 仲間殺し

第54話『私以外はだめですよ!』

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 体を軽く捻り、飛来する矢を回避した。今のリュールでなければ、こうも容易く避けられなかっただろう。狙いの正確さも、矢をつがえる速度も人間離れしていた。それだけで魔獣と断定できるほどの異常さだ。

 今まで見た魔獣はどれも、元にした生き物から見た目に変化がみられた。特に影響が顕著なのが、体の大きさだった。
 ただし、人間を元にした魔獣はどうやら例外のようだ。リュールは自分が殺した相手を、なるべく忘れないようにしている。人の命を奪うならば、せめてそれくらいの責任は持ちたいと考えていた。
 リュールに向け矢を放つ男は、あの日のまま小柄だった。他の者も、大きく変わっている印象はない。

「だけどな」
『また死んでもらいます!』

 片手でブレイダを振り下ろす。右端にいた弓矢の男は、縦に真っ二つとなった。
 仲間が惨殺されても、全く動じる様子はみせない。怨嗟に満ちて濁った瞳で、リュールを見つめるだけだ。

「魔獣だ。やるぞ」
『はいっ!』

 戦いの場では、感情というものは不要だ。判断が鈍れば、身体も鈍る。それは死への近道だ。
 左から短剣、右からは長剣を持った人型魔獣が迫る。身のこなしは隙だらけで、まるで素人だ。しかし、その速さはまともではない。

『リュール様!』
「大丈夫だ」

 まともではないのは、リュールも同じだった。それどころか、人型魔獣以上に人を超えていた。
 
 長剣と短剣の攻撃は、真っ当な人間ならば、簡単に両断されてしまいそうな激しさだった。しかし、リュールとブレイダにはその程度、通用しない。
 右から左に、重さを増したブレイダを振り抜く。
 二体の魔獣はそれぞれ、胴から分断される。ふたつの上半身が、血と腸を撒き散らしながら吹き飛んだ。

 一瞬動きを止めたリュールに向かって、矢が迫る。弓矢を持つ魔獣は、もう一体いる。
 軽く上半身を逸らし、矢を掴み取る。そのまま弓矢の魔獣に投げ返そうと、リュールは振りかぶった。

『だめですよ!』
「ああ、そうか」
『私以外はだめですよ!』
「はいよ」

 矢を地面に落としたリュールの後方から、手斧の魔獣が襲いかかる。見えてはいなかったが、その行動は手に取るように把握できていた。
 振り向くことなく、ブレイダを背中越しに突き出す。次の瞬間、予想通りの手応え。

「おら!」

 そのままブレイダを縦に振った。腹を突き刺された手斧の魔獣がリュールの頭上を経由し、前方に投げ飛ばされる。その先では、弓矢の魔獣が再度矢を放とうとしていた。

「これで」
『終わりです!』

 魔獣同士が衝突した所を目がけ、ブレイダを右上から斜めに振り下ろす。白銀の刃は、なんの抵抗もなく魔獣を斬り裂いた。

「ふう」
『さすがリュール様です!』

 リュールを襲った五体の魔獣は全滅した。人であった頃と同じく、リュールとブレイダの手によって。
 転がる死骸を見て、リュールは恐ろしさを感じていた。さしたる苦戦はしなかったが、それは今の自分達だからだ。ブレイダが人になったばかりの時であれば、全く逆の立場になっていたはずだ。

「人、か……」
『人でしたね』
「こいつは、悪趣味だ」

 魔獣ということは、黒紫の武具を持った者が作り出したということだ。リュールに恨みを持っているであろう五人の野盗を材料にしたのも、それらをリュールに向けたことも、目的があってのことだろう。

 他にも人型魔獣が襲ってこないとは限らない。リュールは再度、周囲への警戒を強めた。

「そうか、そうなるか」
『他にもいた、ということですね』

 リュールが投げかける視線の先には、ふたつの人影があった。ずんぐりとした筋肉質の男と、それに寄り添う幼い少女。

「久しぶりだな、リュール」

 男の放つ言葉は、それなりに離れた場所にもよく響いた。懐かしいその声に、リュールは顔をしかめた
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