愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
51 / 86
第3章 開戦

第49話『さぁ、殺りましょう』

しおりを挟む
 左肘を固定されたジルは、手首を回し切り付けようとする。しかし、長い腕が災いして短剣はリュールに届かなかった。

「てめぇ!」
「少し待ってろよ」

 暴れるジルをなんとか押さえつける。余裕のある口ぶりをしてみたものの、耐えられる時間は長くない。
 ブレイダがくせ毛の女を制するのが早いか、リュールが力尽きるのが早いか。勝敗は愛剣に委ねられていた。

「何してやがる! そんなの早く仕留めちまえ!」
「で、ですが……」
「くそ、使えねぇなぁ!」

 振り返ったジルは、罵声を吐き出した。そもそも知れていた奴の底は、リュールが思っていたよりも浅かった。
 他者に頼るのであれば、覚悟を決めて信じるべきだ。仮に思うような結果が得られなくても、それは自分の選択が間違っていたからに過ぎない。

 格闘戦はブレイダが優勢だった。素早い前蹴りが女の腹に突き刺さる。先の掌底が効いているのか、動きが鈍い。

「ちっ! おい、ダーラ!」

 苛立ちを隠さず、ジルは何かを叫んだ。想定通りの行動に、リュールは思わずほくそ笑んだ。暴れるジルの力が弱くなる。

「ありがとうよ」

 リュールはジルの腕を解放し、身を低くした。頭上を掠めたのは、鋭い回し蹴りだった。攻撃を仕掛けてきたのは、ブレイダと戦っている女と瓜二つの見た目だった。黒紫の髪が直毛のため、少しは区別がつきそうだ。
 そのままの姿勢で、リュールは女の軸足を蹴りつけた。体勢が崩れたのを確認し、今度はジルに体当たりをかける。

「ぐぉっ!」

 不快なうめき声を発して、細長い男が吹き飛んだ。単純な体格であればリュールの方が有利となる。
 人に姿を変える剣は、持ち主の身体能力を向上させる。先程まで拮抗していた要素を手放したのだから、当然の結果だ。
 ちょうどその時、ブレイダの後ろ回し蹴りが、相対する女の頭を捉えていた。

「リュール様!」

 吹き飛ぶ女には目をやらず、ブレイダは主人の名を呼び駆け寄る。彼女に任せたリュールの判断は正しかった。

「ブレイダ」
『はいっ!』

 辛うじて確かな意識で愛剣の名を呼び、なんとか動く左手を突き出した。使い慣れた柄が握られた。

「死ぬかと思った」
『死なせませんよ!』

 繋がった右手首の動きを確認しても、全く違和感がない。身体中にみなぎる力といい、この剣は未だに理解できないことだらけだ。

『さぁ、殺りましょう』
「殺らねぇよ。学習したんじゃないのか?」
『あ、あまりにも腹が立って忘れていました』

 ジルを死なせてしまっては情報源も消えてしまう。殺すにしても、聞くことを聞いてからだ。
 互いに命のやりとりをしているのだから、勝つための手段を講ずるのは当然だ。だからリュールは、ジルに対しさほど怒りを感じていなかった。
 ブレイダは怒り心頭のようだが。

「さて、仕切り直しだ。俺の質問に答えるなら命は取らない」
「だ、黙れよ……おい、ダーラ」

 ジルはダーラと呼ばれた直毛の女を再び短剣に変え、構えた。もう一方の女も、リュールの背後で起き上がっているようだった。

「うらあぁ! ガーラ!」

 雄叫びを上げながらジルが突撃してくる。その手に握られた短剣は、リュールの首を狙う。奴が呼んだ名はもう一本の短剣のことだろう。

「まったく……」

 リュールは重みを増したブレイダを、背後から前に向けて振り抜いた。背中側で乾いた金属音が鳴る。リュールにはその企みが手に取るようにわかっていた。
 恐らく走って加速をつけた状態で名を呼び、短剣に変えたのだろう。自身の持つ短剣とで挟み撃ちにする魂胆だった、ということだ。

 勢いのついたブレイダは、ジルの持つ短剣とかち合った。

『ジル様のため、死……』

 ダーラという短剣の刃は、言葉の途中で二つに割れた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...