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第3章 開戦
第49話『さぁ、殺りましょう』
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左肘を固定されたジルは、手首を回し切り付けようとする。しかし、長い腕が災いして短剣はリュールに届かなかった。
「てめぇ!」
「少し待ってろよ」
暴れるジルをなんとか押さえつける。余裕のある口ぶりをしてみたものの、耐えられる時間は長くない。
ブレイダがくせ毛の女を制するのが早いか、リュールが力尽きるのが早いか。勝敗は愛剣に委ねられていた。
「何してやがる! そんなの早く仕留めちまえ!」
「で、ですが……」
「くそ、使えねぇなぁ!」
振り返ったジルは、罵声を吐き出した。そもそも知れていた奴の底は、リュールが思っていたよりも浅かった。
他者に頼るのであれば、覚悟を決めて信じるべきだ。仮に思うような結果が得られなくても、それは自分の選択が間違っていたからに過ぎない。
格闘戦はブレイダが優勢だった。素早い前蹴りが女の腹に突き刺さる。先の掌底が効いているのか、動きが鈍い。
「ちっ! おい、ダーラ!」
苛立ちを隠さず、ジルは何かを叫んだ。想定通りの行動に、リュールは思わずほくそ笑んだ。暴れるジルの力が弱くなる。
「ありがとうよ」
リュールはジルの腕を解放し、身を低くした。頭上を掠めたのは、鋭い回し蹴りだった。攻撃を仕掛けてきたのは、ブレイダと戦っている女と瓜二つの見た目だった。黒紫の髪が直毛のため、少しは区別がつきそうだ。
そのままの姿勢で、リュールは女の軸足を蹴りつけた。体勢が崩れたのを確認し、今度はジルに体当たりをかける。
「ぐぉっ!」
不快なうめき声を発して、細長い男が吹き飛んだ。単純な体格であればリュールの方が有利となる。
人に姿を変える剣は、持ち主の身体能力を向上させる。先程まで拮抗していた要素を手放したのだから、当然の結果だ。
ちょうどその時、ブレイダの後ろ回し蹴りが、相対する女の頭を捉えていた。
「リュール様!」
吹き飛ぶ女には目をやらず、ブレイダは主人の名を呼び駆け寄る。彼女に任せたリュールの判断は正しかった。
「ブレイダ」
『はいっ!』
辛うじて確かな意識で愛剣の名を呼び、なんとか動く左手を突き出した。使い慣れた柄が握られた。
「死ぬかと思った」
『死なせませんよ!』
繋がった右手首の動きを確認しても、全く違和感がない。身体中にみなぎる力といい、この剣は未だに理解できないことだらけだ。
『さぁ、殺りましょう』
「殺らねぇよ。学習したんじゃないのか?」
『あ、あまりにも腹が立って忘れていました』
ジルを死なせてしまっては情報源も消えてしまう。殺すにしても、聞くことを聞いてからだ。
互いに命のやりとりをしているのだから、勝つための手段を講ずるのは当然だ。だからリュールは、ジルに対しさほど怒りを感じていなかった。
ブレイダは怒り心頭のようだが。
「さて、仕切り直しだ。俺の質問に答えるなら命は取らない」
「だ、黙れよ……おい、ダーラ」
ジルはダーラと呼ばれた直毛の女を再び短剣に変え、構えた。もう一方の女も、リュールの背後で起き上がっているようだった。
「うらあぁ! ガーラ!」
雄叫びを上げながらジルが突撃してくる。その手に握られた短剣は、リュールの首を狙う。奴が呼んだ名はもう一本の短剣のことだろう。
「まったく……」
リュールは重みを増したブレイダを、背後から前に向けて振り抜いた。背中側で乾いた金属音が鳴る。リュールにはその企みが手に取るようにわかっていた。
恐らく走って加速をつけた状態で名を呼び、短剣に変えたのだろう。自身の持つ短剣とで挟み撃ちにする魂胆だった、ということだ。
勢いのついたブレイダは、ジルの持つ短剣とかち合った。
『ジル様のため、死……』
ダーラという短剣の刃は、言葉の途中で二つに割れた。
「てめぇ!」
「少し待ってろよ」
暴れるジルをなんとか押さえつける。余裕のある口ぶりをしてみたものの、耐えられる時間は長くない。
ブレイダがくせ毛の女を制するのが早いか、リュールが力尽きるのが早いか。勝敗は愛剣に委ねられていた。
「何してやがる! そんなの早く仕留めちまえ!」
「で、ですが……」
「くそ、使えねぇなぁ!」
振り返ったジルは、罵声を吐き出した。そもそも知れていた奴の底は、リュールが思っていたよりも浅かった。
他者に頼るのであれば、覚悟を決めて信じるべきだ。仮に思うような結果が得られなくても、それは自分の選択が間違っていたからに過ぎない。
格闘戦はブレイダが優勢だった。素早い前蹴りが女の腹に突き刺さる。先の掌底が効いているのか、動きが鈍い。
「ちっ! おい、ダーラ!」
苛立ちを隠さず、ジルは何かを叫んだ。想定通りの行動に、リュールは思わずほくそ笑んだ。暴れるジルの力が弱くなる。
「ありがとうよ」
リュールはジルの腕を解放し、身を低くした。頭上を掠めたのは、鋭い回し蹴りだった。攻撃を仕掛けてきたのは、ブレイダと戦っている女と瓜二つの見た目だった。黒紫の髪が直毛のため、少しは区別がつきそうだ。
そのままの姿勢で、リュールは女の軸足を蹴りつけた。体勢が崩れたのを確認し、今度はジルに体当たりをかける。
「ぐぉっ!」
不快なうめき声を発して、細長い男が吹き飛んだ。単純な体格であればリュールの方が有利となる。
人に姿を変える剣は、持ち主の身体能力を向上させる。先程まで拮抗していた要素を手放したのだから、当然の結果だ。
ちょうどその時、ブレイダの後ろ回し蹴りが、相対する女の頭を捉えていた。
「リュール様!」
吹き飛ぶ女には目をやらず、ブレイダは主人の名を呼び駆け寄る。彼女に任せたリュールの判断は正しかった。
「ブレイダ」
『はいっ!』
辛うじて確かな意識で愛剣の名を呼び、なんとか動く左手を突き出した。使い慣れた柄が握られた。
「死ぬかと思った」
『死なせませんよ!』
繋がった右手首の動きを確認しても、全く違和感がない。身体中にみなぎる力といい、この剣は未だに理解できないことだらけだ。
『さぁ、殺りましょう』
「殺らねぇよ。学習したんじゃないのか?」
『あ、あまりにも腹が立って忘れていました』
ジルを死なせてしまっては情報源も消えてしまう。殺すにしても、聞くことを聞いてからだ。
互いに命のやりとりをしているのだから、勝つための手段を講ずるのは当然だ。だからリュールは、ジルに対しさほど怒りを感じていなかった。
ブレイダは怒り心頭のようだが。
「さて、仕切り直しだ。俺の質問に答えるなら命は取らない」
「だ、黙れよ……おい、ダーラ」
ジルはダーラと呼ばれた直毛の女を再び短剣に変え、構えた。もう一方の女も、リュールの背後で起き上がっているようだった。
「うらあぁ! ガーラ!」
雄叫びを上げながらジルが突撃してくる。その手に握られた短剣は、リュールの首を狙う。奴が呼んだ名はもう一本の短剣のことだろう。
「まったく……」
リュールは重みを増したブレイダを、背後から前に向けて振り抜いた。背中側で乾いた金属音が鳴る。リュールにはその企みが手に取るようにわかっていた。
恐らく走って加速をつけた状態で名を呼び、短剣に変えたのだろう。自身の持つ短剣とで挟み撃ちにする魂胆だった、ということだ。
勢いのついたブレイダは、ジルの持つ短剣とかち合った。
『ジル様のため、死……』
ダーラという短剣の刃は、言葉の途中で二つに割れた。
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