愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第4章 仲間殺し

第53話『他人の空似でしょうか?』

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 平原はひっそりと静まり返っていた。何度も何度も、たくさんの人間が殺しあった場所だ。動物の姿もない。

「そろそろか?」
『いえ、もう少し先です。でも、ご注意を』

 道端の小石のように転がるのは、白骨化した人の死体。剣や鎧など、金になりそうなものは戦場泥棒によって持ち出されて既にない。
 ぼろぼろの布が辛うじて引っかかっている骨を一瞥し、リュールは歩き続けた。いつ魔獣に襲われてもいいように、警戒は怠らない。

『やっぱり、懐かしいですね』
「ああ」

 人を殺す罪悪感など、とっくの昔に捨て去っていた。リュールの感情を動かすのは、なんとも言えない物悲しさだった。
 割れた骸骨の持ち主は、戦場に何を求めたのだろうか。金か、名誉か、それとも別のものか。彼らの夢は、命と引き換えにしても叶わなかったのだ。

『少なくとも私は、リュール様に使っていただけて、嬉しいですよ』
「そうだな」
『生きたリュール様に今も使っていただけるのは、最高の名誉なのです』
「わかっているよ。大丈夫だ」
『はいっ!』

 剣に励まされる人間はきっと珍しいだろう。リュールは口に軽く笑みを浮かべていた。

『リュール様』
「ああ、五人か」
『はい、恐らく』

 ブレイダと同時に、リュールも気が付いた。後をつけられている。ある程度距離が離れているからか、物音を隠そうとする意思を感じない。常人とは比べ物にならないほど鋭敏になったリュールの聴覚と嗅覚は、その大まかな人数まで把握していた。

「奴らか?」

 まず疑うのは、ルヴィエやジル以外に黒紫の剣を持つ者だ。仮にそうだとしたら、恐らくは知り合いだ。認めたくはないが、これまでの経緯からそう予想せざるを得ない。

『いえ、たぶん違います。動きが雑すぎます』
「だな。奴は?」
『まだ遠いです』
「懸念は先に潰す」
『はい!』

 リュールはブレイダを鞘から外し、身を翻した。真っ黒な外套が翼のように広がった。
 こんな平原では、身を隠す場所はほぼない。下手に迂回せず、最短距離で追跡者に向かう。
 今夜は月明かりも隠れる曇り空。仮に弓矢などの飛び道具を持っていたとしても、狙うのは不可能だ。
 ジルと戦った時のように、伏兵がいる可能性もある。複数の想定をしつつ慎重に、リュールは闇夜を走った。
 
 五人の人影を視界に入れる。身なりからして、傭兵崩れの野盗のようだった。

「妙だな」
『ですね』

 ルヴィエ達に雇われたとも思い浮かんだが、すぐに却下した。奴らが人間と取引するとは思えない。

『リュール様!』
「おう」

 矢が飛んできた。リュールの首を正確に狙っている。ブレイダで弾き落としつつ、前進する。動きを止める要因にはならないものの、違和感が強まる。
 続けてもう一射。微妙に角度が違うことから、別の者が放ったと想定できる。
 矢を再び弾き、リュールは確信した。

「見えているな」
『ですね』

 三度飛来する矢を叩き落としつつ、リュールの夜目は五人の追跡者を完全に捉えた。
  手斧が一人、長剣が一人、短剣が一人、小弓が二人。

「おいおい……」

 ブレイダが人になってすぐ、リュールを襲おうとした野盗と同じ格好、同じ体格をしている。ここまで一致していれば、同一人物と評してしまいたくなる。しかし、彼らはブレイダにより皆殺しにされた。この場に立っているはずがない。

『他人の空似でしょうか?』
「いや、ご本人だろうな」
『ですよね』

 彼らはきっとリュールとブレイダを恨んで死んでいっただろう。ならば、ここ存在している理由はひとつしかない。

 五人の野盗、いや、人型の魔獣はリュールに向け仄暗く揺れる視線を向けた。
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